大阪・泉南アスベスト国家賠償請求訴訟を支援する決議

2006/11/11

 

大阪・泉南アスベスト国家賠償請求訴訟を支援する決議

  1. アスベスト国家賠償請求訴訟の提訴
    平成18年5月26日、泉南地域(大阪府泉南市・阪南市を含む地域)の石綿工場の元従業員、その家族、近隣農作業者ら原告8名が国に対して総額2億4000万円の支払いを、同じく10月12日、元従業員、事業主ら原告9名が総額2億3925億円の支払いを求める国家賠償請求訴訟を大阪地裁に提訴した(第1次、2次提訴)。
     アスベストによる労働者のみならず家族、近隣農作業者、零細企業の事業主も含めた健康被害で国の責任を問う全国初めての集団訴訟である。
  2. 国の責任を問う必要性と意義
    泉南地域は、戦前から、我が国の石綿産業の中心地であった。多くの石綿工場が住居・田畑に隣接して集中立地し、戦前は軍需産業を、戦後は船舶・鉄道・自動車・建設等に石綿製品を納入するなど基幹産業を支えてきた。泉南地域の多数の零細企業が石綿原石から糸、布等をつくる石綿粉じんに曝露する危険な作業を任され、石綿肺・肺がんなどの健康被害が戦前から現在まで、従業員・家族・近隣住民など「地域ぐるみ」に広がった。
    他方、泉南地域では尼崎のクボタのような大企業はなく、大半は零細企業で現在では廃業しているため企業責任の追及は困難であり、石綿新法でも対象疾病が中皮腫と肺がんのみであり、泉南地域で圧倒的に多い石綿肺は対象から除外されている。
    また、アスベストは生産・製造・解体・廃棄の全過程で被害を発生させ、生産中止後もストックがある限り被害発生の危険性が続く「ストック型公害」である。アスベストによる健康被害は、国民全体に将来起こりうるものである。
    今回の訴訟は、石綿被害について国の責任を明確することによって、国に対して石綿肺を含めた真に隙間のない被害者救済制度と将来の被害防止措置を求めていくものである。
  3. 水俣病訴訟、じん肺訴訟で断罪された国の責任
    今回の訴訟は、国が戦前から石綿被害の発生を知っており、被害を防止する措置が採りえたのに与えられた権限を適切に行使しなかったという不作為の責任を追及するものである。過去、水俣病訴訟、じん肺訴訟など数々の先陣訴訟が国の責任追及の途を切り開いてきた。その闘いの結実として、筑豊じん肺最高裁判決(平成16年4月27日)、水俣病関西訴訟最高裁判決(同年10月15日)が「法令の趣旨・目的や、権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」として国の権限不行使の責任を断罪した。最近の全国トンネルじん肺根絶訴訟でも東京地裁判決(平成18年7月7日)、熊本地裁判決(同年7月13日)、仙台地裁判決(同年10月12日)と次々に国の責任が認められている。
    この確立した判例理論に照らせば今回のアスベスト国家賠償請求訴訟においても、労働者、家族、近隣住民、個人事業主を含めて国は責任を免れない。今後、全国各地で第2弾・3弾のアスベスト被害による国賠訴訟が提訴されることが予想される。
    日本労働弁護団は、アスベストによる被害の完全な救済と将来の被害防止のために、アスベスト国家賠償請求訴訟を支援することを決議する。

2006年11月11日

日本労働弁護団 第50回全国総会