第二東京弁護士会による 有期雇用職員の契約期間上限規制を行う就業規則改定に関する要請書

2013/10/19

第二東京弁護士会による

有期雇用職員の契約期間上限規制を行う就業規則改定に関する要請書

 

第二東京弁護士会

 会長 山岸良太 殿

2013年1019

日本労働弁護団 会長 鵜飼良昭

 

 第二東京弁護士会は、有期雇用職員の契約期間の上限を3年とする就業規則の規定を新設した。改定労働契約法18条の趣旨は、期間の定めのない労働契約に転換することを促進することによって、有期労働契約の濫用的利用を抑止し労働者の雇用の安定を図るところにある。第二東京弁護士会の就業規則改定は、この法改正の趣旨に反し、無期契約への転換を回避するためのもので、有期契約労働者の雇用を不安定にするものである。

 弁護士会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として、有期契約労働者の雇用の安定を図り、法の趣旨に反する脱法的な上限規制を批判するべき立場にあることから、第二東京弁護士会の就業規則改定は極めて遺憾である。

 日本労働弁護団は、第二東京弁護士会に対し、労働契約法改正の趣旨を尊重し、契約期間の上限を3年とする規定を削除し、従来の就業規則に戻すことを要請する。                           

 

 

第1 第二東京弁護士会就業規則一部改正の問題点

 1 本件就業規則改定の内容

第二東京弁護士会は、2013年度第4回常議員会議において本件就業規則を改定した。この改定で、「嘱託職員、パート職員及びアルバイト職員等に関する就業規則」(以下「本件就業規則」という)第6条第2項ただし書として、「正職員から嘱託職員に継続雇用された者を除き、契約期間は通算して3年を超えないものとする。」という規定を新設した。

 2 改正労働契約法の内容と趣旨

   改正労働契約法(2013年4月1日施行)18条1項は「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」と規定している。

   この改正労働契約法18条1項の趣旨は、有期労働契約が5年を超えて更新された場合には、有期契約労働者の申し込みにより期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを設けることによって、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図ることとしたものである。したがって、有期労働契約を5年以上反復更新することが禁止されたと理解するのは誤りである。また、無期転換を免れようとして、通算契約期間到達前に雇止めを行うことは、改正労働契約法19条で実定法化された雇い止め法理により無効になるというべきである。また、通算契約期間到達前に雇止めを行うために、契約期間の上限規制を設けることは、有期労働契約の濫用を防止して、期間の定めのない労働契約に転換することを促進するという改正労働契約法18条の趣旨に反する脱法行為であると言わざるを得ない。

 3 本件就業規則改定の問題点

(1)本件就業規則の改定は、原則として有期労働契約期間が通算して3年を超えてはならないとするものである。このように有期契約期間の上限が通算して3年とされてしまうと、有期雇用職員は、改正労働契約法18条1項にいう「通算契約期間が五年を超える労働者」の要件を充足することができなくなる。第二東京弁護士会は、新設された本件就業規則第6条1項ただし書によって、有期労働契約を期間の定めのない労働契約に転換させる義務を負わないということになり、有期契約労働者の雇用の安定を実現するどころか、雇用の著しい不安定をもたらすことになる。したがって、本件就業規則の改定は、改正労働契約法18条1項の趣旨に反し、同条項の適用を回避する目的でされたものであり、脱法行為と評価せざるをえない。

(2)このように、期間の定めのない労働契約に転換させないために、使用者が5年経過前に有期契約労働者の雇止めを行うという「副作用」は改正労働契約法施行前より懸念されていた。日本労働弁護団としても、このような「副作用」の抑制策として、「5年を超えて期間の定めのない契約に転換することを避けることは使用者の雇止めを正当化する根拠にはなりえない旨を明記すべきである」と提言してきた。

(3)また、日本弁護士連合会も、2012年4月13日付の日本弁護士連合会「有期労働契約に関する労働契約法改正案に対する意見書」(以下「日弁連意見書」という)において、以下の通り「副作用」の指摘とその改善策を提言している。

