中央労働委員会に対する要望書

2010/7/30

                                要 望 書
                                       
中央労働委員会
 会  長  菅 野 和 夫   殿
                                                                2010年7月30日
                                                日本労働弁護団         
                                                  会 長   宮 里 邦 雄  
第1 はじめに
   全国の労働委員会申立事件数は現在「低位安定」の状況にあり、同時に、申立事件も全国で「偏在」している。一部の大都市の労働委員会では事件数が一定多数であるが、他方で、年間新規申立件数がゼロ・ワンである労働委員会も3割を超える。現在、労働委員会の活性化に向けて、中労委内に労働委員会活性化のための検討委員会も立ち上げられ、委員会内での議論が進められていると聞いている。
   日本労働弁護団としても、労働委員会の活性化に向けたこれらの動きを歓迎し、今後更に議論が深まり、労働委員会の活性化が実現し、労働者・労働組合の団結権救済システムとして充実することを期待するものである。
   ついては、労働委員会を活用する立場から、以下の点についても議論が行われ、実現されることを要望する。

第2 審査期間の短縮について
1 平成16年の労組法改正により、労働委員会において事件の目標処理期間が立てられ、その実現に向けて審理計画の策定が行われるようになったことで、平均審理期間は短縮され、長期滞留事件数は減少傾向にある。同改正の目的とされた労働委員会の審査の迅速化は確実に進んでいる。改正の目的が一部達成されているものであり、この点は歓迎すべきことである。
2 しかし、事件の内容・種類によっては、救済を求める労働組合にとって、中労委で目標とされている1年6月の審理期間では、なお長すぎるものがある。
   例えば、使用者による団交拒否・不誠実団交事件など、事案も明白で単純な事件については1年6月にも及ぶ長期間の審理は必要ない。また、そのような事件についても、当事者間での和解の見込みが少ない場合にまで長期間にわたり和解を勧めることがまま見られるところである。しかし、このような見通しなき和解手続は、かえって労働組合の団結権保護に欠け、正常な労使関係の早期回復を阻害することになりかねない。このような場合には迅速に救済命令が出されるべきである。
3 そこで、事件の性格に応じ、事件累計毎に審査期間の目標を策定し、これを実現していくための制度、あるいは運用枠組を構築することが必要である。例えば、上記のような不誠実団体交渉事件であれば、既に初審命令を経ていることを考えると、中労委においては6月以内の命令交付という目標を立てることも考えられる。平成16年労組法改正の成果を更に一歩進める形で一層の審査の迅速化が進められることを要望するものである。

第3 地方への出張審問実施とテレビ会議システムの活用
1 都道府県労働委員会に申し立てられた不当労働行為救済申立事件につき初審命令が出されても、これに対する再審査申立がなされれば、事件は東京の中労委に係属することになる。地方の大部分を占める中小規模の労働組合にとって、再審査のために上京することのコストの負担は重い。地方の中小組合は、このような中労委の調査・審問手続に対応することが困難であり、これが地方での労働委員会活用の障害の一因となっている。
2 非常勤の公益委員の下では、出張調査・審問の実現のための委員の日程調整が難しいという面はあるが、労働委員会の活性化、そして地方の労働者・労働組合の権利実現のために、出張調査・出張審問を是非とも実現する必要性は高い。出張調査・出張審問のニーズは強く、地方の労働委員会の活性化を目指すのであれば、  この点について今一度、具体的に検討されるべきである。
3 また、少なくとも調査手続については、近時は情報通信網の発達により、テレビ会議システム等を利用することが容易に実現できると思われる。テレビ会議システムを利用することで、地方の労働組合が上京することなく、低コストで迅速に調査を行うことができる。例えば、裁判所では弁論準備手続での電話会議の利用が広く行われており、遠隔地の当事者にも円滑・簡便に裁判手続の利用ができるものとなっている。そこで、中労委においても、少なくともこのようなテレビ会議による調査手続の実施を早期に実現することを求めるものである。

第4 物件提出命令、証人等出頭命令について
1 平成16年労組法改正により、審査手続の迅速化・的確化を目的として、物件提出命令制度及び証人出頭命令制度が新設された。
2 しかし、これらの各制度の新設以降、都道府県労働委員会で物件提出命令が出されたのは2件、証人等出頭命令については1件のみであり、いずれの命令も中労委で取り消されている。制度の実施から5年余り経った現在もこのような運用実績であっては、これらの制度の利用に関して当事者の萎縮を招き、物件提出命令及び証人等出頭命令の申立件数そのものの低下につながる恐れが強い。
3 不当労働行為の有無に関する事実の認定に必要な証拠を速やかに確保することが、これらの制度の目的である。物件提出命令及び証人等出頭命令の積極的な活用によって、審査手続はより迅速化・充実し、既にある程度実現されている審査期間の短縮化を一層推進することになるはずである。物件提出命令及び証人等出頭命令を積極的に出すような各制度の運用を要望する。
   
第5 労働委員会会館入館の際の傍聴者の記名廃止
     現在、中労委は労働委員会会館(港区芝公園1-5-32)内に置かれているが、再審査申立事件の当事者・代理人及び傍聴希望者は入館の際に記名をすることとなっている。
     しかし、傍聴希望者に記名を求めることは審問公開の原則の趣旨に反する措置である。また、誰がどのような事件を傍聴しているかが把握可能となり、当該傍聴者のプライバシー保護にも欠ける。特に、労働委員会申立事件の傍聴は、労働委員会手続及び判断の公正性の確保にとって重要であるだけではなく、組合員による傍聴は労働者の団結強化にもつながるものであって組合活動の活性化にとっても重要であり、このような意義を有する傍聴を萎縮させかねない記名制は早急に廃止されるべきである。

第6 当事者の負担軽減
   以上の他に、再審査申立手続における当事者の負担を軽減し、労働委員会の手続を当事者にとってより利用しやすいものとするために、以下の事項も要望する。
1 書面の提出部数の削減
   不当労働行為救済事件の再審査申立手続において、当事者は主張書面を各10部、書証を各7部(いずれも相手方当事者が1名の場合)中労委に提出することとなっているが、このように多くの部数を準備することは中小組合及び代理人にとって、想像以上に負担である。当事者からは正本及び副本のみの提出に止め、中労委内部で必要となる部数については中労委で準備されることを要望する。
2 速記録の写しの無料交付
   現在、審問手続における証人尋問等の速記録については、当事者の費用負担で謄写することとなっているが、謄写費用は1枚36円と高額となっており、とりわけ中小組合にとっての費用負担は小さくない。したがって、速記録の写し交付を無料でされることを要望する。
                                                                            以上