債権法改正中間試案に対する意見書

2013/6/17

債権法改正中間試案に対する意見書

2013617

日本労働弁護団債権法プロジェクトチーム

幹事長  水口 洋介

はじめに

 

  日本労働弁護団は,労働者・労働組合側にたって労働事件を担当してきた弁護士で組織する団体である(1957年に創立。現会員数は約1600)。現行民法の債権法改正によって,雇用・労働契約に関して大きな影響を生じることが不可避であるため,債権法プロジェクトチームにて検討してきたところである。

 戦後,長期間にわたっての労働判例及び労使交渉の積み重ねによって,労働契約関係の民事的ルールが判例法理及び労使慣行として形成されてきた。また,平成19年に労働契約法が制定され,判例法理の一部が実定法となった。今回の債権法改正によって,これら実務によって形成されてきた労働判例及び労使慣行が変質させられ,労働者の権利が不当に制約ないし後退させることがあってはならない。

 他方,労働者の法的地位及び権利を保護するような内容であれば,その債権法改正に積極的に支持することになる。公正・適正な民事的ルールの設定と労働者保護の観点から,日本労働弁護団債権法改正検討プロジェクトチームとして,下記のとおり,中間試案の項目ごとに簡潔に意見を述べるものである。

第1 法律行為総則

 1 公序良俗

 (2) 相手方の困窮,経験の不足,知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを利用して,著しく過大な利益を得,又は相手方に著しく過大の不利益を与える法律行為は,無効とするものとする。

 

  【意見】

    基本的に賛成する。ただし、新たな公序良俗規定(暴利行為)を定めることは賛成である。しかし,中間試案が,「著しく過大」とすることは要件として厳しすぎる。文言としては,「不当な利益」「不当な不利益」と定めるべきである。

 

第3 意思表示

2 錯誤(民法第95条関係)

 民法第95条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 意思表示に錯誤があった場合において,表意者がその真意と異なることを知っていたとすれば表意者はその意思表示をせず,かつ,通常人であってもその意思表示をしなかったであろうと認められるときは,表意者は,その意思表示を取り消すことができるものとする。

(2) 目的物の性質,状態その他の意思表示の前提となる事項に錯誤があり,かつ,次のいずれかに該当する場合において,当該錯誤がなければ表意者はその意思表示をせず,かつ,通常人であってもその意思表示をしなかったであろうと認められるときは,表意者は,その意思表示を取り消すことができるものとする。

ア 意思表示の前提となる当該事項に関する表意者の認識が法律行為の内容になっているとき。

イ 表意者の錯誤が,相手方が事実と異なることを表示したために生じたものであるとき。

(3) 上記(1)又は(2)の意思表示をしたことについて表意者に重大な過失があった場合には,次のいずれかに該当するときを除き,上記(1)又は(2)による意思表示の取消しをすることができないものとする。

ア 相手方が,表意者が上記(1)又は(2)の意思表示をしたことを知り,又は知らなかったことについて重大な過失があるとき。

イ 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

 

【意見】

 錯誤の規定として,(1)及び,(2)アの規定を設けることは判例の法定化として賛成する。

 しかし,(2)イの不実表示を動機の錯誤の一態様とした場合には,労働契約締結の際にあたって労働者のプライバシーを侵害する次のような大きな問題が生じると思われるので反対する。

 不実表示を動機の錯誤として取消ができるとすれば,使用者が労働者を採用する際に労働者のプライバシーにあたる事項を質問した場合,例えば,労働組合活動歴の有無,学生運動歴や政治的活動歴の有無,妊娠の有無,持病の有無などを質問した場合に,労働者がこれらの事実がないと述べた場合や告げなかったときには,使用者は,この規定に基づいて労働契約の締結を取り消すことができることになる。

 三菱樹脂最高裁判決(昭和481212日大法廷判決・民集27111436)は,思想信条による採用拒否は公序良俗違反にはあたらないとし,使用者が労働者の思想信条などのプライバシーに関することを質問し,調査することも公序良俗違反でないと判示している以上,労働者の告知や不告知などが不実表示となることになりかねない。したがって,使用者のプライバシーに関する質問に対する労働者の応答が不実表示にならないとする法的な手当をしない限り,不実表示を動機の錯誤とする定めを設けることに反対する。

 

第7 消滅時効

1 職業別の短期消滅時効の廃止

民法第170条から第174条までを削除するものとする。

 

【意見】

  短期消滅時効の廃止に賛成する。

  なお,労基法115条は賃金2年となるが,労働者保護規定である労基法により,民法よりも短期の消滅時効を定めるのは矛盾であり,今後,労基法を改正し一般消滅時効と同様にすべきであろう。

 

2 債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点

【甲案】 「権利を行使することができる時」(民法第166条第1項)という起算点を維持した上で,10年間(同法第167条第1項)という時効期間を5年間に改めるものとする。

