「有期労働契約の在り方について」(建議)に対する幹事長見解

2012/1/26

「有期労働契約の在り方について」(建議)に対する幹事長見解

 

                                                        2012126

                                                    日本労働弁護団

                       幹事長  水 口 洋 介

【目  次】

 

第1 はじめに  1

第2 「1 有期労働契約の締結への対応」について  2

  1 「労働契約は期間の定めのない契約」との原則の確立を  2

  2 入口規制を見送った建議  2

    入口規制見送りへの批判  2

第3 「2 有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応」について  3

  1 建議の内容  3

  2 利用可能期間を超えて反復更新した労働者の無期転換への法的措置  4

  3 利用可能期間到達前の雇止めの抑制策についての法的措置  5

  4 「クーリング期間」は不要  6

第4 「3 『雇止め法理』の法定化」について  6

  1 建議の内容  6

  2 雇止め法理の適用範囲  7

第5 「4 期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消」について  8

  1 建議の内容  8

  2 「適用する要件」について  8

  3 「処遇の範囲」について  9

  4 「法的効力」について  9

第6 「5 契約更新の判断基準」について  9

第7 「6 1回の契約期間の上限等」について  9

第8 「7 その他」について  10

第9 さいごに  11

 


第1 はじめに

  2010年9月10日に厚生労働省の「有期労働契約研究会」(座長:鎌田耕一東洋大学教授)が「有期労働契約研究会報告書」(以下、「有期研報告書」)を発表したのを受けて、同省労働政策審議会労働条件分科会(分科会長:岩村正彦東京大学教授)は、20111226日に、同省労働政策審議会労働条件分科会が「有期労働契約の在り方について(報告)」(以下、「報告」)をとりまとめ、同日、労働政策審議会(会長:諏訪康雄法政大学教授)は、厚生労働省設置法第9条1項3号の規定に基づき、厚生労働大臣に対して同報告のとおりの建議を行った。

  これまで、日本労働弁護団は、有期研報告書発表前の20091028日に有期労働契約法制立法提言(以下、「立法提言」)を公表した後、2010年4月30日に「有期労働契約研究会中間とりまとめに対する意見」、2011年3月16日には「労働者保護の有期労働契約法制の見直しを求める意見書」、さらには同年12月5日に「労働政策審議会労働条件分科会『有期労働契約に関する議論の中間的な整理について』に対する意見書」 をそれぞれ発表し、有期労働契約者の置かれた実情を踏まえ、労働契約は無期契約を原則とし、有期労働契約を締結するには、合理的な理由が必要とする締結事由規制(入口規制)を行うことを中心とする労働者保護のための実効的な有期労働契約の法規制を求めてきた。

  この度の労働政策審議会の建議は、これまで日本労働弁護団が繰り返し指摘してきた問題点が解消されておらず、有期契約労働者の不安定・低賃金という労働条件を抜本的に変えるには不十分であるばかりか、利用可能期間到達前の雇止めを防止する対策がないなかで、不当な雇止めを誘発するという「副作用」が懸念される内容となっている。

  建議が具体的にどのような法案になるのかは現時点では不明であるが、法案を作成するにあたって、建議の問題点を指摘し、今後の具体的な法案に盛り込むべき必要な法的措置についてとり急ぎ、日本労働弁護団幹事長としての見解を述べることとする。

 今後の法案内容が明らかになった段階で改めて、日本労働弁護団としての見解を表明する予定である。

 

第2 「1 有期労働契約の締結への対応」について

1 「労働契約は期間の定めのない契約」との原則の確立を

  先ず、労働契約が「期間の定めのない契約」(無期)であることを労働契約法に明記すべきである。建議も指摘するように、現在、非正規労働者の割合が増大し、有期契約労働者の雇止めの不安、処遇に対する不満が噴出しており、この不安と不満を抜本的に解消するためには、労働契約は無期が原則であり、有期は例外的な場合であるとの法的ルールを確立することが必要である。

2 入口規制を見送った建議

  ところが、建議は、有期労働契約の締結事由規制(入口規制)については、「例外業務の範囲をめぐる紛争多発の懸念への懸念や、雇用機会の減少の懸念等を踏まえ、措置を講ずべきとの結論には至らなかった」として入口規制導入を見送った。      

