「有期労働契約法制立法提言」

2009/10/28

有期労働契約法制立法提言

2009年10月28日
日本労働弁護団
会長 宮里邦雄

 日本労働弁護団は、2005年に労働契約法立法提言を公表し、この中で有期労働契約の規制について具体的な提言を行った。
この間、非正規労働者が3割を超え、不安定・低賃金の雇用が急速に拡大しており、非正規労働者の大部分が有期契約労働者である。
企業が有期労働契約を締結する主たる理由に、人件費の抑制・削減と解雇規制の僭脱目的がある。すなわち、正社員として雇用すると正当理由がなければ解雇できないため(労働契約法16条)、恒常的な業務であってもあえて期間を定めて雇用し、必要な期間だけ更新を重ね、必要がなくなれば更新を拒絶するのである。
非正規化の流れを食い止め、誰もが人間らしい労働条件で働けるために、有期労働契約を例外と位置づけ、包括的な規制を加えていくことが喫緊の課題である。08年3月1日には、労働契約法が施行され、同法第17条2項で有期労働契約について、期間設定の配慮義務が規定された。しかし、有期労働契約にかかわる多くの立法課題は、未解決のままである。
日本労働弁護団が09年2月に実施した「派遣・非正規ホットライン」でも「1年契約を更新して8年勤務していたところ、いきなり契約更新しないといわれた」(女性・校内カウンセラー)、「正社員と同様に働き1年契約を7回更新してきたが雇止めされた」(女性・製造業)、「1年契約で6回更新。人員整理のためという理由で更新拒絶された」(男性・事務職)といった相談が多数寄せられている。
厚生労働省は、08年2月に有期労働契約研究会(座長:鎌田耕一東洋大学教授)を設置した。研究会は、07年の改正労働基準法附則第3条に基づき、契約期間について検討するとされているほか、労働政策審議会答申「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」において、「就業構造全体に及ぼす影響も考慮し、有期労働契約が良好な雇用形態として活用されるようにするという観点も踏まえつつ、引き続き検討することが適当」とされていることから、有期契約労働者の就業の実態及び有期契約労働者に関する今後の施策の方向性を検討することとされている。
このような中で、日本労働弁護団は、有期労働契約のあり方及び有期契約労働者の地位の向上を目指して本部に有期労働契約法制研究会を設置し、ドイツ、フランス等の諸外国の法制度やこれまでの各党・諸団体が提案した有期労働法案等を検討し、労働現場の実情も踏まえ、以下のとおり、05年立法提言をより具体化した有期労働契約法試案を作成した。検討を要する課題も残されているが、ここに試案を立法提言として公表する。

第1 有期労働契約の範囲

使用者は、次の各号に定める正当な理由がなければ、期間の定めのある労働契約(以下、「有期労働契約」という)を締結することはできない。

  ① 休業又は欠勤する労働者に代替する労働者を雇い入れる場合 (*1)

  ② 業務の性質上、臨時的又は一時的な業務に対応するために、労働者を雇い入れる場合 (*2)

  ③ 一定の期間内に完了することが予定されている事業に使用するために労働者を雇い入れる場合 (*3)

第2 契約期間

1 有期労働契約は、前条各号に定める正当な理由がある場合に必要とされる合理的期間を超えて締結してはならない。 (*4)

2 前項の期間は、3年を上限とする。

第3 契約締結時の労働条件の明示

使用者は、有期労働契約の締結に際し、労働者に対して、次の各号に定める事項を書面により明示しなければならない。 (*5)

① 有期労働契約の期間(但し、確定した期間を定められない場合には、予定の終了または目的の実現を終期とできる)。 (*6)

② 有期労働契約の期間の定めをする具体的な理由

③ 休業・欠勤労働者の代替として雇い入れる場合には、被代替労働者の氏名及び職務内容 (*7)

④ 有期労働契約に基づいて労働者が従事する職務の内容

⑤ 賃金報酬及び諸手当の額

⑥ 試用期間が設けられる場合にはその長さ

⑦ 当該労働者に適用される社会保険 (*8)

第4 前3条に違反する有期労働契約の効果 (*9)

前3条の定めに反する有期労働契約が締結された場合は、期間の定めのない労働契約が締結されたものとみなす。 (*10)

第5 期間満了前の解雇

使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。 (*11)

第6 期間満了前の退職

1 労働者は、合理的な理由があるときは、期間の定めにかかわらず、2週間以上の予告期間を定めて、いつでも退職の申し出をすることができる。 (*12)