【乙案】 「権利を行使することができる時」(民法第166条第1項)という起算点から10年間(同法第167条第1項)という時効期間を維持した上で,「債権者が債権発生の原因及び債務者を知った時(債権者が権利を行使することができる時より前に債権発生の原因及び債務者を知っていたときは,権利を行使することができる時)」という起算点から[3年間/4年間/5年間]という時効期間を新たに設け,いずれかの時効期間が満了した時に消滅時効が完成するものとする。

(注)【甲案】と同様に「権利を行使することができる時」(民法第166条第1項)という起算点を維持するとともに,10年間(同法第167条第1項)という時効期間も維持した上で,事業者間の契約に基づく債権については5年間,消費者契約に基づく事業者の消費者に対する債権については3年間の時効期間を新たに設けるという考え方がある。

     

【意見】

 甲案及び乙案に反対し,(注)に賛成する。

 消滅時効を10年とする取扱いは,既に社会に定着している。真の権利者の権利を失わせる結果となる消滅時効期間を短縮する実質的な理由はない。

 

4 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条関係)

民法第724条の規律を改め,不法行為による損害賠償の請求権は,次に掲げる場合のいずれかに該当するときは,時効によって消滅するものとする。

(1) 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき

(2) 不法行為の時から20年間行使しないとき

 

【意見】

(1)(2)とも賛成する。

 

5 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

生命・身体[又はこれらに類するもの]の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については,前記2における債権の消滅時効における原則的な時効期間に応じて,それよりも長期の時効期間を設けるものとする。

(注)このような特則を設けないという考え方がある。

 

【意見】

 賛成する。また,「これらに類するもの」は「人の健康」(身体的健康,精神的健康)への侵害を意味することを明示すべきである。

 また,この場合の長期の時効期間は,発症するまで長期間経過する遅発性の職業病(じん肺,アスベスト,放射線被害等による労災)が多いことから,20年又は30年とすべきである。

 

7 時効の停止事由

時効の停止事由に関して,民法第158条から第160条までの規律を維持するほか,次のように改めるものとする。

 

(6) 当事者間で権利に関する協議を行う旨の[書面による]合意があったときは,次に掲げる期間のいずれかを経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする。

ア 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の[書面による]通知をした時から6か月

イ 上記合意があった時から[1年]

(注)上記(6)については,このような規定を設けないという考え方がある。

 

    【意見】

    当事者間に合意があれば,時効の停止事由とすることが適切である。労使間で交渉によって解決をはかること自体は労使双方が同意している場合も珍しくなく,時効を阻止するだけの理由で敢えて訴訟等を申し立てる無駄を省くことができる。

 

第8 債権の目的

4 法定利率(民法第404条関係)

(1) 変動制による法定利率

民法第404条が定める法定利率を次のように改めるものとする。

ア 法改正時の法定利率は年[3パーセント]とするものとする。

イ 上記アの利率は,下記ウで細目を定めるところに従い,年1回に限り,基準貸付利率(日本銀行法第33条第1項第2号の貸付に係る基準となるべき貸付利率をいう。以下同じ。)の変動に応じて[0.5パーセント]の刻みで,改定されるものとする。

ウ 上記アの利率の改定方法の細目は,例えば,次のとおりとするものとする。

() 改定の有無が定まる日(基準日)は,1年のうち一定の日に固定して定めるものとする。

 () 法定利率の改定は,基準日における基準貸付利率について,従前の法定利率が定まった日(旧基準日)の基準貸付利率と比べて[0.5パーセント]以上の差が生じている場合に,行われるものとする。

 () 改定後の新たな法定利率は,基準日における基準貸付利率に所要の調整値を加えた後,これに[0.5パーセント]刻みの数値とするための所要の修正を行うことによって定めるものとする。

(注1)上記イの規律を設けない(固定制を維持する)という考え方がある。

(注2)民法の法定利率につき変動制を導入する場合における商事法定利率(商法第514条)の在り方について,その廃止も含めた見直しの検討をする必要がある。

(2) 法定利率の適用の基準時等

ア 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,利息を支払う義務が生じた最初の時点の法定利率によるものとする。

イ 金銭の給付を内容とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によるものとする。

(3) 中間利息控除

損害賠償額の算定に当たって中間利息控除を行う場合には,それに用いる割合は,年[5パーセント]とするものとする。

(注)このような規定を設けないという考え方がある。また,中間利息控除の割合についても前記(1)の変動制の法定利率を適用する旨の規定を設けるという考え方がある。

 

      【意見】

   法定利率を変動制や3%として,中間利息を5%とすることは強く反対する。

変動制を導入することにともない,中間利息を年5%に固定化することは被害者の利益に反することになり,到底受け入れられない。

 

