「小さな政府」による公務労働者の権利侵害に反対する決議

2006/11/11

 

「小さな政府」による公務労働者の権利侵害に反対する決議

  1. 政府は「小さな政府」を進めるために、国・自治体運営に民間営利企業の手法を導入し、あるいは公務のアウトソーシングを進めている。
    すなわち、「行政改革の重要方針」(2005年12月24日閣議決定)及び「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(行政改革推進法)において、総人件費を10年で2分の1削減、公務員数を5年で5%以上削減といった、乱暴な数値目標を掲げて国家公務員の人件費及び人員の削減を進め、さらには地方自治の本旨に反してこれを地方自治体にも押しつけている。
    また、「仕分け」という言葉を用いて、国の事務事業の廃止、独立行政法人化、そしてアウトソーシング(市場化)といった見直しを進めている。
    公務のアウトソーシングを推進する法的ツールとしては、近年、PFI法、公の施設の指定管理者制度、そして「競争による公共サービス効率化法」(市場化テスト法)などの整備が進められてきた。最新のツールである市場化テストでは、公共職業安定所の職業紹介・職業指導、厚生年金保険・国民年金保険料収納、そして地方自治体の戸籍謄本・納税証明書・外国人登録原票写し・住民票・戸籍附票・印鑑登録証明書などの交付請求の受付及び引渡しが、最初の対象とされ、さらなる拡大が検討されているところである。
  2. こうした今日の公務の市場化は、「官製市場」、「パブリックビジネス」、「50兆円市場」などと呼号し、新たな投資先としてねらっている財界の要望に添ったものである。そこでは、民間に任せればいかにコスト削減となるかだけが問題とされ、国民の人権保障や公務労働者の権利に対する配慮はほとんど払われていないという根本的な問題点がある。わずかに市場化テスト法では、国家公務員についてのみ省庁間異動努力義務や退職金通算制度が設けられたが、はなはだ不十分であるのみならず、非常勤職員や地方自治体職員、外郭団体職員の権利保障についてはまったく放置されている。
  3. こうして公務員は、労働基本権という自らを守る基本権すら奪われたまま、配置転換をされるか、民間企業に移籍するか、分限免職されるかという立場に追い込まれ、外郭団体労働者もまた、賃下げか解雇かという瀬戸際に追い込まれている。それは労働者全体の雇用条件を劣化させることにもなり、「格差社会」をさらに深刻なものにしていくだろう。
    のみならず、やみくもなコスト削減は提供される公務の質の低下を必ずや伴い、公務が絶対に確保しなければならない安全すら犠牲とされてしまう。建築確認耐震偽装問題やふじみ野市のプール事故といった悲惨な事故の原因がコスト削減策にあったことを忘れてはならない。
  4. 本来、公務は国民の人権保障のためにこそ存在している。当弁護団は、こうした基本をわきまえない安易な公務の市場化に反対し、権利侵害と闘う公務労働者を支援する。また、早急に公務員の労働基本権を回復させると共に、公務労働者の地位・労働条件に関し、誠実に団体交渉を行うことを強く求めるものである。

2006年11月11日

日本労働弁護団 第50回全国総会