労働契約法制に関する決議

2004/11/6

労働契約法制に関する決議

1 厚生労働省は、「労働契約について包括的な法律を策定するため、専門的な調査研究を行う場を設けて積極的に検討を進め、その結果に基づき、法令上の措置を含め必要な措置を講ずること」との2003年6月の労働基準法改正法案に対する衆参両院附帯決議を受け、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」を2004年4月23日に発足させた。
  この研究会は、「労働契約法制の対象とする者の範囲」、「労働契約の成立、展開、終了に係るルールの在り方」、「労働条件設定システムの在り方」、「労働契約法制の機能」を中心として調査・研究を行うものとし、各検討項目について論点を抽出するための議論を行っており、2005年春までに論点を集約し、その後検討の方向を具体的に議論して2005年秋を目途に報告書を取りまとめることとしている。

2 日本労働弁護団は、これまで、1994年4月に「労働契約法制立法提言」、1995年6月に「労働契約法制立法提言(緊急五大項目)」、2002年5月に「解雇等労働契約終了に関する立法提言」を発表し、包括的な労働契約法の立法化を求めてきた。労働審判制度が2006年より施行されるという状況において、個別労使紛争の適正迅速な解決を図るための労働審判制度を実効性のある国民の期待に応えるものとするためにも、あらためて、以下に述べるように、労使対等な立場にはない労働契約関係についての裁判規範及び行為規範として、労働契約関係上の権利義務の要件と効果を定めるものとして労働契約法が制定されることを求める。

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第一に、労働契約法制は、当事者の意思のいかんにかかわらず適用される強行規定がその基本になるべきである。事前説明や協議による「労使の合意」を尊重すべきであり、法律は介入すべきでないとの「労使自治論」は、労働組合の組織率が1割台になり、しかも労働組合がある職場でも使用者と対等の力関係にない場合が多いことからすれば、現実的基礎を欠くばかりか、実質上は使用者の一方的決定を容認することになる。
  
第二に、労働契約法制は、労働契約関係上の権利義務の要件と効果が定められるべきであり、使用者の行為の有効性要件としての合理的理由や必要性などを定める実体規制が中心となるべきである。事前の予告・説明や協議という形式的・手続的な要件のみを重視して、使用者の行為の内容を制限する実体規制を後退させることは、労働条件等を労使対等の立場で決定できない労働者に対して使用者がその一方的決定を受け入れさせることを法的に強いることにもなる。労働契約法制は、実体規制を中心とし、手続規制はこれを補完するものと位置付けるべきである。
  
第三に、労働契約法制は、労働契約関係上の権利義務の要件と効果を定める裁判規範としての民事法として、労使紛争の公正かつ妥当な解決基準を提示するものとされるべきである。労働契約法制を「自発的な法目的達成への支援」と位置付けるような考え方は、労使紛争を解決する裁判規範であること否定し、権利を実現する民事法としての意義を損うものである。

4 なお、研究会では、解雇の金銭的解決制度の検討も行うとしているが、解雇無効の場合における使用者の請求に基づく金銭支払いによる雇用関係の打ち切りは、違法な解雇に対する労働者の権利救済を無視し、解雇訴訟を複雑かつ長期化させ、さらに金銭支払により解雇が自由との風潮を生じさせるものであり、絶対に容認することはできない。

2004年11月6日

日本労働弁護団第48回全国総会