第9 履行請求権等

1 債権の請求力

債権者は,債務者に対して,その債務の履行を請求することができるものとする。

 

【意見】

 賛成。債務の履行を求めることの確認する意味がある。例えば,安全配慮義務に基づく請求(マスク支給等)の履行請求を求めることができることになる。

 

10 債務不履行による損害賠償請求権

 1 債務不履行による損害賠償請求権とその免責事由

 (1) 債務者がその債務を履行しないときは,債権者は,債務者に対し,その不履行によって生じた損害の賠償を請求することができるものとする。

 (2) 契約による債務の不履行が,当該契約の趣旨に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,債務者は,その不履行によって生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。

(3) 契約以外による債務の不履行が,その債務が生じた原因その他の事情に照らして債務者の責めに帰することのできない事由によるものであるときは,債務者は,その不履行によって生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。

 

【意見】

 (1)(2)の定めを設けることに賛成する。

 ただし,「契約の趣旨」が[契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯その他の事情に基づき取引通念を考慮して定まる](第8の1)と定めることが前提である。

 

6 契約による債務の不履行における損害賠償の範囲(民法第416条関係)

民法第416条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 契約による債務の不履行に対する損害賠償の請求は,当該不履行によって生じた損害のうち,次に掲げるものの賠償をさせることをその目的とするものとする。

ア 通常生ずべき損害

イ その他,当該不履行の時に,当該不履行から生ずべき結果として債務者が予見し,又は契約の趣旨に照らして予見すべきであった損害

(注1)上記(1)アの通常生ずべき損害という要件を削除するという考え方がある。

(注2)上記(1)イについては,民法第416条第2項を基本的に維持した上で,同項の「予見」の主体が債務者であり,「予見」の基準時が不履行の時であることのみを明記するという考え方がある。

 

【意見】

 (1)については反対しないが,契約による債務不履行に対する損害賠償請求についてのみ損害賠償の範囲の定めを設けることには問題がある。

 上記(1)の定めを設けると,第10の1の(3)(契約以外による債務不履行の損害賠責任)には上記損害賠償の範囲の規定が適用されないことになる。上記の規定が反対解釈されれば,損害賠償の範囲の条項が「契約による債務の不履行に対する損害賠償請求」のみに限定されることになりかねない。

契約以外の債務不履行の損害賠償請求には,元請に対して下請の労働者が安全配慮義務違反に基づき損害賠償請求する事案 (これは契約に基づくものではなく,特別な法律関係に基づく信義則上の損害賠償請求である。),損害賠償の範囲に関して適用される規定がなくなりかねない。

現行最高裁判例では,契約以外による債務不履行の損害賠償責任についても,民法416条が適用ないし類推適用されることとなっている。この最高裁判例に従った法定化をすべきである。 

 したがって,契約以外の債務不履行の損害賠償については,(1)イの「又は契約の趣旨に照らして予見すべき」を,「又は債務の趣旨に照らして予見すべき」と変更して同様に定めるべきである。

 

7 過失相殺の要件・効果(民法第418条関係)

民法第418条の規律を次のように改めるものとする。

債務の不履行に関して,又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して,それらを防止するために状況に応じて債権者に求めるのが相当と認められる措置を債権者が講じなかったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができるものとする。

 

【意見】

   この中間試案については,「又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して」を削除すべきである。

  この中間試案によれば,現行法の「過失相殺」より適用範囲が拡大されることになる。労災事件の場合,被災した労働者は,身体的・精神的・経済的に困窮,困惑している状態にあり,また知識や経験不足により,合理的な損害回避措置をとれないことが多い。にもかかわらず,労働者が損害発生・拡大回避のための相当な措置を行わなかったとして損害額が軽減される根拠規定となることは問題である。

 

14 債権者代位権 及び 第15 詐害行為取消権

    

  【意見】

  従来は,労働者側は,債権者代位権及び詐害行為取消権を活用して,労働債権については事実上の優先弁済を得るために活用してきた。中間試案の定めに改正されれば,労働者側は労働債権回収のために債権者代位権及び詐害行為取消権を活用することができなくなるとして、中間試案に反対する意見がある。

  しかし,他方,総債権者の責任財産の保全をするという債権者代位権及び詐害行為取消権の制度趣旨から見れば,従前の解釈・運用は、法の整合性から問題があることも事実である。労働債権の確保は,本来は先取特権によって優先債権として保護することを通じて確保されるべきであり、中間試案の提案は合理性があるとの意見もある。

  今後、さらに慎重に検討するべきである。

    

17 保証

6 保証人保護の方策の拡充

(1) 個人保証の制限

次に掲げる保証契約は,保証人が主たる債務者の[いわゆる経営者]であるものを除き,無効とするかどうかについて,引き続き検討する。

ア 主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が含まれる根保証契約であって,保証人が個人であるもの

イ 債務者が事業者である貸金等債務を主たる債務とする保証契約であって,保証人が個人であるもの

 

   【意見】

   賛成する。

    情誼等により,必ずしも経済的合理性なく保証債務を負った者が,莫大な支払い義務を負って経済的に破たんするという例が多いことは明らかであり,そのような事態を抑制する規律を設ける必要がある。

    ただし,経営者の範囲については当該事業の業務を執行する者を含むこと,及び,法人の場合には役員(及び,支配株主?(法人であれば「親会社」に該当するだけの株式を保有する株主)を含むことを明確にする。 ※事実上の経営者は?