  入口規制見送りへの批判

(1) 入り口規制の必要性

  しかし、契約締結事由についての制限を何ら設けないままに、利用可能期間に制限を設けた場合、わが国の有期労働契約が、恒常的な業務に広範囲に用いられている実態から、非正規労働者の拡大に歯止めがかかる効果は乏しい。そして、利用可能期間の上限がくれば、そこで労働者の「入れ替え」が行われるだけに終わり、かえって雇用の安定を欠き労働者の地位を弱めてしまう危険性が高く、入口規制の導入は不可欠である。

(2) 例外業務の範囲について

  この点、建議では、入口規制導入を見送る理由として、「例外業務の範囲をめぐる紛争多発への懸念」を指摘するが、例外業務について具体的な例示規定を定めるなどの立法措置をとることで、その懸念の回避は十分可能である。

  例えば、日本労働弁護団の立法提言では、①休業又は欠勤する労働者に代替する労働者を雇い入れる場合、②業務の性質上、臨時的又は一時的な業務に対応するために、労働者を雇い入れる場合、③一定の期間内に完了することが予定されている事業に使用するために労働者を雇い入れる場合の3つに限定しているが、その例外業務の範囲について格別範囲が不明確となるような場面は想定されない。また、①乃至③について、さらに条文を具体化し、また指針(基準)を設ければ、例外業務の範囲に関する紛争の多発を防止することは可能である。

   仮に「例外業務の範囲をめぐる紛争」が生じたとしても、そこで生じ得る紛争より、「有期研報告書」で指摘された有期労働契約の不合理・不適正な利用という実態を改善するための入口規制導入の方が、労使双方にとって遙かに有意義である。建議が指摘する懸念は、有期労働契約の不合理・不適正な利用の実態に目を背けるものであり、入口規制の導入を見送る理由にはならない。

(3) 雇用機会減少の懸念について

  また、建議では、入口規制導入を見送る理由として「雇用機会の減少の懸念」を指摘するが、有期雇用でなければ雇用の場が与えられないという必然性はなく、かかる懸念にも何ら裏付けはない。仮に、有期雇用によって雇用の場が確保される事情が認められる場合があれば、入口規制の導入にあたって例外的に有期雇用の活用(例えば、満65歳以上の労働者の例外等)を認めれば足りる。したがって、これも入口規制の導入を見送る理由とはならない。

 

第3 「2 有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応」について

1 建議の内容

  建議は、①「有期労働契約の雇用を安定や有期労働契約の濫用的利用の抑制のため、有期労働契約が、同一の労働者と使用者との間で5年(以下「利用可能期間」という。)を超えて反復更新された場合には、労働者の申出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組み(転換に際し、期間の定めを除く労働条件は、別段の定めのない限り従前と同一とする。)を導入することが適当である。」とする。

  また、この無期転換制度の導入と併せて、②「この場合、同一の労働者と使用者との間で、一定期間をおいて有期労働契約が再度締結された場合、反復更新された有期労働契約の期間の算定において、従前の有期労働契約と通算されないこととなる期間(以下「クーリング期間」という。)を定めることとし、クーリング期間は、6月(通算の対象となる有期労働契約の期間(複数ある場合にあっては、その合計)が1年未満の場合にあっては、その2分の1に相当する期間)とすることが適当である。」としている。

  さらに、③「また、制度の運用にあたり、利用可能期間到達前の雇止めの抑制策の在り方については労使を含め十分検討することが望まれる。」とする。

2 利用可能期間を超えて反復更新した労働者の無期転換への法的措置

(1) 無期契約への転換を求める権利があることを明記すべき

 建議は、5年を超えて有期労働契約を反復更新した場合、当該有期契約労働者が無期契約への転換を申し出たときは、期間の定めのない労働契約に転換する仕組みを設けるとしている。この仕組みについては、単なる配慮義務や努力義務ではなく、有期契約労働者が使用者に対して無期労働契約への転換を請求する私法上の権利を有することを明確にする法的措置をとるべきである。

