エグゼンプションを「成果に応じた賃金制度」と喧伝することに抗議する声明

2015/4/16

エグゼンプションを「成果に応じた賃金制度」と喧伝することに抗議する声明

 

2015年4月16日

日本労働弁護団会長 鵜飼良昭

1 法律案に関する喧伝

 政府は、2015年4月3日、労働時間規制の適用除外制度(エグゼンプション)の創設を含む労働基準法等の改正法案を閣議決定し国会に上程したが、政府は新たに創設する適用除外制度を「時間ではなく成果に応じて賃金を支払うもの」だと説明している。この政府の誤った説明を受けて、少なくない報道機関が法律案を「時間ではなく成果に応じて賃金を決める制度」であるかのごとく連日報道している。

2 実際は「時間ではなく成果に応じて賃金を決める制度」ではないこと

 しかしながら、この法律案は、「時間ではなく成果に応じて賃金を決める制度」など何一つ含んでいない。制度が新たに設けられた労基法第41条の2は、「労働時間等に関する規定の適用除外」との表題が付され、その名のとおり、制度内容も労働時間規制の適用除外が設けられているだけである。使用者に対して何らかの成果型賃金を義務付ける規定もなければ、それを促すような規定すら含まれていない。法律案に先立ち労政審でまとめられた「今後の労働時間法制等の在り方について(報告)」では、「特定高度専門業務・成果型労働制」との表題が付されていたが、法律案ではもはやその文言さえも消えている。

 当弁護団は、この制度を「時間ではなく成果に応じて賃金を決める制度」と評価することが完全な誤導である旨、労働政策審議会での審議段階から繰り返し意見を述べ、制度内容の正しい理解を説明してきた。現時点でも、政府がこのような誤った説明を繰り返し、国民の間に間違った理解を広げていることに、強く抗議する。

3 法改正の影響に関する誤った喧伝

 報道の中には、法改正が労働者に与える具体的影響に関して、①「成果が適切に評価されて、賃金が上がる」とか、②「成果給になれば、仕事を早く終わらせて家に帰れる」③「成果をあげればよいのだから、時間に縛られず自由な働き方ができる」などと解説し、あたかもこの制度が労働時間短縮、ワーク・ライフ・バランスの実現や女性の活躍促進に資するかのような誤った印象、幻想を与えるものも目立っている。

4 成果の評価は義務づけられていないこと

 しかし、上記のとおり、この制度には「成果に応じて賃金を決める制度」は含まれておらず、この制度によって成果給が導入されるわけではないから、①「成果が適切に評価されて、賃金が上がる」ことにはならないし、その保障もない。さらに言えば、成果型賃金制度の導入は、現行法のもとでも自由に導入でき、現に多くの企業で導入されているので、この制度により成果型賃金制度が可能となるかのような説明は、現行法の理解としても誤っている。

5 無定量な残業命令を拒否できないこと

 また、使用者から命じられる業務を拒否する権利はないから、この制度により時間規制の適用除外となった対象労働者は、無定量な残業命令を拒否することはできなくなる。さらに所定労働時間を自由に設定することすら可能である。

例えば、使用者が、成果を上げた労働者に対し、新たな業務を命じて更なる成果を求めることは自由であるし、そうした事態が横行することは容易に想像される。さらに、所定労働時間を例えば1日13時間とすることも規制されなくなる。

したがって、②「成果給になれば、仕事を早く終わらせて家に帰れるようになる」という理解も、③「成果をあげれば良いのだから、時間に縛られず自由な働き方ができる」という理解も、全く事態を見誤ったものというほかない。

 上記の通り、この制度は、長時間労働を助長し、無定量な残業命令を拒否できない以上今よりも対象労働者に時間に縛られる不自由な働き方を強いることになり、ワーク・ライフ・バランスの実現や女性の活躍を阻害する制度である事は明らかである。

5 結論

 このように、新たな労働時間制度は、単なるエグゼンプションにすぎず、成果型賃金制度とは全く無関係なのである。にもかかわらず、政府がこの制度を「時間ではなく成果で評価される働き方」であると説明することは、完全なる誤りであり、国民を欺く誤導である。そして、一部の報道機関が、その誤りを見過ごし、国民に制度内容について誤解を与える報道を続けていることは極めて遺憾である。

 日本労働弁護団は、エグゼンプションについて「時間ではなく成果で評価される働き方」であるとの誤った喧伝を続ける政府の姿勢に強く抗議するとともに、報道機関に対して、制度内容の正確な報道を行うよう、強く要望する。

以上