会計年度任用職員制度に対する意見書
2020/3/4
会計年度任用職員制度に対する意見書
2020年3月4日
日本労働弁護団
会長 徳住 堅治
1 はじめに
総務省によれば、地方公務員の臨時・非常勤職員の総数は、2016年4月時点で約64万人に上り、これらの職員は、教育、子育て、DV被害者保護等、地方公共団体が担う様々な行政サービスを担ってきた。ところが、これまで、その任用根拠は地方公共団体によってまちまちであり、本来は学識経験に基づき非専務的に公務に参画する特別職(地方公務員法3条3項3号)や、常勤職に欠員を生じたときに例外的に置かれる臨時的任用(同法22条)が脱法的に用いられ、かつ、同法17条は非常勤職員の任用根拠として不明確であるなどの問題が指摘されていた。そこで、2017年の地方公務員法及び地方自治法の改正により、改正法施行日である本年4月1日、任期を最長一会計年度内とする一般職の「会計年度任用職員」が創設されることとなった。
会計年度任用職員制度は、地方公務員の一般職非常勤職員の法的根拠を明確にし(改正地方公務員法22条の2)、一定の要件の下に期末手当や退職手当等の諸手当の支給が可能であることを明確化した点(改正地方自治法203条の2第4項、同法204条1項・2項)で意義がある。
しかしながら、地方公務員の臨時・非常勤職員が恒常的な公務の重要な担い手となっていることや、臨時・非常勤職員の待遇が劣悪で「官製ワーキングプア」と称されるように貧困の原因にもなっていること、臨時・非常勤職員の多くが女性によって担われており、常勤職員と臨時・非常勤職員との待遇の格差が男女間の経済的格差を生じさせ、女性の貧困にもつながっていることなどに照らせば、新制度の施行に当たっては、臨時・非常勤職員の待遇改善が進むように制度改正の趣旨に沿った運用がなされることが必要不可欠であるとともに、新制度は未だ不十分であって、今後、臨時・非常勤職員の身分の安定及び待遇改善のための抜本的な法改正が必要である。
また、臨時・非常勤職員の身分の安定及び待遇改善は、住民が良質な行政サービスを受ける上でも欠かすことができないものである。
そこで、新制度の施行に先立ち、制度の運用面で留意すべき点及び今後の制度改正において検討すべき点について、意見を述べる。
2 制度の運用面で留意すべき点
地方公共団体は、適正な任用・勤務条件の確保という新制度の趣旨を実現する運用をすべきである。また、労働組合も、新制度の趣旨を活かして、当局側に積極的に要求をすべきである。
(1)身分保障について
ア 常勤職員として任用することが原則である
「任期の定めのない常勤職員を中心とする公務の運営」という原則からすれば、会計年度任用職員としての任用ではなく、常勤職員として任用することが原則であって、地方公共団体は、常勤職員としての任用を積極的に検討・実施すべきである。
総務省の通知(平30.10.18総行公第135号「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアルの改訂について(通知)」)の『会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)』8頁では、常時勤務を要する職を、①「相当の期間任用される職員を就けるべき業務に従事する職であること(従事する業務の性質に関する要件)」、②「フルタイム勤務とすべき標準的な業務の量がある職であること(勤務時間に関する要件)」のいずれも満たすものとしている。
そして、上記マニュアル10頁では、①「相当の期間任用される職員を就けるべき業務に従事する職であること(従事する業務の性質に関する要件)」に関して、「単に業務の期間や継続性のみによって判断されるものではなく、業務の内容や責任の程度などを踏まえた業務の性質により判断されるべきものです。」とした上で、2016年12月27日付「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する研究会報告書」を引用し、「『典型的には、組織の管理・運営自体に関する業務や、財産の差押え、許認可といった権力的業務などが想定される』とされています。」としており、総務省は限定的な捉え方をしているようにも思われる。
しかしながら、「任期の定めのない常勤職員を中心とする公務の運営」という原則からすれば、常勤職員を任用する上で限定的な運用を行うべきではなく、恒常的な業務であれば「相当の期間任用される職員を就けるべき業務に従事する職であること(従事する業務の性質に関する要件)」に該当するというべきである。特に、これまで臨時・非常勤職員として長年再任用が繰り返されてきた者が担当してきた業務は、恒常的な業務であるとの疑いはなく、①を満たすというべきである。
