(意見書)労働組合法の一部改正に関する意見書
2004/3/5
労働組合法の一部改正に関する意見書
2004年2月20日
日本労働弁護団
会 長 宮 里 邦 雄
厚生労働大臣 坂口 力 殿
労働委員会制度の改革にかかわる労働組合法の一部改正について、当弁護団は、下記のとおり意見書をまとめたので、立法化に際し、本意見を考慮とされるよう要望する。
記
1 物件提出命令について
(1)
改正において、労働委員会は当事者の申立又は職権で調査を行う手続及び審問を行う手続において、「事件に関係のある帳簿書類その他の物件であって、当該物件によらなければ当該物件により認定すべき事実を認定することが困難となるおそれがあると認めるもの(以下「物件」という。)の所持者に対し、当該物件の提出を命じ、又は提出された物件を留め置くことができる。」との規定を新たに定めると伝えられている。
(2)
労働委員会の証拠調べの手続においては、従来、強制的な証拠調べの手続としては、いわゆる強制権限に関する労組法22条の定めがあったものの、権限行使が総会付議事項とされていたこともあり、同規定は活用されることがなく、賃金・昇格差別事件などにおいて、不当労働行為成否にかかわる事実認定及び適切かつ妥当な救済方法の決定を困難ならしめるという事態が生じていた。
今回、物件提出命令の権限を労働委員会(公益委員)に認めることとしたのは、以上のような問題を解消する重要な意義があると考えるが、上記制度には、以下のような重大な問題があることを指摘せざるを得ず、しかもこの点は、制度が有効に活用されるか否かにかかわる重要な問題である。
(3)
都道府県労働委員会がなした物件提出命令に対しては、一週間以内に中央労働委員会に審査申立て、中央労働委員会がなした同命令に対しては、中央労働委員会に異義を申し立てることができるとする一方、証拠提出命令自体について、裁判所に出訴して争うことについてこれを制限する規定をなんら設けないものとされているから、物件提出命令について処分取消の訴訟、中労委における審査申立に対する決定もしくは、異義に対する決定については裁決取消しの訴訟が可能になると考えられる。
例えば、物件提出命令を受けた使用者がその都度処分取消または裁決取消の訴訟を提起することになれば、労働委員会の不当労働行為事件審査は物件提出命令の当否について、その都度司法審査を受けることになり、その結果として司法判断が確定するまで審査手続が事実上中断し、物件提出命令がかえって、審査遅延を招くことになりかねない。
そして、このようなことを危惧する労働委員会が物件提出命令の発動に慎重になることも予想され、物件提出命令制度を設けた本来の趣旨が生かされず、物件提出命令が「強制権限制度」がそうであったように、抜かれざる「伝家の宝刀」になるおそれが大きいと言わざるを得ない。
(4)
以上の点からすれば、物件提出命令に対する不服申立制度は、労働委員会の審査手続の枠内において設けることとし、裁判への出訴は認めない旨の特則を設けるべきであり、このような制度であってはじめて、物件提出命令は審査の迅速化と適正な事実認定に資するものになるというべきである。
物件提出命令を認めることに伴い、労働委員会が物件提出命令をしたにもかかわらず物件を提出しなかった者は、裁判所に対し、当該物件に係わる証拠の申出をすることができないものとする、いわゆる取消訴訟における新証拠の提出制限規定を設けるとされるが、この規定は、当然のことながら、物件提出命令が有効に機能することが前提となるものであり、そうでなければその意義は大きく損なわれる。
物件提出命令制度は、これを有効に機能させるという面で、以上の指摘のとおり重大な「欠陥」をもつものと言わざるを得ず、この点の修正が図られるべきである。
以上の指摘については、当事者または証人に出頭を命じて陳述させる場合も妥当する。
2 審問廷の秩序維持の措置
審理を妨げる者に対する退廷等の措置はやむを得ないと考えるが、労働委員会の不当労働行為審査は団結権の侵害を救済する手続であることに十分留意し、これまで労働委員会で認められてきた審理のあり方が秩序維持の名のもとに強制的に排除されるようなことがあってはならない。
3 常勤公益委員制度について
審査の迅速化と労働委員会の専門性を高めるという点から常勤制は必要と考えられるが、常勤制はその役割の重大性に鑑み、その任にあたる公益委員には、資質、能力とりわけ不当労働行為救済制度に対する深い理解が求められることはいうまでもない。
仮にも、常勤委員制度が不当労働行為の実効的救済を後退させることがないよう、常勤委員の選任にあたっては選任基準等について特段の配慮が求められる。
4 公益委員の忌避制度
行政救済である労働委員会制度について、裁判所と同じように忌避制度が必要であるとする根拠はなく、現在、公益委員の選任については同意制がある。
また、忌避申立の結果、審査が中断し、審査遅延を招くおそれもある。
忌避制度については反対である。
5 審査の計画
審査の計画に関する規定を労組法に設けることは審査の迅速化を実現するうえで、重要な意義があると考える。計画審理が自覚的に実施されれば、審査の迅速化に向けて大きく現状が改革されるはずである。
しかし、そのためには、審査の計画を主導する公益委員の責任が重大であることが認識される必要があるとともに、事務局職員の配置について、専門的知識、経験を蓄積できるような人事が行われることが不可欠である。これらの点の改善なくして、審査の計画的実施は実際上は困難であり、この点につき、国及び都道府県に求められる責務は重大であることを指摘しておきたい。
以 上