また,このように改正される場合,被用者の身元保証人について広範な保証責任が残存することは不均衡であり,「身元保証ニ関スル法律」についても所要の改正をするべきである。

 

18 債権譲渡

 1 債権の譲渡性とその制限(民法第466条関係)

   民法第466条の規律を次のように改めるものとする。

  (1)(3)

(4) 上記(3)に該当する場合であっても,次に掲げる事由が生じたときは,債務者は,譲渡制限特約をもって譲受人に対抗することができないものとする。この場合において,債務者は,当該特約を譲受人に対抗することができなくなった時まで(ウについては,当該特約を対抗することができなくなったことを債務者が知った時まで)に譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができるものとする。ア 債務者が譲渡人または譲受人に対して,当該債権の譲渡を承諾したこと。

イ 債務者が債務の履行について遅滞の責任を負う場合において,譲受人が債務者に対し,相当の期間を定めて譲渡人に履行すべき旨の催告をし,その期間内に履行がないこと。

ウ 譲受人がその債権譲渡を第三者に対抗することができる要件を備えた場合において,譲渡人について破産手続開始,再生手続開始又は更生手続開始の決定があったこと。

エ 譲受人がその債権譲渡を第三者に対抗することができる要件を備えた場合において,譲渡人の債権者が当該債権を差し押さえたこと。

 

  【意見】

    ア,イについて賛成するが,ウ,エについて反対する。

譲渡人に倒産手続が開始される前後,また差押えがなされる前後で,譲渡制限特約による債務者の利益保護の必要性は変わらない。また,譲渡制限特約付債権の譲受人は,譲渡人の信用リスクを負っているところ,倒産手続等の偶然の事情によって,譲受人は,譲渡人の信用リスクを負わなくてよくなり,債務者は譲渡制限特約による利益を失うというのでは,不公平であるといわざるをえない。

 

2 対抗要件制度(民法第467条関係) 

(1) 第三者対抗要件及び権利行使要件

  民法第467条の規律について,次のいずれかの案により改めるものとする。

 【甲案】(第三者対抗要件を登記・確定日付ある譲渡書面とする案)

 ア 金銭債権の譲渡は,その譲渡について登記をしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

 イ 金銭債権以外の債権の譲渡は,譲渡契約書その他の譲渡の事実を証する書面に確定日付を付さなければ,債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

 ウ() 債権の譲渡人又は譲受人が上記アの登記の内容を証する書面又は上記イの書面を当該債権の債務者に交付して債務者に通知をしなければ,譲受人は,債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができないものとする。

  () 上記()の通知がない場合であっても,債権の譲渡人が債務者に通知をしたときは,譲受人は,債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができるものとする。

 【乙案】(債務者の承諾を第三者対抗要件等とはしない案)

  特例法(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)と民法との関係について,現状を維持した上で,民法第467条の規律を次のように改めるものとする。

 ア 債権の譲渡は,譲渡人が確定日付のある証書によって債務者に対して通知をしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができないものとする。

 イ 債権の譲受人は,譲渡人が当該債権の債務者に対して通知をしなければ,債権者の地位にあることを債務者に対して主張することができないものとする。

(注)第三者対抗要件及び権利行使要件について現状を維持するという考え方がある。

 

   【意見】

     甲案,乙案に強く反対し,(注)のとおり現状を維持すべきである。

     現行制度で格別の不都合が生じているわけではない。

甲案については,現在の登記制度を前提とした場合,登記手続のコストや,二重譲渡の危険が解消されないといった問題があり,また,乙案については,債務者の承諾を第三者対抗要件とする現行制度の有用性に比して,より有用性が高いとみるべき根拠がない。

 

21 契約上の地位の移転

契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をし,その契約の相手方が当該合意を承諾したときは,譲受人は,譲渡人の契約上の地位を承継するものとする。

(注)このような規定に付け加えて,相手方がその承諾を拒絶することに利益を有しない場合には,相手方の承諾を要しない旨の規定を設けるという考え方がある。

 

