Take Back Your Time!人間らしい働き方を求める宣言―日本版エグゼンプション、断固反対―

2006/11/11

Take Back Your Time!
人間らしい働き方を求める宣言
―日本版エグゼンプション、断固反対―

  1. 灰色の葉巻をくわえた「時間泥棒」は、時間を奪われている人の目には見えない。気がつかないままに、自分の時間のすべてを効率的に稼ぐことに捧げるよう仕向けられる(ミヒャエル・エンデ「モモ」より)。
    「時間泥棒」の正体は、「効率」と「利益」である。企業中心社会が私たちの時間を奪っている。生活時間がどんどん失われ、子どもを産んで育てることさえためらわれるような社会に私たちは生きている。
  2. 効率と利益を追求する企業の論理は、知らず知らずのうちに、わたしたちの生活と意識にも深く食い込んでいる。私たち自身の中にある利便性を求める心は、コンビニエンス・ストアや宅配便を普及させ、携帯電話は必需品となり、ハンバーガーチェーンまでが24時間営業に踏み切るありさまだ。
    誰もが忙しく、イライラし、疲れている。24時間社会は、人間の生理に反する深夜労働を当たり前にし、昼夜逆転した労働者人口を増大させ、エネルギーが浪費される。
    書店に行けば、いかに仕事を効率的に仕上げるかを説いたハウツー本が山積みされている。しかし、効率よく仕事を終えれば、仕事がますます増えるのはどうしたことか。まじめな人に仕事が集中する。効率の悪い人は、首を切られて当然ということが憚りなく言われる。まじめで効率の良い人も、病気になればお荷物になり、あっという間に「負け組」に転落する。再チャレンジどころか、安全網のない綱渡りの職業生活だ。
    労働者・市民は、もともと、助け合って生きてきた。効率至上主義は競争礼賛主義であり、それは企業の論理だ。これに絡め取られてはいけない。
  3. 「成果も出さない奴に金が払えるか」と言い放つ成果主義。労働者を気持ちよく働かせて成果を出すのが経営者ではないか。成果主義は経営者の無能宣言だ。成果主義は、成果がでないリスクを厚顔にも労働者に押し付ける。
    成果がでるまで一体何時間働けばいいのか、それが分からないまま、成果主義という名の競争にさらされる労働者は、他人を追い落として生き残るために長時間働くことを強制される。そして、その結果、本人が意図しないままに、同僚を失業に追い込み、何人分もの仕事を1人でこなすことによって、他人の仕事を知らないうちに奪ってしまう。
    仕事を分かち合い、誰もが人間らしく、不安を抱かずに生活できるようにするために、労働者・市民の連帯と助け合いが必要だ。
  4. 働くことは、人間にとって尊い営みであり、喜びでもある。仕事が面白くてしかたがないというときもある。充実感、達成感を感じることもある。
    その一方で、仕事がつらいとき、苦しいときもある。辞めてしまいたいと思うこともある。生きるためには働かなければならないが、仕事に捉われることは、大変危険なことだ。人間はロボットではないから、延々と働き続けることなどできない。定期的に、そして時にまとまってどこかで仕事モードをオフにして、仕事から完全にされる時間が必要だ。
    仕事から解放された自由な時間があれば、リフレッシュされ、また仕事を頑張ろうという気持ちになれる。家庭生活も充実するし、地域社会に参加する余裕もでてくる。わが子が可愛く思える。仲間が愛しく思える。
    モバイル型就労、在宅勤務などの新しい働き方が一部のメディアでもてはやされている。「労基法は、時代遅れになった」、「労基法は『手足を縛る』」と労基法が悪者扱いされ、自律的な労働者を自由にしてやれと大合唱が起きている。1日8時間労働という最も基本的な権利を奪われた労働者を大幅に増やそうする「新・適用除外」(日本版エグゼンプション)導入の合唱だ(これを厚生労働省は、「自由度の高い働き方にふさわしい制度」と名付けた。悪い冗談だ)。
    この制度導入の合唱団員は、経営者とその取り巻きばかり。当の労働者は、誰も参加していない。当の労働者はというと、過労とストレスで、そのようなことを考える時間もゆとりもない。
    発達した通信機器は、労働者のオフの時間を完全に奪っていく危険な凶器と化した。ポケベル、携帯電話、モバイルパソコンが普及する時代だからこそ、オフにするためのスイッチが必要だ。労基法はオフのスイッチだ。オフのスイッチを押したところから、人間らしい生活のスイッチが入る。
  5. 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の重要性が官民挙げて、説かれるようになった。少子化に歯止めを掛けるために厚生労働省は、企業経営者や有識者などが仕事と育児の両立支援について話し合う「男性が育児参加できるワーク・ライフ・バランス推進協議会」を立上げた。民間でも、社会経済生産性本部等が呼びかけた「ワーク・ライフ・バランス推進会議」が今年8月に発足した。
    社会全体の意識が少しずつ変わりつつある。今のままでは、社会が崩壊してしまうという危機感がようやく芽生えてきた。
    新・適用除外制度(日本版エグゼンプション)はワーク・ライブ・バランスに逆行する。この制度は、オフのスイッチを労働者から奪う。この制度は、仕事がW順調なときも仕事が苦しいとき、上手く行かないときも、労働者を成果がでるまで働き続けるロボットにする。自分のため、家族のために早く帰宅することなど望むべくもない。そして、働きすぎによる心身の故障は「自分持ち」だ。
    全世界の労働者が命をかけて勝ち取ってきた8時間労働制を崩壊させる新・適用除外制度(日本版エグゼンプション)は、死力を尽くして止めなければならない。
    しかし、私たちの目標はそんな目先のことには止まらないだろう。働く人とともに、企業中心社会を人間中心社会へ転換するための創意あふれる取組みを強め、奪われた時間を取り戻し、ゆとりと活力ある社会を実現していこう。

2005年11月11日

日本労働弁護団 第50回全国総会