2 前項の予告期間の経過により有期労働契約は終了する。前項による退職の申し出に予告期間の定めがないときは、その申し出の後2週間の経過により有期労働契約は終了する。 (*13)

第7 有期労働契約の更新

1 有期労働契約は、1回に限り更新することができる (*14)。但し労働契約の全期間が3年を超えることはできない。

2 有期労働契約の更新には正当な理由がなければならない。

3 使用者は、有期労働契約の更新に際し、労働者に対して、第3条各号に定める事項を書面により明示しなければならない。

4 使用者は有期労働契約の期間満了後、契約期間の3分の1の期間が経過しない限り、同一業務に労働者を受け入れることはできない。(*15)

5 前4項の定めに反する有期労働契約は、期間の定めなく締結されたものとみなす。有期労働契約期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事したときも同様とする。 (*16)

6 労働者が有期労働契約の更新の申込を行い、使用者の更新拒絶に合理的な理由があると認められない場合は、従前と同一条件(期間は1項の範囲内)で有期労働契約の更新があったものとみなす。 (*17)

第8 差別禁止

1 使用者は、有期労働契約を締結している労働者(以下、「有期契約労働者」という)につき、比較可能な条件にある期間の定めのない契約の労働者と均等な労働条件をもって処遇しなければならない。但し、異なる労働条件が客観的合理的理由による場合は、この限りではない。 (*18)

2 前項の労働条件には、賃金、休日・休暇、福利厚生その他異なる扱いが客観的に正当化されない労働条件がすべて含まれる。 (*19)

第9 情報提供等 (*20)

使用者は、希望する有期契約労働者が期間の定めのない労働契約を締結することができるよう、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。

① 期間の定めのない労働契約にかかる労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する有期契約労働者に周知すること

② 期間の定めのない労働契約にかかる労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する有期契約労働者に対して与えること

③ 有期契約労働者を対象として期間の定めのない労働契約にかかる労働者への転換のための試験制度を設けることその他の期間の定めのない労働者への転換を推進するための措置を講じること。


*1 ドイツのパートタイム労働・有期労働契約法(TzBfG)14条1項3号、フランス労働法典L.122-1-1条1号参照

*2 TzBfG14条1項1号、フランス労働法典L.122-1-1条3号参照。具体的にはイベント等の行事が考えられる。

*3 TzBfG14条1項4号参照。具体的には季節的業務や建築工事等が考えられる。

*4 期間については、フランス法では原則18カ月(フランス労働法典L.122-1-2条2号)、ドイツ法では正当理由がない場合に2年とされている。

*5 更新の有無及び更新ありの場合の判断基準については、検討を要する。

*6 フランス労働法典L122-3-1条は不確定期限の場合は最低期間を明示させている。TzBfG14条4項も同様である。

*7 フランス労働法典L122-3-1条参照

*8 特に雇用保険の受給要件を充足しているか否かが重要。

*9 フランス法では刑事罰の対象となっている(3750ユーロの罰金又は6ヶ月の禁固)本試案では、労働契約法の改正による民事法として提言しており、罰則については規定していない。

*10 05年提言「労働契約は、使用者と労働者が書面により期間の定めを合意しない限り、期間の定めなく成立したものとみなす」「前項に反する労働契約は、期間の定めのない労働契約とみなす」

*11 労働契約法17条1項と同じ

*12 強行規定である。就業規則でこれより長い期間を定めてもその部分は無効となる。

*13 使用者からの損害賠償請求の制限について規定すべきかは検討課題である。

*14 フランス労働法典を参考にしている(L.122-1-2条)。有期労働契約があくまで例外であることから、更新には、当初の契約締結時に予期できなかった特別な事情が発生するなどの正当事由が必要。

*15 有期契約労働者を入れ替えることによる脱法を防止するもの。

*16 第2文は、特に更新の合意なく、事実上継続した場合の規定である。

*17 有期労働契約の更新にも第1の各号の「正当な理由」が存在していることが必要である。使用者と労働者との間で有期労働契約の更新の合意が成立した場合でも「正当な理由」が存在していなければ、期間の定めのない労働契約になる。労働者が更新を申し込んで使用者が更新拒絶する場合に、第1の各号の「正当な理由」が存在していないことは更新拒絶の「合理的な理由」となる。このほか、更新拒絶の「合理的な理由」当該労働者の勤務態度不良等の個人的事由等が考えられる。

*18 フランス労働法典L122.3-3条を参考にしている。異なる労働条件の合理的理由についての証明責任は使用者が負う。

*19 施設利用等も含まれる。退職金、賞与については検討を要する。

*20 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)12条1項を参考にしている。