〔声明〕過労死等防止対策推進法の成立にあたって

2014/6/20

            〔声明〕過労死等防止対策推進法の成立にあたって
                                        
                                                                             2014年6月20日
                                                                                  日本労働弁護団 会長 鵜飼良昭
 本日、参議院本会議において、過労死等防止対策推進法が全会一致で成立した。
 同法は、過労死等防止対策を効果的に推進する責務が国にあることを明記し、地方公共団体や事業主に過労死等防止対策への協力を求め、過労死等防止啓発月間を設けるとしている。また、国が過労死等の調査・研究、過労死等を防止するための国民啓発活動、過労死等の相談体制の整備等を行うものとし、政府に、過労死等防止対策の効果的推進のため、過労死等防止対策の大綱を策定し、日本における過労死等の概要や過労死等防止施策の状況に関する報告書を毎年国会に提出することを義務づけている。
 日本労働弁護団は、2008年11月、第52回総会において「『過労死等防止基本法』の制定と長時間労働の規制強化を求める決議」、2012年11月、第56回総会において「『過労死防止基本法』の早期制定を改めて求める決議」を行い、過労死等を防止するための法律の制定をかねてから求めてきた。今般法制定に至ったのも、長時間労働や過労死・過労自殺が長期社会問題となる中、全国過労死を考える家族の会と過労死弁護団全国連絡会議の呼びかけによって結成された過労死防止基本法制定実行委員会が法律制定に向けて50万を超える署名を集め、数多くの議員要請を行い、院内集会を開き、過労死等の撲滅のための運動や世論が広く喚起されたことによるものであり、日本労働弁護団はその活動に敬意を表する。また、国が法律を制定し過労死等の防止のための一歩を踏み出したことも評価する。
 他方で、法律の名称が「基本法」ではなく「推進法」に止まり、事業主について国の過労死等防止対策への協力義務が規定されるのみで、事業主自身が積極的に過労死等を防止するための安全配慮の措置を取るべき義務が明記されないなど、内容に不十分な点もある。厚労省発表の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」を見れば、労災補償の支給決定件数は、「過労死」など脳・心臓疾患は2年連続で増加、精神障害は過去最高で、この内、自殺(未遂を含む。)に係るものも増加し続けている。我が国における過酷な長時間労働や過労死・過労自殺の問題はますます深刻な事態となっている。政府は、過労死等に関する日本の過酷な現実を直視し、法施行後3年の検討時期までに更なる法制上又は財政上の措置を講じなければならない。
 過労死等防止対策推進法の成立は過労死等の撲滅のためのスタートである。国や地方公共団体、事業主は、過労死等防止のための実効性のある具体的取組を早急に開始し、過労死や過労自殺の根絶に繋げていかなければならない。
 また、政府の産業競争力会議や規制改革会議では、労働時間と賃金の関係を切断し、職務・成果に応じて報酬を支払うとする新しい労働時間制度なるものを始めとして、労働時間法制の規制緩和が財界の要求に基づき労働者側の意見を無視して議論されている。改めて論じるまでもなく、労働時間の量的規制は労働者の健康確保を目的とするものである。労働時間の量的規制を撤廃・緩和し、使用者との契約上の職務や成果が達成されるまで無限に労働に従事させることを許容することは、対象労働者の長時間労働を増大させ、過労死・過労自殺を促進する「過労死促進法」となることは明らかである。
 日本労働弁護団は、政府が日本の労働者の長時間労働や過労死等の現状を直視し、過労死等防止対策推進法と真っ向から矛盾する労働時間規制緩和の議論を直ちに停止して、長時間労働を規制し過労死等を撲滅するための具体的施策の実現を強く求めるものである。