【意見】

契約上の地位の譲渡は,譲渡当事者ではない当該契約の他方当事者(相手方)の利害に深く関わるから,他方当事者の承諾を必要とすることは当然である。なお,

このような規定が設けられたからといって,事前の包括的承諾の有効性が肯定されるものではなく,労働分野において個別の承諾が必要である実務(例えば,労働者を転籍させる場合)は変更されないと解すべきである。

()については強く反対する。事業譲渡において,仮に労働条件に変更がない場合であっても,契約上の地位の譲渡が生ずる(使用者が交代する)以上,相手方(労働者)の承諾は当然に必要とすべきである(民法625)

 

26 契約に関する基本原則

 3 付随義務及び保護義務

(1) 契約の当事者は,当該契約において明示又は黙示に合意されていない場合であっても相手方が当該契約によって得ようとした利益を得ることができるよう,当該契約の趣旨に照らして必要と認められる行為をしなければならないものとする。

(2) 契約の当事者は,当該契約において明示又は黙示に合意されていない場合であっても,当該契約の締結又は当該契約に基づく債権の行使若しくは債務の履行に当たり,相手方の生命,身体,財産その他の利益を害しないために当該契約の趣旨に照らして必要と認められる行為をしなければならない。

 

【意見】

  賛成する。

  特に,労働者は一般に,自らは作成に関与できない就業規則によって契約内容を規律されており,労働契約における明示又は黙示の合意のみでは,権利義務関係の均衡を失することもまれではないのであり,労働者の利益を図るための使用者の付随義務が明文で認められることは重要である。

また,労働者は,労務遂行中に災害等に遭い,また,働き過ぎにより脳心臓疾患や精神疾患に罹患する危険性も高いから,使用者に,労働者の生命,身体等を保護する義務が認められることは,労働者が人間らしく働くために非常に重要であり,判例上も確立しているものであるから,保護義務について明文規定を設けることに異論はない。

 

 4 
信義則等の適用に当たっての考慮要素

  消費者と事業者との間で締結される契約(消費者契約)のほか,情報の質及び量並びに交渉力の格差がある当事者間で締結される契約に関しては,民法1条第2項及び第3項その他の規定の適用に当たって,その格差の存在を考慮しなければならないものとする。

(注)このような規定を設けないとの考え方がある。

 

【意見】

   賛成する。

民法が市民生活に関わる基本的なルールを定めるものである以上,格差のある当事者間での契約においては,対等な当事者間の契約とは異なる考慮がはたらくという原則を明確にしておくことは重要である。

労働契約においては,使用者には採用の自由があり,また,就業規則は使用者が作成し,労働契約書も使用者が主導して作成することがほとんどであるから,労働契約も,当事者間に,情報の質及び量並びに交渉力の格差がある当事者間で締結される契約であり,労働契約の解釈おいて労働者保護の解釈の根拠となる。

 

27 契約交渉段階

1 契約締結の自由と契約交渉の不当破棄

契約を締結するための交渉の当事者の一方は,契約が成立しなかった場合であっても,これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし,相手方が契約の成立が確実であると信じ,かつ,契約の性質,当事者の知識及び経験,交渉の進捗状況その他交渉に関する一切の事情に照らしてそのように信ずることが相当であると認められる場合において,その当事者の一方が,正当な理由なく契約の成立を妨げたときは,その当事者の一方は,これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。

(注)このような規定を設けないという考え方がある。

 

【意見】

契約交渉過程は長期間にわたることや,状況が変化することなども多く,相手方の合理的な信頼が生ずることも多いから,それを保護する必要性がある。ことに,労働契約の締結(交渉)の過程においては,いわゆる「就職活動」が行われ,就職希望者は,時間と労力をかけて契約の相手方を一つにしぼっていくのであるから,契約の成立が確実であると信頼するに至った場合の保護の必要性が高く,契約が成立しなかった場合でも,損害賠償責任を認める規定を設けるべきである。

ただし,上記の表現では,立証責任の分配については明確ではなく,仮に,損害賠償請求者において,契約成立が確実であることの信用,及び,信用の相当性だけでなく,契約の成立を妨げたことについて正当理由のないことについてまで立証責任を負うということになれば,請求者の立証の負担が加重となって適切ではなく,条文の体裁については,慎重に検討されるべきである。

 例えば,契約を締結するための交渉の当事者の一方は,契約が成立しなかった場合,相手方が契約の成立が確実であると信じ,かつ,契約の性質,当事者の知識及び経験,交渉の進捗状況その他交渉に関する一切の事情に照らしてそのように信ずることが相当であると認められるときは,これによって相手方に生じた損害を賠償する責任を負うものとする。ただし,その当事者の一方に,契約を成立させなかったこと(契約を締結しなかったこと)について正当な理由のある場合は,この限りではない(損害を賠償する責任を負わない)ものとする。

 