(2) 使用者が不当な干渉をした場合には有期契約の選択を無効とすべき

 また、労働者が使用者の不当な干渉を受けずに、無期への転換を自由意思で請求できる法的措置を講ずるべきである。有期契約労働者は、不安定な地位にあり現実の労使間の交渉力には圧倒的な格差があることから、使用者の不当な干渉によって、有期契約労働者が無期への転換を請求することができなくなる事態が生じる危険性がある。例えば、使用者が、労働者に「有期で反復更新をするように選択をすれば雇用を延長する。しかし、無期転換を請求する場合には雇止めをする。」などと干渉をすることが予想される。このような場合には、ほとんどの有期労働契約者がやむを得ず、無期転換でなく有期契約を選択する結果となろう。これでは、5年を超えた場合に無期契約への転換請求を認めた法の趣旨は没却されることなる。

 そこで、有期契約労働者が無期・有期を選択するにあたって、使用者が不当な干渉をした場合には、いったん有期を選択しても、あらためて無期契約への転換請求ができることを法に明記すべきである。

 

(3) 利用可能期間の上限は3年とすべき

 建議は、「利用可能期間」を「5年」とするが、これでは期間が長期に過ぎる。5年を超えて雇用が継続(反復更新)されなければ、無期に転換しないとすると、本来有期雇用が例外であるべきことが没却され、無期雇用への転換を促進して有期契約労働者の雇用の安定を図ろうとした意義が減殺されることになる。したがって、この期間は労働基準法141項の原則と同じく、3年とすべきである。

(4) 無期転換後の労働条件について

 なお、建議(報告)は、「転換に際し、期間の定めを除く労働条件は、別段の定めのない限り従前と同一とする。」と付記するが、この労働条件の是正については、後述の「期間の定めを理由とする不合理な措置の解消」によって是正できるようにすべきである。

3 利用可能期間到達前の雇止めの抑制策についての法的措置

 利用可能期間を超えて反復更新された場合に労働者の申出により無期に転換する仕組みを導入した場合、無期契約の締結を回避したい使用者が利用可能期間到達前に雇止めをする弊害(副作用)が生じ、今まで長期にわたり反復更新して継続して働いてきた有期契約労働者が失職する事態が生じる危険性が高い。厚労省の実態調査によれば、有期契約労働者のうち、勤続年数が「1~3年以内」は25.7%、「5年~10年以内」が17.8%、「10年超」が11.7%を占めている。このように5年を超えて反復更新されている有期契約労働者は29%を超えているのが現状である。利用可能期間の上限5年が導入されると、従来から長期間にわたり反復更新されてきた有期契約労働者が、法施行後5年経過する前に雇止めされてしまうおそれがある。

 建議は、利用可能期間の上限到達前の雇止めという弊害(副作用)に対する抑制策の必要性を指摘しながら、その抑制策の具体的内容については、「労使を含め十分検討することが望まれる」とするのみで、法的な抑制策をとることを提言していない。しかし、入口規制の導入無しに、利用可能期間到達前の雇止めを抑止する法的措置をとらない場合には、大量の有期契約労働者が雇止めをされてしまう懸念がある。有期労働契約を無期労働契約に転換をして、労働者の雇用の安定を確保し、有期契約労働者の利用可能期間到達前の雇止めを抑止するためには、下記のような抑止策を法的に整備することが必要不可欠である。

【利用可能期間到達を理由に雇止めをした場合には同一事業場及び同一業務で別の新たな有期契約労働者を雇用することを禁止する】

() 使用者が有期契約労働者を利用可能期間到達を理由に雇止めをした場合には、当該有期契約労働者と同一事業場及び同一業務において、新たに別の有期契約労働者を雇用することを禁止する。また、利用可能期間1年前に雇止めをした場合には、利用可能期間到達を理由に雇止めをしたものと推定する。

() 使用者が、上記()の禁止に違反した場合には、雇止めされた有期契約労働者は、使用者に対して、無期労働契約としての継続雇用を請求することができる。

 

4 「クーリング期間」は不要

 建議が求める②「クーリング期間」については、有期労働契約規制の脱法手段として利用される可能性が高い。一定期間をおいて、再度雇用する必要が生じれば、新たに無期契約で雇えばよいだけであるから、このようなクーリング期間を設ける必要もない。

 また、仮にクーリング期間を設けるにしても、原則6月というクーリング期間は、あまりに短すぎる。使用者によるクーリング期間を悪用した有期雇用規制の脱法を誘発することになるので、仮にクーリング期間を設定するにしても、最低でも1年以上とすべきである。

 

