独立行政法人通則法改正法案に反対する意見書
2012/6/29
2012年6月29日
日本労働弁護団
幹事長 水口洋介
1 野田内閣は、2012年5月11日、独立行政法人通則法(以下「通則法」という。)を一部改正する法律案(以下「本法律案」という。)を閣議決定した。
本法律案によれば、独立行政法人(以下「独法」という。)を行政法人に名称変更し(第二条)、中期目標行政法人と行政執行法人に二分するとしている。
独法は2001年省庁再編に際して、国の研究機関等が独法に移行し、2003年以降に政府の外郭団体である特殊法人が独法に移行した。これらの移行は、いずれも自民党政権時代に実施された。
そして、民主党政権下においても、制度が10年を経過したことを受けて、2010年に廃止・民営化を含む事務・事業の見直しを行い、続けて制度・組織の見直しとして、この通則法改正を進めている。
政府の説明では、独立行政法人から「独立」を取ったのは、「国の政策を実施することを端的に示すため」としている。しかし、事務・事業の見直しにおいて各省・各法人から「独立」としている現行制度の利点が述べられていたことを無視すべきではない。たとえば、外務省は「現在の独立行政法人制度は、運営費交付金等による弾力的な予算・業務執行、各分野の専門性を生かした行政サービスの質の向上等のメリットがあり、基本的に維持することが妥当である」と現行制度を維持するよう求め、環境省は「柔軟で自律的な運営を実現すべく創設された現行の独立行政法人制度のメリットを活かしつつ」「それぞれの独法の特質や業務の背景となる行政の広がりを踏まえた見直しを」と自律性・自主性を失うことのないよう求めていた。
2 ところが、本法律案は、主務大臣の権限を強め、中期目標行政法人の業務と法人の廃止基準を定めている。すなわち、「各事業年度に係る業務の実績等に関する評価等」(32条)において、主務大臣は自らの評価の結果に基づき、「業務運営の改善その他の必要な措置を講ずることを命ずることができる」として毎年度の業務の廃止基準を示し、「中期目標の期間の終了時の検討」(35条)では、「業務の継続又は組織の存続の必要性その他その業務及び組織の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、業務廃止若しくは移管又は組織の廃止その他の所要の措置を講ずるものとする」と、業務と組織の廃止基準を示している。
問題は、これらの「措置」によって生じる職員らの地位である。本法律案では、これらの「措置」によって生じる職員らの地位の問題につき、「離職」として想定し、50条の4第2項4号及び5号で、再就職のあっせんの例外という形で規定している。そして、ここでの「離職」は、単に自発的意思で職を離れるという意味のみならず、「離職を余儀なくされることが見込まれる」場合をも規定している。
しかしながら、「離職」という文言は、労働契約法上には登場しない文言であり、それが任意の退職のみを指すのか、法人からの退職勧奨によって退職する場合も指すのか、もしくは、その意思に反して解雇される場合も含まれるのか、その意義は一義的に明らかとは言えない。したがって、「離職を余儀なくされる」という文言に、解雇や退職勧奨が含まれるのではないかと職員の雇用不安を煽るものとなっている。これは、職員にとって最も重大な雇用を脅かす内容となっている。
3 そして、仮に「離職を余儀なくされる」に「解雇」が含まれるとすれば、労働契約法等の労働法規が適用されることを明らかにすべきである。中期目標行政法人とその職員との関係は、労働契約であり、民間労働者と同じである。したがって、本法律案50条の4第2項4号及び5号に記載されている「離職を余儀なくされる」場合に「解雇」が含まれるならば、当然に労働契約法16条の適用を受け、さらに、当該解雇が、労働者の責によらない使用者の経営上の都合による解雇であれば、これは整理解雇であるから、判例法理となっている整理解雇法理(①解雇の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④説明協議)の適用を受けることは明らかである。本法律案はこの点につき何ら触れていない。
4 以上のとおり、本法律案は「離職」を「余儀なくされる」場面を前提としている点で、その狙いに労働者を削減し、解雇をも容認すると解される余地がある。にもかかわらず、本法律案は、解雇からの保護を明記していない。このような職員の雇用保障を危うくする本法律案に対して、日本労働弁護団は、その成立に反対するものである。