2 契約締結過程における情報提供義務

契約の当事者の一方がある情報を契約締結前に知らずに当該契約を締結したために損害を受けた場合であっても,相手方は,その損害を賠償する責任を負わないものとする。ただし,次のいずれにも該当する場合には,相手方は,その損害を賠償しなければならないものとする。

(注)このような規定を設けないという考え方がある。

(1) 相手方が当該情報を契約締結前に知り,又は知ることができたこと。

(2) その当事者の一方が当該情報を契約締結前に知っていれば当該契約を締結せず,又はその内容では当該契約を締結しなかったと認められ,かつ,それを相手方が知ることができたこと。

 (3) 契約の性質,当事者の知識及び経験,契約を締結する目的,契約交渉の経緯その他当該契約に関する一切の事情に照らし,その当事者の一方が自ら当該情報を入手することを期待することができないこと。

 (4) その内容で当該契約を締結したことによって生ずる不利益をその当事者の一方に負担させることが,上記(3)の事情に照らして相当でないこと

 

【意見】

   反対する(注の考え方に賛成する)。

   一般に使用者には採用の自由があり,労働者の採用にあたって、どのような事情を重視するか,使用者が自由に決めることができる。

   しかし,人間である以上,時に過ちを犯すことはあるのであり,労働者に否定的に評価される事情が存することも少なくない。労働者は、労働契約を締結しなければ生活の糧を得られない従属的立場にある以上,労働者に広く情報提供義務を課すことには慎重でなければならない。

情報提供義務を肯定した場合,労働者としては,使用者が知らない不利益な事情を積極的に告知しなければならない義務を課されることになる。それでは,労働者は困難を強いられることになる。労働者は,後の損害賠償請求あるいは情報提供義務違反による解雇の事態となることを恐れて(例えば,試用期間満了時に解雇された上,再募集費用を損害賠償請求されるような事態が想定される。),不利な事情も広く積極的に告知せざるを得なくなることが危惧される。

 それゆえ,労働契約締結にあたって労働者のプライバシーなどを保護する法的手当が定められない限り,このような民法で一般的な情報提供義務を認めることには反対である。

 仮に設ける場合には、上記の労働者のプライバシーを保護するために、少なくとも(3)については、「その当事者の一方が自ら当該情報を入手することを期待することが相当でないこと」と規範的要素を入れるべきである。

 

28 契約の成立

3 承諾の期間の定めのない申込み(民法第524条関係)

 民法第524条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 承諾の期間を定めないでした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回することができないものとする。ただし,申込者が反対の意思を表示したときは,その期間内であっても撤回することができるものとする。

 

【意見】

 中間試案によれば,労働契約の合意解約,すなわち労働者の辞職願の撤回ができなくなる問題がある。

 労働契約の合意解約の場合に,現行規定及び判例によれば,辞職願(労働契約の解約の申入れをした場合であっても,人事権限を有する者の承諾がない限り,労働者は撤回することができるとされている(判例)。中間試案では,このような解釈が変更される危険が高い。契約締結の場合と,継続的な契約を合意解約する場合には,利害状況が異なる。この点についての手当は,継続的契約の項において提案する。

 仮に,この手当がなされない場合には,現行法を維持すべきである。

 

30 約款

1 約款の定義

約款とは,多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって,それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。

(注)約款に関する規律を設けないという考え方がある。

 

【意見】

 約款の規定を債権法に設けることには賛成する。

 中間試案の定めによれば,就業規則や定型的な雇用契約の書式も約款に含まれることになる。

 なお,就業規則や定型的な雇用契約については,約款の定義から除外するべきとの有力な反対意見もある。この反対意見は,労基法の適用がない就業規則等(労基法上の就業規則制定義務のない使用者の就業規則的文書等)については労契法7条が適用されないことを前提とし、約款規制を排除して、個別合意原則で規律すべきとする。これに対して,個別合意といっても,実際には使用者が優越的な地位にあり一方的に決定されることとなるため,このような場合には,労働契約法7条や,この約款の規制も及ぼすべきとの反論がなされている。

 

2 約款の組入要件の内容

契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意し,かつ,その約款を準備した者(以下「約款使用者」という。)によって,契約締結時までに,相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されている場合には,約款は,その契約の内容となるものとする。

(注)約款使用者が相手方に対して,契約締結時までに約款を明示的に提示することを原則的な要件として定めた上で,開示が困難な場合に例外を設けるとする考え方がある。

 

【意見】

  本文の定めに反対する。(注)の考え方(事前の明示)に賛成する。

   約款の記載内容は,複雑多岐にわたることが通常であり,また,相手方の利益が図られる(制度的)保障があるともいえないため,契約を締結するかについて相手方が十分に検討できる機会が与えられなければならない。

 ただし,就業規則については労契法7条に定めがあり(合理性及び周知性),特別法として就業規則には労契法7条が優先的に適用される。

 

