「労働者派遣法規制強化反対論に対する意見(要旨)」
2009/10/28
「労働者派遣法規制強化反対論に対する意見」(要旨)
2009年10月28日
日本労働弁護団
幹事長 小島 周一
民主・社民・国民新党の連立内閣は、「連立政権樹立にあたっての政策合意」において、労働者派遣法の規制を強化し、派遣業法から派遣労働者保護法に改めることを確認した。規制強化の内容は、「日雇い派遣」「スポット派遣」のみならず「登録型派遣」の原則禁止、製造業派遣の原則禁止、違法派遣の場合の派遣先との直接雇用みなし制度の創設、マージン率の情報公開などである。ところが、労働者派遣事業の業界団体のみならず、厚労大臣の諮問機関「今後の労働者派遣制度のあり方についての審議会」(労働政策審議会職業安定分科会)において、使用者側委員はもとより公益委員からも派遣法の規制強化に反対する意見が述べられている。しかし、これら規制強化反対論(以下「反対論」という)はいずれも論拠の乏しいものであり、派遣労働者の置かれている現状をことさら無視するものである。日本労働弁護団は反対論に対し以下のとおり反論する。反対論の主な内容は以下のとおりである。
反対論① 規制強化は、就労機会の減少につながり失業をもたらす。
反対論② 規制強化は、人件費コストの安い海外への企業流出を招き、国際競争力を損なう。
反対論③ 労働者が自ら「派遣」という働き方を求めている。
反対論④ 貧困の問題は社会保障制度の問題であり、派遣法の規制強化は貧困の解決に繋がらない。
1、「反対論① 規制強化(登録型派遣・製造業派遣の禁止)は失業をもたらす」に対する反論
登録型派遣や製造業派遣の禁止は99年の派遣法規制緩和以前の状態に戻るだけで、労働者の就業機会がなくなることはない。現に、2008年末、大量の「派遣切り」を行った自動車メーカーが、1年もたたず直雇用の期間工を1000人規模で募集している。むしろ、規制強化は,派遣労働者の現状を改善し,派遣労働者から直接雇用労働者に移行させることで,労働者の雇用安定と労働条件改善に直結するものである。
2、「反対論② 規制強化(特に製造業派遣の禁止)は国際競争力を損なう」に対する反論
人件コストの削減や景気変動による雇用調整弁については、企業はこれまでも直接雇用の臨時工で対応してきた。労働者派遣制度の深刻かつ根本的な問題は、低賃金の雇用調整弁として位置づけられ、景気の変動により安易に職を失い、能力開発の機会にも恵まれず、雇用保険などの社会保障制度からも排除される、そういった雇用が大量に生み出されていく危険を構造的に内在していることにある。こうした危険を孕む労働者派遣制度のもとでは人材が育成されず、かえって、国際競争力を損なう。また、労働者派遣事業の年間売上は今や6兆円を超えるが、売上の大部分は企業が派遣会社に支払う手数料(マージン)である。こうした手数料は本来、労働者が直接雇用されていれば「給与」として支給されていたものである。労働者派遣は、必ずしも、企業の人件コストの削減につながっていない。さらに、国際競争力の強化は各国の共通課題であるところ、ドイツ、フランスなどのEU諸国や韓国の労働法制においては、派遣労働を一時的・補助的性格の雇用と位置付け、派遣労働者の利用事由、派遣期間、更新回数を厳格に限定し、期間制限違反や対象業務違反など法規制に反する違法派遣があった場合は、派遣先企業と労働者との間に直接雇用契約が締結されたものとみなす規定が置かれている。現在議論されている規制強化の内容はこれら先進諸国の労働法制と同程度の規制内容を定めるにすぎない。以上により、派遣法規制強化が国際競争力を損なうことにはならない。
3、「反対論③ 労働者が自ら「派遣」という働き方を求めている」に対する反論
派遣労働者の多くが正社員雇用を希望していること、やむを得ず「派遣」を選択せざるを得ない状況にあることは政府の統計資料から明らかである。「平成20年派遣労働者実態調査(厚労省)」によれば、派遣労働者の40.8%が正社員として働くことを希望している、一方、「登録型の派遣社員として自分の都合のよい時に働きたい」と回答したのは6.2%と極めて少数に留まる。また、「平成19年就業形態の多様化に関する総合実態調査(厚労省)」によれば、現在の就業形態を選んだ理由について、派遣労働者の37.3%は「正社員として働ける会社がなかった」と回答し(契約社員は1.58%、パートタイム労働者は12.2%)、また派遣労働者の51.6%は「他の就業形態に変わりたい」と希望している。「他の就業形態に変わりたい」と希望している労働者の90.9%(前回84.6%)は正社員を希望している。
4、「反対論④ 貧困の問題は社会保障制度の問題であり、派遣法の規制強化は貧困の解決に繋がらない」に対する反論
ワーキングプア拡大の要因は、聖域なき構造改革の名の下、雇用の基本原則を無視した労働市場の規制緩和により、多くの企業が恒常的業務について正規雇用労働者を低賃金・不安定雇用の非正規労働者への置き換えを進めたこと、終身雇用を前提とするそもそも脆弱な社会保障制度のもとさらなる社会保障費の削減が重なったことにある。だとすれば、貧困問題の解決のためには、社会保障政策の強化のみならず、労働者派遣法の抜本改正を含め非正規労働に関する労働政策・労働法制の見直しは必須である。