(意見書)育児介護休業法の改正を求める意見(補充)
2003/12/10
2003年12月10日
育児介護休業法の改正を求める意見(補充)
日本労働弁護団
幹事長 鴨田哲郎
厚生労働大臣 坂口 力 殿
厚生労働省労働政策審議会雇用均等分科会 御中
当弁護団は、既に2003年11月11日付で育児介護休業法改正についての意見を提出しているところであるが、12月4日、貴分科会において公益委員より「分科会報告(素案)」が提出されたので、それを踏まえ、対象者(1項)及び短時間勤務制度等(5項)に絞り、補充意見を述べる。
記
1 有期雇用労働者への育児休業、介護休業の適用拡大について
「素案」は、休業の権利を認める有期雇用労働者につき、育児休業については、「ⅰ同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であり、ⅱ子が1歳に達する日を超えて雇用が継続することが見込まれる者、ⅲ子が1歳に達する日から1年を経過する日までに契約が更新されないことが明らかである者を除く」とし、介護休業については、「ⅰ同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であり、ⅱ介護休業開始予定日から3か月を経過する日を超えて雇用が継続することが見込まれる者、ⅲ介護休業開始予定日から3か月を経過する日から1年を経過する日までに契約が更新されないことが明らかである者を除く」とする。
(1) そもそも、労働者は、期間の定めがある者も期間の定めのない者も、合理的理由がない限り公正・平等に取り扱われることが、憲法13条・14条・27条の要請であり、また、日本が批准しているILO156号家族的責任条約は有期雇用労働者にも差別なく適用されるものである。
有期雇用契約の締結に何らの規制がなされず、事業主の一方的都合のみで、形式的な期間設定のなされることが多いわが国において、労働法上の権利の有無を雇用契約期間の定めの有無にかからしめることには、十分な合理性と周到な配慮が必要である。
(2) 「素案」の提起する要件は、合理性に欠け、かつ、極めて曖昧であって、有期雇用労働者への権利拡大を目指す趣旨が実現されているとはいえないばかりか、その適用をめぐる紛争を惹起する可能性も高い。
すなわち、①「素案」は、「子が1歳に達する日を超えて」「3か月を経過する日を超えて」の雇用継続の見込みを要件とするが、労働者はそれぞれの事情に応じて休業期間を選択するのであって、「満期」の期間を休業する者が全てではない。休業終了後に雇用継続が見込まれればよく、「1歳」「3か月」の要件は不合理に対象を限定するものである。
②また、「素案」は、「見込み」を要件としているが、何を基準に判断するのか極めて難しく、また、曖昧であり、主張・立証責任の所在ともあいまって、権利拡大ではなく紛争拡大とすらなりかねない。
なお、有期雇用に関する大臣告示(平成15年357号)では、契約締結時に更新の有無及びその基準を明示すべきとされているが、「見込み」の判断にあたり、契約締結時の明示内容がこれに資すとは限らない。明示が実施されなかった場合はそもそも基準がないこととなるし、また、明示の内容から一義的に結論を導けない場合(例えば、「更新することがある」「業績・業務上の必要・能力等を総合判断して」等々)も基準とはなりえず、かかる事案が多数を占めると想定される。また、雇止めが無効とされる場合には休業を与えるべきものとなるが、雇止めの法的可否は、契約時の明示内容のみで判断されるものではない。
③さらに、「素案」の第3要件は、企業に対する貢献度、あるいはその期待度との関係で事業主への「過大な」負担を避ける趣旨と解されるが、この点の配慮は第1要件で既に十分なされており、さらに要件を加重する合理性はない。
(3) 少なくとも1年以上継続雇用している場合には、原則として休業の権利を付与し、例外的に、該当する休業期間中に契約が終了し更新が行われないとの契約の成立を使用者が立証した場合のみ休業の権利が発生しないものとすべきである。
2 短時間勤務制度等について
「素案」は、「現行の枠組みを維持することが適当である」とする。
しかし、現行法では、措置を必要とする労働者自身には全く選択権がないばかりか、事業主が具体的に措置内容を選択し、就業規則等において当該制度を整備するか、個別具体的に措置内容を合意するかしなければ、労働者は現実に権利を行使ができないし、訴訟上も特定の措置を請求することは困難と考えられる。
事業主の不作為に対して、労働者が特定の権利行使をしうる法的枠組みが是非とも必要である。たとえば、事業主が措置の選択を懈怠したり具体的な制度整備をしていない場合には、一定期間(または割合)の労働時間短縮を選択したものとし、労働者がこれを行使できる法的枠組み等を設けることが考えられるであろう。
以 上