   「近時雇止め制限法理を潜脱する手段として、有期労働契約に不更新条項を規定し、それを理由に雇止めを正当化しようとする事態が横行している。そこで、雇止め制限法理の趣旨が損なわれないよう、不更新条項を入れる場合は契約を更新しないことの合理的理由が必要である旨を定めるなどの方法により、不更新条項の濫用を防ぐ条項を明文化すべきである。」

   本件就業規則の改定は、有期雇用契約期間が通算して3年を超えてはならないとするものであり、3年を超えて契約を更新しないという一種の「不更新条項」の新設である。これは、日弁連意見書が懸念する労働契約法18条1項の潜脱の手段としての「不更新条項」の新設に他ならない。

   このように本件就業規則の改定は、改正労働契約法18条1項の実効性を強化し、潜脱手段の利用を許さないことを目的とする日弁連意見書の趣旨にも明らかに反するものである。

 

 4 脱法的な契約期間上限規制に対する弁護士会の役割

(1)有期契約労働者の社会問題に対して

有期契約労働者(非正規労働者)は増加し続けており、有期契約労働者の雇用の不安定が社会問題となってから久しい。有期労働契約が反復更新され長期間にわたり雇用が継続されても、あくまで有期労働契約であるとされ、有期契約労働者は、常に雇止めの不安にさらされてきた。有期契約労働者は、雇止めの不安から、年次有給休暇等の正当な権利行使も躊躇せざるを得ないのである。また、雇用の不安定ゆえに将来の職業生活の展望や生活の安定さえも阻害されてきた。

日弁連は、第60回定期総会において、有期契約労働者の問題をはじめとした貧困問題を解決するために、「人間らしい労働と生活を保障するセーフティネットの構築を目指す宣言」を採択している。そして、この日弁連の「宣言」を受けて、第二東京弁護士会は、2009年6月4日付で「人間らしい労働と生活を保障するセーフティネットの構築を目指す宣言」の趣旨を踏まえ、非正規労働者の雇用の維持、その権利擁護のため、労働者派遣法の抜本改正を求める声明を出している。このよう第二東京弁護士会は、自ら非正規労働者(有期契約労働者)の雇用の維持と生活の安定の必要性とそのための具体的方策を主張しているのである。それにもかかわらず、第二東京弁護士会は、本件就業規則改定により、無期契約への転換を回避し、不安定な有期契約労働者を創出しようとしているのである。これは上記第二東京弁護士会自身の主張と真っ向から矛盾するものである。

(2)脱法的契約期間上限規制の動きに対して

   前述のような有期契約労働者の現状を踏まえ、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図るべく、労働契約法が改正され、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換を定める労働契約法18条が新設された。

   しかし、改正労働契約施行前から施行後の現在に至るまで、民間企業などにおいて、就業規則等によって有期雇用契約期間の上限を5年以下に制限する事例が報告されている。これらの事例は、改正労働契約法18条が適用されて無期労働契約に転換されるのを回避することを目的とした脱法行為である。

   法令を遵守し、労働者の権利擁護・労働者の地位向上を推進する立場にある弁護士会は、本来であれば、このような脱法的上限規制の動きを批判すべき立場にある。それにもかかわらず、第二東京弁護士会は、自らが、上記のように明らかに法の趣旨に反し、脱法行為と評価せざるを得ない就業規則の改定を行なったことは、極めて残念なことである。

 

第2 本件就業規則の改正要請

   第1で述べたように、本件就業規則改定で新設された第6条第1項ただし書は、有期労働契約期間が通算して3年を超えてはならないとするものであり、改正労働契約法18条1項の適用回避を目的としたものであることは明らかである。そして、前述したように、本来であれば、脱法的上限規制を阻止すべく批判する立場にある弁護士会が、自ら脱法行為と評価せざるを得ない就業規則の改定をすることは、許されるものではない。

   第二東京弁護士会には、労働契約法改正の趣旨に沿った就業規則とするべく、契約期間の上限を3年とする規定を削除し、従来の就業規則に戻すことを強く要請する。