外国人家事労働者受入れ問題に関する決議
2014/11/8
外国人家事労働者受入れ問題に関する決議
2014年10月31日,政府は,国家戦略特別区域において,家事支援サービス提供企業に雇用される外国人家事支援人材の受入れる制度を含む国家戦略特別区域改正法案(以下、「法案」という。)を閣議決定した。法案は、「女性の活躍推進、家事支援ニーズへの対応」といった観点から、国家戦略特区において試行的に、地方自治体による一定の管理体制の下、日本人の家事支援を目的とする場合を含め、家事支援サービスを提供する企業に雇用される外国人家事支援人材の入国・在留が可能となるよう検討を進めるとされている。この下で、関西圏国家戦略特区の大阪府区域及び東京圏国家戦略特区の神奈川県区域における受入れが予定されている。
しかし、外国人家事労働者の権利保障を図る制度の検討がなされていないことから、次にあげるような問題がある。
第一に、家事労働者が個人家庭という密室で行われることから虐待等の人権侵害を受けやすいという問題である。実際に外国人家事労働者を受け入れている諸外国においては虐待等の人権侵害の事例が報告されており、このような状況に対処するために2011年6月16日、ILO総会は家事労働条約(ILO189号条約)を採択したが、日本は同条約を批准していない。
第二に、外国人技能実習生の受入れにおいて起こっているのと同様な人権侵害が行われる危険がある。すなわち、送出し国において保証金徴収や違約金契約がなされることで、日本国内における権利主張が事実上抑制されたり、労働契約を解約して他の職場に移る自由が制限されることによって、強い従属的立場におかれたりする可能性があるが、このような問題が発生することを防ぐための制度が検討されているとはいい難い。
第三に、将来、外国人家事労働者には、労基法等の労働諸法令が適用されなくなる可能性がある。すでに外国人家事労働者の受け入れがされている諸外国においては、家事労働者に労働諸法令の適用が排除されている場合が多いが、日本においても、労基法116条2項は、家事使用人への同法適用を排除しており、外国人家事労働者への労働基準法適用が排除される可能性がある。
今回、政府が導入する制度は、家事支援サービス提供企業に雇用される形での受入れのため、労基法適用が前提となっているが(平成11年3月31日基発168号)、今後、個人家庭に直接雇用される形での受入れが認められれば、労基法適用は排除され、最低賃金法等の労働諸法令の多くが適用されなくなり、権利保護のない安価な労働力確保制度として悪用され、人権侵害が多発する可能性がある。
日本労働弁護団は、外国人家事労働者の人権・権利を保障する制度の構築について十分な検討をしないで、国家戦略特区において、拙速に外国人家事労働者を受入れることに強く反対する。
2014年11月8日
日本労働弁護団第58回全国総会