次に、②「フルタイム勤務とすべき標準的な業務の量がある職であること(勤務時間に関する要件)」についても、地方公共団体が、不必要に業務を細分化するなど合理的な理由なく業務量を減らして「フルタイム勤務とすべき標準的な業務の量」がないと扱うことや、あえてパートタイムとして任用した上で恒常的に残業をさせて実労働時間はフルタイムと同様となるというような脱法的な運用を行うことは許されない。
このように、地方公共団体は、「任期の定めのない常勤職員を中心とする公務の運営」という原則に従い、業務の実態に応じて常勤職員としての任用を適切に行うべきであり、会計年度任用職員制度の濫用がないようにしなければならない。
イ 会計年度任用職員への移行が適切に行われるべき
地方公共団体は、特別職非常勤職員又は臨時的任用職員として任用していた臨時・非常勤職員が、改正後に設けられた特別職非常勤職員・臨時的任用職員の任用の要件(改正地方公務員法3条3項3号、同法22条の3)に該当しない場合であっても、合理的な理由がない限りは、会計年度任用職員として任用すべきである。臨時・非常勤職員の任用の法的根拠を整理したことに伴って、合理的な理由なく身分を失わせることは、適正な任用・勤務条件の確保という新制度の趣旨に反するというべきである。
ウ 再任用が適切に行われるべき
上記改正法の附帯決議において、政府に対して、「会計年度任用職員及び臨時的任用職員について、地方公共団体に対して発出する通知等により再度の任用が可能である旨を明示すること」が求められているように、新制度の下でも再任用が可能であるから、地方公共団体は、適切に再任用を行って雇用の確保を図るべきである。また、再任用にあたって任用の回数・年数による制限などの限定を設けることは、新制度の趣旨及び平等取扱いの原則(地方公務員法13条)に反するというべきである。上記総務省の通知(平30.10.18総行公第135号「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアルの改訂について(通知)」)の『会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)』41頁においても、「会計年度任用の職に就いていた者が、任期の終了後、再度、同一の職務内容の職に任用されることはあり得るもの」と指摘されていることに加え、「募集に当たって、任用の回数や年数が一定数に達していることのみを捉えて、一律に応募要件に制限を設けることは、平等取扱いの原則や成績主義の観点から避けるべきもの」と指摘されている。
そして、地方公共団体が、再任用にあたって、新たな任期と前期の任期との間に無用な空白期間を設けることは、その期間の収入が失われるとともに、退職手当や社会保険上の不利益が生じかねず、適正な任用・勤務条件の確保という新制度の趣旨に反するというべきである。このことは、総務省の通知(令元.12.20総行公第95号「会計年度任用職員制度の施行に向けた留意事項について(通知)」)においても「退職手当や社会保険料等を負担しないようにするために、再度の任用の際、新たな任期と前の任期との間に一定の期間(いわゆる「空白期間」)を設けることは、適正な任用・勤務条件の確保という改正法の趣旨に沿わないものであること」と指摘されている。
このように、地方公共団体は、適正な任用・勤務条件の確保という新制度の趣旨に沿うように再任用すべきである。
(2)待遇の改善について
ア 会計年度任用職員への移行で待遇を不利益に変更すべきではない
会計年度任用職員へ移行する際に、地方公共団体が合理的な理由なく臨時・非常勤職員の従来の待遇を引き下げるなど不利益な変更をすることは、適正な任用・勤務条件の確保という新制度の趣旨に反し許されない。
上記改正法の附帯決議においても、政府に対して、「現行の臨時的任用職員及び非常勤職員から会計年度任用職員への移行に当たっては、不利益が生じることなく適正な勤務条件の確保が行われるよう、地方公共団体に対して適切な助言を行うとともに、厳しい地方財政事情を踏まえつつ、制度改正により必要となる財源の十分な確保に努めること」が求められている。
このように、地方公共団体は、会計年度任用職員への移行の際に不利益な変更ではなく、新制度の趣旨を実現するような待遇改善をすべきであり、政府は新制度の趣旨を実現できる十分な財源の確保を図るべきである。
イ フルタイムでの任用が原則である
新制度においては、条例を制定すれば、勤務時間が常勤職員と同じフルタイム型の会計年度任用職員に対して期末手当及び退職手当等を含む全ての手当を支給することが可能であること、また、パートタイム型の会計年度任用職員に対しても期末手当の支給が可能であることが明示された(改正地方自治法203条の2第4項、同法204条1項・2項)。
