不当労働行為制度における使用者の範囲を限定化する傾向に反対する決議

2004/11/6

不当労働行為制度における使用者の範囲を限定化する傾向に反対する決議

 

 近時、労働組合法上の使用者の範囲について、狭くとらえようとする労働委員会、裁判所の判断が続いている。特に、いわゆる「親子企業の関係」、すなわち子会社に対して支配力を有する親企業(「持株会社」も含む)の使用者性を否定し、使用者の範囲を限定する傾向が強まっている。経営戦略として、営業譲渡、会社分割を活用した分社化が一般的に進められている現状では、この使用者の範囲の限定化は労働組合の団体交渉権の形骸化などを通じて不当労働行為救済制度を空洞化させるものであり、看過できない。

 

 全日空及びOASがOASの子会社である関西航業を解散させたことについて労働組合が不当労働行為救済を申し立てた事件(関西航業事件)では、大阪地労委及び中労委は、全日空及びOASの使用者性を否定した。この大阪地労委命令(2000年5月26日)は、OAS経営による関西航業分会のOAS労組からの脱退工作など一連の不当労働行為を基礎づける事実関係、OASの関西航業への様々な影響力・支配力や関西航業従業員の労務提供がOASに組み込まれていることを認定しておきながら、「OASの支配力は関西航業従業員の労働条件決定までには至っていない」として使用者性を否定し、全日空についても、「直接に下請け企業の従業員の雇用や労働条件を決定するものであるとは言えない」として使用者性(団交応諾義務)を否定した。

 また、実栄証券(東京証券取引所正会員間の取引の仲介業務を行っていた会社)が、営業譲渡をして子会社(ブライト証券)を設立し実栄証券の従業員を子会社(ブライト証券)に転籍させた後に2年目以降の賃金を月額20万円に減額したことに関して、ブライト証券労組が持株会社である実栄(旧商号・実栄証券)に対して団体交渉を申し入れた事件(実栄・ブライト証券事件)では、東京都労委は持株会社である実栄の使用者性を否定した。この東京都労委命令(2004年8月6日)は、実栄が定める関連会社規程に子会社の従業員の賃金は親会社の承認が必要との定めがある事実、ブライト証券とブライト証券労組が賃金減額の最終的な団体交渉を行う直前に実栄の経営者とブライト証券の経営陣が協議をしていた事実などを認定しながら、「実栄がブライト証券に対して経営・人事等について相当の影響力を有していることは認められるものの、実栄がブライト証券従業員の労働条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を持っていると認定することは困難」であるとして使用者性(団交応諾義務)を否定した。

 そして、大阪証券取引所正会員間の取引の仲介業務を行っていた仲立証券が廃業させられたことに対して、大阪証券労組が仲立証券従業員の雇用問題について団体交渉を申し入れた事件(仲立証券事件)では、大阪地労委及び中労委は使用者性を認めたが、東京地裁民事36部(難波孝一裁判長)は中労委命令を取消、大阪証券取引所の使用者性を否定した。東京地方裁判所民事第36部判決(2004年5月17日)は、使用者性を認めるためには、「雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある」場合でなければならないとする。そして、当該団体交渉事項は、①「企業再開と組合員の雇用確保」、②「証券関係の業界での再雇用」であることから、大阪証券取引所が「仲立証券従業員の雇用確保について、雇用主である仲立証券と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」なければならないとハードルを高める。その上で、大阪証券取引所は、そのような「現実的かつ具体的に支配決定する地位にはない」として使用者性を否定した。

 このような使用者を限定的に判断した労働委員会、東京地裁が根拠とするのは最高裁判所朝日放送事件判決(95.2.28)である。しかし、この最高裁判決は、つとに指摘されているように、親子会社の事例ではなく、派遣受入企業が派遣労働者を使用していた事案であり、派遣受入企業が派遣労働者の勤務時間の割り振り・労務提供の態様・作業環境等を決定していたとして雇用主(派遣元)ではない派遣受入企業に使用者性を認めたものである。したがって、朝日放送事件最高裁判決は、社外労働者の受入の事例に関する判断であって、この判断基準を親会社が子会社を支配におく「親子会社」の場合に形式的・機械的に適用することは誤っている。

 労働組合法の目的は、労働者が使用者との交渉において対等の立場にたつことを促進することにより労働者の地位を向上させること、団体交渉その他の団体行動のために労働組合を組織し運営することを擁護し、労働協約の締結を目的とした団体交渉を助成することにある。

 「親子会社」の場合には、当該子会社の従業員の労働条件を、親会社が現実的かつ具体的に支配決定していなくとも、株式所有、役員派遣、業務関係などを通じて間接的であっても、子会社の従業員の労働条件に対して、実質的な支配力・影響力を持ち、子会社の経営を支配している場合が少なくなく、むしろそれが通例である。このような親会社に労働組合との団交応諾義務を認めなければ、十分な資料も情報もなく労働者は使用者との交渉にて対等の立場にたつことができない。子会社の労働者の労働条件について実質的な支配力・影響力を有する場合には、親会社に団体交渉応諾義務など不当労働行為制度上の使用者性を認めるべきである。実質的な権限を有する者と交渉することによって初めて意義ある団体交渉となるからである。

 われわれは、朝日放送事件最高裁判決の論理を形式的・機械的に適用して、使用者の範囲を限定する近時の傾向に強く反対するものである。

 

2004年11月6日

 

日本労働弁護団第48回総会