第4 「3 『雇止め法理』の法定化」について

1 建議の内容

  建議は、「有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない雇止めについては、当該契約が更新されたものとして扱うものとした判例法理(いわゆる「雇止め法理」)」の制定法化を提言している。

 このような雇止めの判例法理の法定化は、有期雇用契約の労働者に対する当面の雇用の安定を図るために必要であり、評価できる。報告が指摘するとおり、これを、「より認識可能性の高いルールとすることにより、紛争を防止するため、その内容を制定法化し、明確化を図ること」は最低限必要である。

2 雇止め法理の適用範囲

(1) 利用可能期間到達前にも雇止め法理の適用をすべき

  利用可能期間に到達する前であっても、雇止め法理が適用される場合があることも明確にすべきである。上限規制の利用可能期間を「5年」とした場合に、例えば、1年の雇用期間の有期労働契約を1回目、2回目、3回目を更新して、4回目に更新する雇用契約期間が11ヶ月の場合を考える。この場合でも、有期契約労働者にとって、2回目、3回目、4回目の更新については、雇用継続の期待が合理的であることは十分にあり得る。このような場合には、雇止め法理が適用されることを確認すべきである。

  さらに使用者が利用可能期間到達直前に、上限到達を理由に雇止めをした場合にも、この雇止め法理が適用される得ることを明確にすべきである。なぜなら、上限規制を経過した場合にも、建議によれば有期契約労働者の無期転換請求により、無期に転換する可能性があり、また労働者の選択により有期契約として継続することも可能というのが今回の建議の内容である。そうであれば、有期労働契約の際の使用者の説明や事情によっては、上限規制を超えても継続して雇用されると有期契約労働者が期待することが合理的で法的に保護される場合もあり得る。したがって、この場合にも雇止め法理が適用されることを明確にすべきである。

(2) 上限到達後に有期契約を選択した労働者にも雇止め法理を適用すべき

  利用可能期間を超えても無期転換を希望せずに、敢えて有期雇用契約を締結した有期契約労働者にも、雇止め法理が適用されることを明確にすべきである。これは、利用可能期間経過後に、労働者が有期労働契約を選択したとしても、その後反復更新された場合には、有期雇用が継続すると期待することは十分あり得る。これを合理的な期待として保護すべきである。また、労働者が無期転換を希望せず有期雇用契約を締結したからといって、労使の力関係から、その労働者が使用者の干渉により真意ではなく有期契約を選択させられる労働者が生じる懸念も考えると、上限到達後にも雇止め法理を適用すべきである。

 

第5 「4 期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消」について

1 建議の内容

  建議は、「有期労働契約の公正な処遇の実現」に資するため、有期労働契約の内容である労働条件について「期間の定めを理由とする不合理なものと認められるものであってはならないこととすることが適当である」とする。

  このように期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消を定める規定を設けることに積極的に賛成する。ただし、問題は、不合理な処遇の解消を「適用する要件」、対象となる「処遇の範囲」及び不合理な処遇の解消規定の「法的効果」である。

2 「適用する要件」について

  建議は、かかる不利益取扱い禁止の規定について、「職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮」するとしている。この建議の言う「職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮」の意味が、いわゆるパートタイム労働者法8条1項の「その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの」と同様なものとされると、有期契約による差別是正の規定が適用される範囲が大きく限定さることになる。現に、パートタイム労働者法8条1項の適用対象が極めて限定されてしまい救済の実効性を欠く規定となっている。この轍を踏んではならない。

  このような限定をつけることなく、有期契約を理由とする不合理な労働条件の差別を禁止する規定を設けるべきである。日本労働弁護団は、その立法提言において、「使用者は、有期契約労働者につき、比較可能な条件にある無期契約労働者と均等な労働条件をもって処遇しなければならない。但し、異なる労働条件が客観的合理的な理由による場合は、この限りではない。」との差別禁止条項を提言している。

3 「処遇の範囲」について

  不合理な処遇を禁止する処遇の範囲は、福利厚生措置等だけでなく、賃金、退職金などの全ての労働条件とすべきである。

4 「法的効力」について

  不合理な処遇の解消を求める規定の法的効力は、パートタイム労働者法8条と同様、私法的効力を有するとすることが必要である。建議は、この点について、「不合理の処遇の解消」とするだけで、法的効力について私法的効力を認めるか否かを明確にしていない。

