東日本大震災の被災者の権利擁護に向けての決議

2011/11/12

1 2011年3月11日の東日本大震災の多くの犠牲者の方々に謹んで哀悼の意を表します。
  東日本大震災、それに伴う福島第一原子力発電所で世界最悪レベルの原発事故発生からの復興という未曾有の課題にわが国は直面しています。これまでの政府と産業界の経済効率優先の政策の結果、多くの農民、漁民、労働者、住民が被害に苦しんでいます。
   この大震災と原発事故は、政府や産業界の産業効率優先によって苦しむのが常に一般国民であることを改めて浮き彫りにしました。戦後日本社会の「在り方」が根本的に問われています。原発事故の原因は、利潤や経済効率を優先し、労働者の権利と生活を犠牲にしてきたこれまでの政府と産業界の労務政策と全く同根と言えます。働く人々が安心して労働し生活ができる社会の実現、二度と原発事故を生じさせないための世論と運動を大きく広げることがひとり一人に問われています。
2 震災と原発事故によって、東日本、特に東北地方は放射性物質汚染の恐れにより、農林水産業を含めて全ての産業が痛手を受け、企業も経営不振に陥り、そこに働く労働者、農民、漁民に精神的、身体的、経済的に大きな被害を及ぼしています。震災からの復興と、原発事故の復旧は緊急の課題です。ただし、震災復興と原発事故復旧には、次のような公正な労働条件の維持と労働安全衛生対策の充実が不可欠です。
(1) 政府・自治体の雇用・失業対策の充実-公正な労働条件の維持
   先ず求められのは、震災・原発事故被災地域での雇用創出・確保のためには、政府・自治体が中心となる雇用・失業対策の実施が必要です。東京を本社とする大企業にビジネス・チャンスを付与するのではなく、地元の事業者を守り育てる方策がとられるべきです。そして、何よりも復興事業を中心とした雇用・失業対策では、労働者を公正な労働条件の下に雇用し、公正な賃金を労働者に支払うことが必要不可欠です。現状は、がれき処理業務に従事しても、日当6~7000円程の賃金しか支払われていないとの情報もあります。安上がりの低賃金で地元の労働者を使用するということでは、労働者と家族の生活も成り立たず、かつ地域の経済復興も実現しません。
(2) 労働安全衛生対策の充実
   次に、がれき処理などの復興作業に当たって、アスベストなどの有害物質から労働者と住民の身体・健康と生命を守るために、徹底的な労働安全衛生対策を実施することが求められています。特に、がれき処理を行う際に、アスベスト曝露から労働者と住民をまもる防護策が必要です。現状では、アスベスト粉じんの飛散防止対策や防塵マスクなどの着用も不徹底であり、将来の健康被害の恐れがあります。
(3) 原発労働者の労働条件の向上と労働安全衛生対策の強化
   最後に、福島原発の復旧作業に従事している原発労働者の労働安全衛生対策を抜本的に充実し、将来的に長期の放射線被害を監視する万全な健康管理体制を構築する必要があります。特に、下請業者に雇用される労働者、特に労働者の労働安全衛生対策、放射線防護対策、そして公正な賃金を確保する必要があります。
3 日本労働弁護団は、地元の労働者・原発労働者の要求に応える相談活動、労働者の要求を支援する活動、また政府・自治体等への要求づくりに継続的に取り組むことをここに決議します。
                                                                         2011年11月12日
                                                                              日本労働弁護団第55回全国総会