人間らしい労働時間規制を求めるアピール

2004/11/6

人間らしい労働時間規制を求めるアピール

1 リストラによる企業の人員削減が推し進められ、正規雇用労働者が減り、非正規の不安定雇用労働者が増大している。これに伴い、労働時間も二極分化が進み、失業や不安定短時間雇用が増大する一方で、正規雇用の中堅労働者を中心に長時間労働化が進んでいる。企業に残った正規雇用労働者は、少ない人員でより多くの仕事をさせられるだけではなく、成果主義賃金の導入によって、さらなる競争に駆り立てられ、生き残りをかけて「成果」を出すために長時間労働を余儀なくされている。
  長時間労働の問題は、長らくわが国の構造的な病理として、国際的な非難を浴びてきた。時間外・休日労働に関する労働時間規制は空洞化し、年次有給休暇の取得率も低く、賃金不払残業が蔓延し、精神障害、過労死・過労自殺が激増している。

2 2003年度に労働基準監督署の是正指導を受けた企業による残業代支払い総額は、238億円と過去最高であった。しかし、これは氷山の一角にすぎない。昨年1年間に自殺した人は、過去最悪の3万4000人と前年比で7%あまりも増加し、そのうち、借金・生活苦を理由とする経済・生活問題による自殺が25.8%を占めている。

 また、厚生労働省の調査によると、仕事や職業生活で強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者は、61.5%にのぼり(2002年)、労災認定された精神障害件数も昨年度は過去最高の108件であった。同様に過労死認定件数は、過去2番目の157件と高水準であり、過労自殺の認定件数も40件に上っている。昨年の年休の取得率は、47.4%と過去最低を更新し、取得日数も8年連続で減少している。

 

3 こうした中、政府・財界は、企業の人件費削減による収益改善を目的として、さらなる労働時間規制の緩和・撤廃をもくろみ、ホワイトカラー労働者層を対象として、労働時間規制そのものをなくそうとしている。04年1月施行の今般の労基法改正によって裁量労働制の導入要件が緩和されたにもかかわらず、厚生労働省が設置した「仕事と生活の調和に関する検討会」は、2004年6月に報告書を出し、労働時間のあり方について、所定労働時間の削減の重要性をうたいつつ、労働時間規制が必ずしもなじまない仕事については、労働者が希望するならば、労働時間の量的な規制そのものを撤廃する方向性を打ち出している。

 アメリカ型のホワイトカラー・イグゼンプションについては、従来から経済界を中心にわが国への導入が提唱されてきたが、非常に広範囲の労働者が労働時間管理の枠外におかれて、残業代が支払われないという現状に労働者の多くが不満をいだいている。ブッシュ政権は、適用範囲をさらに拡大する規則改正を強行し、アメリカの労働者からの広範な反発を呼んでいる。
 イギリスでも労働者の同意によって労働時間の上限規制を適用除外できるオプト・アウトの制度を採用しているが、同意が強制されている実態が指摘されるなど、EU内では批判の的となり、EC労働時間指令の改正が提起されている。

 

4 長時間労働、不払残業、過労死・過労自殺、精神障害、職場いじめ・ハラスメントなどの問題を放置したまま、労働時間規制の緩和・撤廃を許すわけにはいかない。むしろ、今、求められているのは、労働者の命と健康を守り、人間らしい生活を可能とする実効性ある労働時間規制である。

 すなわち、実労働時間の上限規制、残業時間の上限規制と基準時間の削減、労基法36条の特別協定の廃止、法定休日労働の禁止と閉店法・日曜営業法の制定、勤務間隔時間(休息時間)規制、年休付与義務などの規制の強化が急務である。

 また、育児介護休業法の拡大・強化や多様な働き方を主体的に選択できるシステムも必要である。

 現行労基法を十分に活用し、長時間労働を許さない社会を創り上げることも重要である。

 まず、36協定の厳格な運用と労働時間管理の徹底を求めていく必要がある。労働時間規制の強化は、単に正規雇用労働者の問題だけではなく、若年層を含む失業問題の改善にも寄与し、ワークシェアリングの推進にも通じるものである。

5 わたしたちは、労働時間規制の緩和・撤廃に強く反対するとともに、将来にわたって人間らしい生活を確保できるような新しい労働時間規制を求めるものである。
 また、多くの労働者・労働組合が長時間労働の是正に向けて、それぞれが今、一歩踏み出すことを訴えるものである。

2004年11月6日

日本労働弁護団第48回総会