3 不意打ち条項

約款に含まれている契約条項であって,他の契約条項の内容,約款使用者の説明,相手方の知識及び経験その他の当該契約に関する一切の事情に照らし,相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができないものは,上記2によっては契約の内容とはならないものとする。

 

【意見】

   賛成する。

   不意打ち条項は労契法には定めがなく,この部分は一般法の民法が適用される。

  約款の記載内容が契約内容になるとされる場合でも,相手方が,必ず記載内容を十分に検討できることにはなっておらず,相手方に不意打ちとなるような不当な条項については規制される必要がある。

    また,就業規則の合理性のほかに,個々の条項について,不意打ち条項ではないかとの問題は別に残る。したがって,就業規則の合理性(労契法7条)とともに,不意打ち条項の規制をする意義がある。

 

4 約款の変更

約款の変更に関して次のような規律を設けるかどうかについて,引き続き検討する。

(1) 約款が前記2によって契約内容となっている場合において,次のいずれにも該当するときは,約款使用者は,当該約款を変更することにより,相手方の同意を得ることなく契約内容の変更をすることができるものとする。

ア 当該約款の内容を画一的に変更すべき合理的な必要性があること。

イ 当該約款を使用した契約が現に多数あり,その全ての相手方から契約内容の変更についての同意を得ることが著しく困難であること。

ウ 上記アの必要性に照らして,当該約款の変更の内容が合理的であり,かつ,変更の範囲及び程度が相当なものであること。

エ 当該約款の変更の内容が相手方に不利益なものである場合にあっては, その不利益の程度に応じて適切な措置が講じられていること。

(2) 上記(1)の約款の変更は,約款使用者が,当該約款を使用した契約の相手方に,約款を変更する旨及び変更後の約款の内容を合理的な方法により周知することにより,効力を生ずるものとする。

 

【意見】

 賛成する。

 ただし,就業規則の変更については労契法10条に定めがあり,特別法たる同法が優先的に適用される。

 

5 不当条項規制

前記2によって契約の内容となった契約条項は,当該条項が存在しない場合に比し,約款使用者の相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重するものであって,その制限又は加重の内容,契約内容の全体,契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合には,無効とする。

(注)このような規定を設けないという考え方がある。

 

【意見】

 賛成する。

 不意打ち条項規制と同様,不当な内容の条項について,労働契約法には定めがなく,一般法として就業規則や就業規則以外の定型的な雇用契約の書式などにも適用される。

 

32 事情変更の法理

契約の締結後に,その契約において前提となっていた事情に変更が生じた場合において,その事情の変更が次に掲げる要件のいずれにも該当するなど一定の要件を満たすときは,当事者は,[契約の解除/契約の解除又は契約の改訂の請求]をすることができるものとするかどうかについて,引き続き検討する。

ア その事情の変更が契約締結時に当事者が予見することができず,かつ,当事者の責めに帰することのできない事由により生じたものであること。

イ その事情の変更により,契約をした目的を達することができず,又は当初の契約内容を維持することが当事者間の衡平を著しく害することとなること。

 

【意見】

 反対する。

 事情変更の法理は一般論としては,極めて例外的な場合に契約の解除事由として認められる。しかし,中間試案の要件は,緩やかすぎて適切ではない。

 また,契約の解除のほかに,契約の改定の請求もできるとすることは,要件と効果が明確でなはなく,契約の安定性を阻害する。

 雇用・労働契約の分野では,新たに使用者に労働条件変更の手段を付与することになるが,集団的労使関係の枠組みを無視して,民法の一般法にて労働条件変更の法理によって律することは反対である。

なお,事情変更の法理について明文化された場合でも,労働契約の使用者の解約(解雇)についには,労契法16条の派生法理である整理解雇の判例法理が適用されることに留意されるべきである。

 

34 継続的契約

 1 期間の定めのある契約の終了

(1) 期間満了によって終了するものとする。

(2) 上記(1)にかかわらず,当事者の一方が契約の更新を申し入れた場合において,当該契約の趣旨,契約に定めた期間の長短,従前の更新の有無及びその経緯その他の事情を照らし,当該契約を存続させることにつき正当な事由があると認められるときは,当該契約は,従前と同一の条件で更新されたものとみなすものとする。ただし,その期間は,定めがないものとする。

 

【意見】

 賛成する

 ただし,労働契約について労働者側の申込みには労契法19条が適用される。

 

2 期間の定めのない契約の終了

(1) 期間の定めのない契約の当事者の一方は,相手方に対し,いつでも解約の申入れをすることができるものとする。

(2) 上記(1)の解約の申入れがされたときは,当該契約は,解約の申入れの日から相当な期間を経過することによって終了するものとする。この場合において,解約の申入れに相当な予告期間が付されていたときは,当該契約は,その予告期間を経過することによって終了するものとする。

