労働審判制度の質的量的充実を求める決議

2009/11/14

労働審判制度の質的量的充実を求める決議

1 2006年4月1日からスタートした労働審判手続の申立件数は、06年は877件、07年は1494件、08年は2052件と順調にその数が増加している。そして、09年は9月までの合計で既に昨年を大幅に上回る2553件であり、年間3400件を超える勢いである。この申立件数の増加は、利用者が急速に拡大していることを示し、同時に、泣き寝入りせず権利のために立ち上がった労働者が増えたことも意味している。

この間、弁護団は、06年2月16日には労働審判制度の実施にあたり最高裁判所に申入れを行い、また、制度開始後も、06年12月26日、07年11月21日、09年6月17日にそれぞれ「労働審判制度運用に関する要望書」を最高裁に提出してきた。
これらの要望書において、弁護団は、書証の審判員への交付、相手方における答弁書提出期限の遵守、争点及び証拠の整理を踏まえた審尋、審判官による審判員の意見の尊重、審判員を集めた会議を開催すること、許可代理を広く認めること、当事者間の権利関係を踏まえた手続の遂行、審判書の内容の充実など、労働審判制度の質の向上を求める意見を述べてきた。

2 本決議は、これまでの弁護団の意見を踏まえた上で、急速に利用者が拡大している労働審判制度を充実させるために、特に以下の3つの事項の改善を求める。

第一に、労働審判委員会は、当事者間の権利関係を踏まえ、審理・調停・審判を行うことである。労働審判制度を市民が広く利用する制度として信頼を得るためには、その解決の中身が権利関係に沿っていなければならない。調停偏重になるあまり、権利関係を蔑ろにした調停や審判をしたり、権利関係の基底たる事実関係の審理を疎かにしては、法的紛争を解決する制度として、市民の信頼は得られない。やはり、労働審判制度は、争点整理をした上で審理を行い、権利関係を踏まえて調停を試み、権利関係を踏まえて審判をすることが大前提であり、それにより紛争解決制度としての質が保たれるものである。
第二に、裁判所は、人的体制、物的体制を整備し、急速に拡大する制度利用者の要求に応じることである。冒頭で述べたとおり、本制度に対する利用者は急速に拡大している。しかし、この変化に裁判所の対応は遅れていると言わざるを得ない。まずは、人的体制として、労働審判を担当する裁判官(審判官)の増員は急務である。一人の裁判官が過度な事件数を担当すれば、審理の質が落ちることは否めない。また、審判員の数も事件数の増加に伴い増やしていくべきである。次に、物的体制としては、都市部においては審判廷の増設も待ったなしの状況であり、地裁支部における労働審判制度の取り扱いを全国で実施することも早期に実現すべきである。
第三に、審判員の手続への積極的関与、審判員を集めた会議を開催するなど、審判員の質の向上と活用を図るべきである。審判官によっては審判員の意見をほとんど聞かない場合もあり、審判員の経験・知識を活かす機会を失っている場面も見受けられ、問題である。また、審判員も審判員同士横のつながりを持ち、経験を交流し、自らの質の向上に努めるべきである。そして、裁判所はその機会を提供すべきである。これらを通して、審判員全体の質の向上が図られ、審判員の経験や知識を活かした労働審判制度の趣旨が実現されるものである。

3 弁護団は、労働審判制度開始前の第49回全国総会で「労働審判制度の積極的活用を訴えるアピール」を決議し、まずは量の充実を訴えた。そして、労働審判制度開始から3年半を経過した現在、多くの労働者がトラブル解決の実効的な場として労働審判制度を選択し、途上ではあるが量の充実について成果が上がりつつある。

前記3つの事項は、これらの成果を踏まえつつ、労働審判制度の質の向上を図り、さらなる量の拡大を図るために不可欠のものである。これらが実現すれば、労働審判制度は、労働者の権利救済制度として一層役立つものとなるであろう。
弁護団は、泣き寝入りせず権利のために立ち上がる労働者が一人でも増えるよう、より質・量ともに充実した労働審判制度を目指す観点から、上記の改善を要望するものである。

2009年11月14日
日本労働弁護団 第53回全国総会