  しかし、均衡待遇の規定が単なる努力義務とされれば、実効性を欠くことになる。建議の指摘する「有期労働契約の公正な処遇の実現」を実効性あるものにするためには、かかる期間の定めを理由とする不合理な処遇を禁止し、この規定に私法的効力を認めるべきである。この期間の定めを理由とする不合理な差別の禁止は、有期契約労働者の適正な労働条件を実現する上で必要な措置である。

  なお、あくまで期間の定めを理由とする不合理な差別を禁止するものであるから、使用者が職務内容や配置転換等の差異による客観的合理的な理由を立証すれば、処遇の差異は許容される。したがって使用者に過度の負担を強いるものにはならない。

 

第6 「5 契約更新の判断基準」について

 建議は、「有期労働契約の継続・終了に係る予測可能性と納得性を高め、もって紛争の防止に資するため、契約更新の判断規準は労働基準法第15条1項後段の規定による明示をすることとするのが適当である」とするが、賛成である。契約更新の判断規準は、これを法律上も明示することが紛争防止に資するし、厚生労働大臣告示に示され実務上定着しているので弊害もない。

 

第7 「6 1回の契約期間の上限等」について

 建議では、労働基準法14条1項の1回の契約期間の上限については、「現行の規制の見直しの有無について引き続き検討することが適当である」とされており、中間的整理では「より長期の契約期間を定められるようにすることは、雇用の安定に資するものであり、契約の両当事者にとってメリットではないか。」という見解も述べられている。

2 しかし、現状の労基法の上限(原則3年)を超えて必要な業務がある場合には、無期契約とすればよい。現時点で安易に上限期間を引き上げると、不安定な有期雇用の長期化を招いたり、期間の定めのない労働契約である正規雇用者を有期雇用労働者による代替化促進を招いたりしかねないのであって、このような改正を行う必要はない。むしろ、近時、正規雇用者を有期雇用労働者によって代替化し有期雇用契約の不合理・不適正な利用が行われてきたという実態からは、現状の労基法の上限(原則3年)は、平成10年労基法改正前に立ち返って、原則1年とすべきである。

3 また、現在、1年を超える期間の労働契約を締結した労働者について、契約締結日の初日から1年を経過した日以後はいつでも退職できるとする暫定措置が設けられているが(労働基準法附則第137条)、この暫定措置は人身拘束の弊害を防ぐための重要な意義があるので、本則に入れるべきである。

 

第8 「7 その他」について

1 建議は、①雇止め予告を法律上の義務とすること及び②有期労働契約締結時に「有期労働契約を締結する理由」を明示させることについて、いずれも措置を講ずべきとの結論には至らなかったとする。

2 しかし、①雇止め予告については、現在も厚生労働大臣告示で一定の場合に要求され、実務的には不合理な雇止めを防ぐとともに、雇止めの有効性を判断する上でも意義を有するとして定着している。少なくとも、現在厚生労働大臣告示で対象となり更新3回以上又は継続1年以上の労働者に対しては、これを法律上の義務とすることに、何ら弊害はないのであって、これを法律上の義務とすべきである。

3 また、②「有期労働契約を締結する理由」を明示させることで、合理的理由もなく有期労働契約を締結しようとする使用者に対して、有期労働契約の不合理・不適正な利用を抑止する効果も期待できるのであるから、「有期労働契約を締結する理由」を明示する措置を講ずるべきである。

 そして、この締結理由を明示する規定を無視した場合の措置を規定しなければ実効性に欠けるので、明示がない場合の私法上の効果として無期雇用となるという規定を設けるべきである。

 

第9 さいごに

 有期労働契約の法規制は、パート労働、派遣労働など、非正規雇用に共通する横断的かつ根本的な課題である。日本労働弁護団は、正規雇用原則をふまえつつ、有期労働契約労働者の安定した雇用の確保、労働条件の改善を実現するためには、有期労働契約に対して適切な法規制を行うことが必要不可欠と考える。

 この建議の内容のままでの立法化では、有期契約労働者の安定した雇用の確保の面でも、労働条件の改善実現の面でも不十分であり、上記において指摘した問題点を十分に検討し、実効性のある有期労働契約法制(労働契約法改正)を制定することを強く求めるものである。

以上