長時間労働を促進する新しい労働時間制度の導入に強く反対する決議
2014/11/8
長時間労働を促進する新しい労働時間制度の導入に強く反対する決議
「日本再興戦略」改訂2014では、「時間ではなく成果で評価される制度」への改革が提言されている。具体的には、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有し一定の年収要件を満たす労働者を対象に、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した新たな労働時間制度が提案されている。そして、このような提案を踏まえ、労働政策審議会で新たな労働時間制度に関する議論が進められている。
しかしながら、現行制度でも、「時間ではなく成果で評価される制度」は導入できるし、多くの職場で既に導入されており、そもそも政府が説明する新制度導入の必要性など存在しないのである。また、現行制度は、労働時間の長さと賃金がリンクした制度でもない(リンクするのは、法外残業分のみである)。政府の提言は、新制度導入の前提となる現行制度の理解について国民を欺いて新制度導入を図ろうとするものであって、極めて欺瞞的である。
そもそも、現行法上、使用者は労働者に対し原則として法定労働時間を超えて労働させてはならず、例外的に法定労働時間を超える労働をさせるには36協定の締結を要求するだけでなく、使用者には残業時間に応じた割増賃金支払い義務を課している。この趣旨は、まずもって、長時間労働を抑止し、労働者の命と健康を守り、ワーク・ライフ・バランスの確保を図ることにある。しかしながら、新制度では、成果を出すために労働者がどれだけ長時間労働をしても、使用者は割増賃金の支払いを免れることになりかねない。これにより、長時間労働を抑制する法律上の歯止めがかからず、過労死・過労自殺がさらに増加することは不可避である。
本年6月20日、この過労死・過労自殺防止のため、過労死等防止対策推進法が制定され、国の責務として過労死等の防止対策を推進することが定められた。にもかかわらず、この新制度は、過労死・過労自殺の最大の要因である長時間労働を助長するもので、過労死等防止対策推進法が定める国の責務と、真っ向から矛盾するものである。本来必要なのは、例えば、労働時間の上限規制、勤務間インターバルの導入、使用者による労働時間把握義務の法定化や割増賃金率のアップなど、長時間労働と健康被害の防止策である。
また、新制度の導入により、法定労働時間規制の法的根拠がなくなり、労働基準監督官が長時間労働を取締れなくなる。取締りを免れるようになれば、長時間労働が助長されるのは必然であろう。
しかも、高年収の労働者においても、長時間過重労働による健康被害が現実に生じている。高い年収の代償として、労働者の命と健康が犠牲になることは許されないのであって、年収要件を課すことに何ら現実的な意味は無い。しかも、ひとたび新制度が制定されれば、その後なし崩し的に年収要件が引き下げられ、適用対象労働者が拡大していくであろう。現に、日本経団連は、2005年6月21日の「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」で、対象労働者の年収を400万円と想定している。
さらに、新制度では、現在は管理監督者であっても免れない深夜労働の割増賃金支払い義務まで免除される。しかし、深夜労働は健康への悪影響から別途支払い義務が課されているのであり、深夜労働の割増賃金支払い義務を除外することは許されない。
日本労働弁護団は、このように労働者の命と健康を重大な危険にさらす新しい労働時間制度に断固として反対し、あらゆる労働組合はもちろんのこと、全国の労働者とその家族、さらには諸団体とも共闘して、この新制度の導入を阻止するために行動していくことを決意する。
2014年11月8日
日本労働弁護団 第58回 総会決議