(3) 上記(1)及び(2)にかかわらず,当事者の一方が解約の申入れをした場合において,当該契約の趣旨,契約の締結から解約の申入れまでの期間の長短,予告期間の有無その他の事情に照らし,当該契約を存続させることにつき正当な事由があると認められるときは,当該契約は,その解約の申入れによっては終了しないものとする。

(注)これらのような規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。

 

【意見】

  次の合意解約の申込みの撤回自由を定めることを前提として,賛成する。

継続的契約終了の効果の重大性に鑑みれば,継続的契約の「合意解約の申込み」(例えば,労働契約の合意解約の申入れ,あるいは賃貸借契約の合意解約の申入れ等)については,「相手方が合意解約を承諾するまでは,撤回することができる」とする規定を新たに設けるべきである。

特に,第28の3にて,契約の申込みが撤回できないと定める場合には,労働契約の退職願(合意解約の申し入れ)の撤回が制限されることになるため,継続的契約の合意解約の申込みについては,相手方の承諾がない限り撤回できることを明記すべきである。

 

41 委任

 6 準委任(民法656条関係)

(1) 法律行為でない事務の委託であって,[受任者の選択に当たって,知識,経験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっていると認められるもの以外のもの]については,前記1(自己執行義務),民法651条(委任の解除自由),民法653条(委任者が破産手続開始決定を受けた場合に関する部分を除く)を準用しないものとする。

 

【意見】

 一定の準委任について,自己執行義務や委任の解除自由と規定を準用しないとの考え方には賛成する。特に,雇用契約類似の準委任では,受任者が交渉力等で弱い立場の場合には,委任者の解除の自由は制約されるべきである。

 例えば,医師や弁護士との法律行為でない事務の委託契約は,委任者と受任者との両者間に高度な信頼関係が必要であるため,自己執行義務,解除の自由などが妥当するが,そのような専門家としての高度の信頼関係が必要でない場合にまで,委任の解除自由を準用する必要はないであろう。

 しかし,中間試案の[受任者の選択に当たって,知識,経験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっていると認められるもの]という基準では,エスティティシャンや塾講師契約も,「知識,経験,技能」などによって選択されているものとなり,委任の解除自由が適用・準用されることになってしまう。この区別の基準については,さらに文言を検討すべきであるが,適切な区別が困難と考えられる場合は,準委任については,「やむを得ない事由」がある場合にのみ解除を認めるという条項とすることも検討されるべきである。

 

(2) 上記(1)の準委任の終了について,次の規定を設けるものとする。

ア 期間の定めのない場合には,いつでも解約できる。予告,2週間。

イ 期間の定めのある場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は直ちに契約の解除をすることができる。

ウ 無償の準委任は,いつでも契約を解除することができる。

 

【意見】

賛成する。

 

42 雇用

1 報酬に関する規律(労務の履行が中途で終了した場合の報酬請求権)

(1) 労働者が労務を中途で履行することができなくなった場合には,労働者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとする。

 

【意見】賛成する。

労働者が途中まで履行したにもかかわらず,使用者が報酬を一切支払わず,紛争が生ずることが少なくないことからすれば,明文規定を設けることは重要である。

 

(2) 労働者が労務を履行することができなくなった場合であっても,それが契約の趣旨に照らして使用者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,労働者は,反対給付を請求することができるものとする。この場合において,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを使用者に償還しなければならないものとする。

(注)上記(1)については,規定を設けないという考え方がある。

 

【意見】賛成する。

 「契約の趣旨に照らして使用者の責めに帰すべき事由」という定めは従来の民法5362項の解釈を変更しないものであり,賛成できる。また,反対給付を請求できることについて,解釈論としては異論がなかったが,規定上は必ずしも明確ではなかったため,このような規定とするべきである。

 

2 期間の定めのある雇用の解除(民法第626条関係)

民法第626条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 期間の定めのある雇用において,5年を超える期間を定めたときは,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約を解除することができるものとする。

(2) 上記(1)により契約の解除をしようとするときは,2週間前にその予告をしなければならないものとする。

 

【意見】賛成する。

  労基法が適用される場合には労基法で処理されるが,労基法が適用されない雇用契約について民法に定める意味がある。この場合,終身の間継続する長期契約や,商工業の見習い目的とする雇用を10年とするのも現代においては適切ではない。労基法が適用されない雇用契約においても,5年を経過した後には,いつでも解除できることとし,2週間の予告期間を置くことが適切である。ただし,使用者については,労契法17条が適用されてやむを得ない事由が必要となる。

 

3 期間の定めのない雇用の解約の申入れ(民法第627条関係)

民法第627条第2項及び第3項を削除するものとする。

 

【意見】賛成する。

実務上は,労基法20条が適用されており,事実上2項及び3項は死文化している。労基法が適用されない契約,また労働者側からの解約は2週間の予告期間が必要となる。