しかし、改正地方自治法は、パートタイム型の会計年度任用職員を、退職手当や扶養手当など多数の手当の支給対象とはしておらず、フルタイム型の会計年度任用職員との間で支給可能な手当について著しい差が生じている。
このような支給可能な手当に差があることを利用して財政上の負担を減らすために、地方公共団体が、勤務時間をフルタイム型よりも僅かに短くしてパートタイム型の会計年度任用職員と扱うことは、適正な勤務条件の確保という新制度の趣旨に反し許されないというべきである。
上記の総務省の通知(令元.12.20総行公第95号)においても、「単に勤務条件の確保等に伴う財政上の制約を理由として、合理的な理由なく短い勤務時間を設定し、現在行っているフルタイムでの任用について抑制を図ることは、適正な任用・勤務条件の確保という改正法の趣旨に沿わないものであること」と指摘されている。
また、支給可能な諸手当の差から、パートタイムとして任用することは、フルタイムでの任用に比べて待遇面で不利益となり得るから、上述のような、地方公共団体が、不必要に業務を細分化するなど合理的な理由なく業務量を減らしてパートタイムとして扱うことや、あえてパートタイムとして任用した上で恒常的に残業をさせて実労働時間はフルタイムと同様となるというような脱法的な運用を行うことは許されない。
したがって、地方公共団体は、本人が希望するなどのパートタイムとして任用する合理的な理由がない限り、フルタイム型の会計年度任用職員として任用すべきである。
ウ 常勤職員との間で均等均衡待遇を実現すべき
(ア)手当等について
フルタイム型の会計年度任用職員については、上記総務省の通知(平30.10.18総行公第135号「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアルの改訂について(通知)」)の『会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)』26~28頁において、時間外勤務手当、宿日直手当、休日勤務手当、夜間勤務手当、通勤手当、期末手当、退職手当、特殊勤務手当等の職務給的な手当、地域手当、初任給調整手当、特地勤務手当、へき地手当「以外の手当については、支給しないことを基本とします」とされている。また、パートタイム型の会計年度任用職員の場合は、上記のとおり、支給可能な手当に制度上の制限があり、報酬及び費用弁償の他、手当については期末手当のみしか支給することができない。
しかしながら、地方公務員法において定められている平等取扱いの原則(13条)、情勢適応の原則(14条1項)、職務給の原則(24条1項)、均衡の原則(24条2項)等からすれば、地方公共団体が常勤職員と臨時・非常勤職員との間に不合理な待遇の格差を設けることは禁止されているというべきである。
民間には、現行の労働契約法20条や、2020年4月1日から(中小企業における短時間・有期雇用労働者については2021年4月1日から)施行される短時間・有期雇用労働者等に対する不合理な待遇の禁止等を定めた法制度(パートタイム有期雇用労働法8条・9条)があり、正規雇用と非正規雇用の格差是正がさらに進展する情勢にある。そのため、上記の情勢適応の原則(地方公務員法14条1項)からすると、地方公共団体には従来よりも格差是正を図ることがより一層求められることになったといえる。
そうすると、フルタイム型の会計年度任用職員については、例えば、扶養手当のように職務内容と関連しない手当を常勤職員に支給して会計年度任用職員に支給しないことは不合理な待遇の格差というべきであって、常勤職員と同様に支給される必要があり、上記総務省の通知のような限定的な立場は妥当とはいえない。
また、パートタイム型の会計年度任用職員についても、地方公共団体には、パートタイム型の会計年度任用職員に対して支給可能な手当を含め、時間比例での報酬の均衡を図り、常勤職員との間で均衡待遇を実現することが求められる。
以上のように、地方公共団体には、常勤職員と臨時・非常勤職員との間で不合理な待遇の格差を是正する義務が存在する。そして、地方公共団体の格差是正の義務を尽くさせるためにも、労働組合は、臨時・非常勤職員をさらに組織化した上で、待遇改善に向けた取り組みを行うなど積極的な対応をとることが強く望まれる。
(イ)昇給等について
上記のとおり、適正な任用・勤務条件の確保という改正法の趣旨及び上記の平等取扱いの原則(地方公務員法13条)等の諸原則からすれば、民間と同様に、常勤職員と臨時・非常勤職員との格差を是正すべく臨時・非常勤職員の待遇改善をすべきである。そのため、地方公共団体には、手当の支給にととまらず、常勤職員との間で、職務内容等の違いに応じた均衡のとれた昇給(給与決定)が求められる。そして、常勤職員との均衡のとれた昇給(給与決定)を実現するという観点からすれば、合理的な根拠なく昇給の上限を設けてはならないことは言うまでもない。
