臨時国会における労働者派遣法改正法案の成立を求める声明

2010/10/5

        臨時国会における労働者派遣法改正法案の成立を求める声明
                                       
                                                               2010年10月5日
                                                日本労働弁護団
                                                  幹事長  水 口 洋 介

1 労働者派遣法の抜本的改正の必要と国会での継続審議
    1985年に制定された労働者派遣法は,その後,1999年,2004年に大幅に派遣業務を解禁する規制緩和が行われ,派遣労働者は激増した。また,派遣期間制限違反の派遣や偽装請負などの違法派遣が横行している。そして,2008年秋からの世界的な不況の中でいわゆる「派遣切り」が多発し、多くの派遣労働者が雇用と住居を失い、路頭に迷うという事態も生じた。派遣労働者が極めて不安定な雇用形態におかれて低賃金に苦しむ状況を改善するためには、労働者派遣法の抜本的改正が必要である。
    2009年9月、自公政権から民主・社民・国民新党への政権交代後、あらためて労働政策審議会職業安定分科会需給調整部会において労働者派遣法の改正について議論がなされ、2009年12月28日に答申が出された。その後、一部修正(事前面接一部解禁条項の削除)がなされたあと、2010年3月19日に派遣法改正法案が政府案として通常国会に提出されたが、衆議院での審議が進まず、参議院議員選挙のため会期の延長もなく時間切れとなり継続審議となった。
 
2 改正法案の内容
   今回の改正法案は、法律の名称に初めて「派遣労働者の保護」を明記し、「派遣労働者の保護・雇用の安定」を目的規定に明記したものとなっている。
  改正の主な内容は、常時雇用される労働者以外の労働者派遣(登録型派遣)の原則禁止、常時雇用される労働者以外の製造業務への労働者派遣の原則禁止、日雇派遣(日々又は2か月以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)の原則禁止、グループ企業内派遣の8割規制、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止など、派遣が認められる範囲を縮小して労働者を直接雇用しなければならない範囲を拡大している。
  また、派遣労働者の賃金等の決定にあたり同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮すること、派遣料金と派遣労働者の賃金の差額の派遣料金に占める割合(いわゆるマージン率)などの情報公開を義務化すること、雇入れ等の際に派遣労働者に対して一人当たりの派遣料金の額を明示することなど、派遣労働者の待遇改善を目的とする規定を定めている。
  さらに、派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす規定を定めている。
  他方で、改正法案は、政令指定26業務を登録型派遣禁止の例外としていること、いわゆる「常用型派遣」に有期派遣労働契約も許容していること、違法派遣の場合のみなし規定により成立する労働契約の期間等の労働条件が元のまま引き継がれること、派遣先の団体交渉応諾義務などの野党時代の旧3党法案にはあった派遣先責任強化規定が盛り込まれていないこと、登録型派遣・製造業務原則禁止規定の施行時期が極めて遅いことなど、抜本的改正という点から不十分な問題点が数多くある。また、派遣先が、派遣期間制限のない業務について、3年を超えて同一の派遣労働者を受け入れている場合において、その同一業務に労働者を雇い入れようとするときは、当該派遣労働者に雇用の申込みをしなければならないとする規定を、期間の定めなく雇用されている派遣労働者には適用除外とする問題もある。
  これらの問題点について、日本労働弁護団は既に指摘し、抜本的な改正を求めてきた。
 
3 派遣の規制強化を前進させ、違法派遣における派遣先との直接雇用を求める労働者救済のために今臨時国会での改正法案の成立を
    2010年7月の参議院選挙により与党が参議院で過半数割れとなったが,今臨時国会で派遣規制を強化する内容で労働者派遣法が改正されなければ、相次ぎ規制緩和されてきた現行の労働者派遣法がそのまま維持されてしまい、不安定雇用と低賃金に苦しむ派遣労働者の救済はさらに先延ばしされることになる。
    今回の改正法案は、上記のとおり、1985年に労働者派遣法が成立して以来ほぼ一貫して規制緩和の改正が重ねられ不安定な労働者派遣が拡大してきた流れを変えて、問題点は多数あるが、派遣労働者保護のための規制強化に一歩踏み込むものである。
    特に、違法派遣の場合に派遣労働者と派遣先とのみなし雇用の成立を可能にする規定が定められているので、これにより派遣労働者が派遣先との直接雇用を実現することが可能となる。現在、日本労働弁護団の弁護士は、違法派遣の派遣先の雇用責任を求める多くの訴訟を全国で取り組んでいるが、裁判所の厚い壁を突破し派遣労働者の派遣先への直接雇用を実現するためにも、この規定を含む法改正を今臨時国会で成立させることは、派遣労働者の救済のために重要な意味がある。
    以上の点から、今臨時国会で、改正法案について十分な審議を尽くしたうえで、改正法を早期に成立させるよう強く求める。
                                                                            以上