また、常勤職員との均等均衡待遇の実現には、給与面のみならず、有給休暇などの待遇に関しても常勤職員との間で格差是正がされなければならない。
改正法の附帯決議においても、「本法施行後、施行の状況について調査・検討を行い、その結果を踏まえて必要な措置を講ずること。その際、民間部門における同一労働同一賃金の議論の動向を注視しつつ、短時間勤務の会計年度任用職員に係る給付の在り方や臨時的任用職員及び非常勤職員に係る公務における同一労働同一賃金の在り方に重点を置いた対応に努めること」とされている。
エ 手当支給の一方で月額給料等を引き下げることは許されない
新制度によって新たに会計年度任用職員に諸手当が支給されることに伴い、月額給料や報酬を引き下げるという地方公共団体が出てきている。
しかしながら、現在の臨時・非常勤職員の給与は、休みなくフルタイムで働いたとしても、常勤職員の給与の4分の1ないし3分の1程度にしかならない者もおり、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」という原則(労働基準法1条)に適合しているとは既に言い難い状況にある。このような低水準にある臨時・非常勤職員の現在の給与をこれ以上引き下げること、とりわけ生活の糧である毎月の給料や報酬を引き下げることは、臨時・非常勤職員の生活をさらに困窮させるものであって到底許されるものではない。
また、諸手当の支給の一方で月額給料・報酬を引き下げることは、適正な任用・勤務条件の確保という新制度の趣旨に反すると言わざるを得ず、財政上の観点から給与額等を決めることは本末転倒といわざるを得ない。上記総務省の通知(令元.12.20総行公第95号)においても、「単に財政上の制約のみを理由として、期末手当の支給について抑制を図ることや、新たに期末手当を支給する一方で給料や報酬について抑制を図ることは、改正法の趣旨に沿わないものであること。」と指摘されている。
したがって、地方公共団体は、会計年度任用職員の給与等を引き下げるのではなく、現行の常勤職員の給与制度に基づき適切に決定することを前提に、待遇改善に向けて必要な財源を確保すべきである。
そして、政府も引き続き需要額調査を丁寧に行うなどして、地方公共団体が待遇改善に必要な財源を確保できるようにすべきである。
(3)団体交渉等について
これまで地方公務員法3条3項3号の特別職として任用されていた非常勤職員は、新たに会計年度任用職員として任用されることによって、地方公務員法58条1項の適用を受けることになるため、労働組合法が適用除外となる。
もっとも、企業職員・技能労務職員の会計年度任用職員は、地方公営企業法39条が適用ないし準用される結果、労働組合法が原則として適用され、争議権は否定されるものの、団結権や労働協約締結権を含む団体交渉権は認められ、労働委員会への救済申立ても認められる。
また、地方公務員法の適用のある職員と、労働組合法の適用のある職員の双方を組織している混合組合は、地方公務員法上の職員団体と労働組合法上の労働組合との複合的な性格を有し(東京高判平26.3.18(最高裁で上告棄却・不受理。最決平27.3.31)、大阪高判平28.12.22等)、労働組合法の適用のある職員に関する事項について、労働協約の締結や労働委員会への救済申立てなどが可能であると解される。そのため、混合組合として、技能労務職員など労働組合法の適用を受ける会計年度任用職員の問題について、団体交渉を行ったり労働委員会を活用したりすることが考えられる。
さらに、労働組合法が適用除外とされる非現業の会計年度任用職員の問題についても、支配介入など不当労働行為の内容によっては、労働組合法の適用のある職員の問題と不可分一体の問題として、両者を分けることなく混合組合全体として救済を受けることができる場合もあり得るし(中労委平26.6.4参照)、混合組合や現業評議会などが労働組合法の適用のある会計年度任用職員の問題について労働委員会における不当労働行為の救済手続を利用することで、少なくとも、事実上、非現業の会計年度任用職員との関係でも不当労働行為というべき地方公共団体の行為を阻止することができる余地もある。
以上の観点から、労働組合としては、今後も労働委員会を積極的に活用することを検討すべきである。
3 今後の制度改正において検討すべき点
(1)身分保障のための制度設計
そもそも、地方公共団体の本格的業務については、「任期の定めのない常勤職員を中心とする公務の運営」という原則が堅持される必要があり、常勤職員の定数が不足するのであればこれを改正して対応することが必要である。
予算の関係から、当面は臨時・非常勤職員を用いなければならないとしても、地方公務員の約3分の1を臨時・非常勤職員が占め、これらの職員なしには地方公共団体の基幹的な業務が成り立たない現状を踏まえると、任期を原則として最長一会計年度とする会計年度任用職員の制度設計は、実態を十分に踏まえているとは言い難い。
新制度は、任期終了後に会計年度任用職員を再度任用することは可能とするものの、平等取扱いの原則(地方公務員法13条)や能力実証主義(同法15条)に基づく選考が必要とされるため、これまで長年にわたって特定の業務に従事し、専門性を培ってきた非常勤職員は、毎年身分を失う危険に直面することとなる。また、経験に乏しい職員が行政サービスを担うとすれば、行政サービスの低下を招きかねない。
そこで、基幹的業務に従事する職員は、前述のとおり任期の定めのない常勤職員への任用を計画的に進めるとともに、業務上短時間勤務が想定される職については、新たに任期の定めのない短時間公務員制度を創設することを検討すべきである。
加えて、現行の臨時・非常勤制度においても、任用の継続に対する合理的期待が生じていると考えられるケースが散見されるとともに、会計年度任用職員制度においても同様の状況が想定されることから、少なくともこれを保障するための規定が新たに設けられるべきである。具体的には、民間の有期労働契約では、労働者の雇用継続への期待が、労働契約法18条及び19条で保護されていることに照らし、任用が繰り返されて任期が通算して5年を超えた場合には、無期転換権が発生(常勤職員への任用を擬制)する制度設計や、雇止め法理の公務員への適用が検討されるべきである。
非常勤職員の常勤化は、職員の身分保障の点のみならず、行政サービスの質の低下を防ぐ意味からも重要である。
(2)不合理な待遇の禁止の明確化
新制度においては、勤務時間が常勤職員と同じフルタイム型の会計年度任用職員に対しては期末手当及び退職手当等を含む全ての手当を支給することが可能であること、また、パートタイム型の会計年度任用職員に対しても期末手当の支給が可能であることが明示された(改正地方自治法203条の2第4項、同法204条1項・2項)。
しかし、新制度は、①非常勤職員に期末手当や退職手当を支給していたことが、地方自治法に反する違法な公金の支出だとして提起された損害賠償請求住民訴訟に関し、勤務時間が常勤職員の4分の3以上であるなど、勤務実態が常勤職員と大きく変わるものではないとして、公金支出を適法とした裁判例(大阪高判平22.9.17)や、②地方自治法204条1項が手当支給の対象とする「常勤の職員」というためには、「勤務に要する時間に照らして、その勤務が通常の勤務形態の正規職員に準ずるものとして常勤と評価できる程度のものであることが必要」として、勤務日数が週3日という程度では常勤と評価できるものとはいい難いとした最高裁判決(最判平22.6.10)が、正規職員の勤務時間の4分の3を超えることを地方自治法上の「常勤」であることの一応の指標としていると推測される点などからすると、従前の裁判例から後退している面がある。新制度が、フルタイム型(改正地方公務員法22条の2第1項2号)とパートタイム型(同項1号)の区別を設け、改正地方自治法204条1項・2号がフルタイム型の会計年度任用職員のみを期末手当以外を含む全ての諸手当の支給対象とした点は、わずかな勤務時間の長短による待遇差を正当化することを招きかねない点で、均等・均衡待遇原則と逆行するものである。したがって、フルタイム型とパートタイム型の区別はなくす必要がある。
加えて、さらなる法改正までの間においても、地方公務員法が定める情勢適応の原則、平等取扱いの原則、職務給の原則、均衡・権衡の原則等により、常勤・非常勤間における不合理な待遇差は既に禁止されていること等が改めて明確にされるべきである。今後は、民間労働契約に適用されるパートタイム有期雇用労働法8条・9条を踏まえ、上記の点をさらに明確にする法改正も検討されなければならない。
(3)労働基本権の回復
これまで地方公務員法3条3項3号の特別職として任用されていた非常勤職員を、新制度のもとで会計年度任用職員に移行させることについては、これらの職員の労働基本権を奪うものであるとの強い批判がある。しかし、そもそも、会計年度任用職員のみならず公務員全体の労働基本権が制約されていることが問題なのであって、政府は、日本が批准をしているILO87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)及び98号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)を遵守し、常勤職員を含めた全ての公務員の労働基本権の回復を早急に行うべきである。
なお、臨時・非常勤職員と常勤職員との均等・均衡待遇が実現しない状況においては、政府が労働基本権制約の代償と強弁する人事委員会制度などが機能していないことを改めて示すこととなる。
以 上