(意見書)不当労働行為審査制度改善のための労組法等改正についての意見
2003/11/8
不当労働行為審査制度改善のための労組法等改正についての意見
2003年10月21日
日本労働弁護団
会長 宮里 邦雄
厚生労働大臣 坂 口 力 殿
労働政策審議会
労働委員会の審査迅速化等を図るための方策に関する部会
部会長 若 菜 允 子 殿
第1
不当労働行為審査制度の現状の問題点
当弁護団は不当労働行為審査制度に関し、労働委員会が制度本来の趣旨である簡易迅速な救済機関たるべく、意見、提言をなしてきたところであるが、本年7月31日付「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会」の「報告」においても、「最大の問題点は審査の遅延であり」「(これ)をこれ以上看過することはできず、緊急に解決すべき課題であると言わざるを得ない」などとの現状認識と問題点を示し、審査手続の改善、審査体制の整備、救済命令の実効性等について改革すべき点を提起している。当弁護団も、「報告」の現状認識と問題点の指摘は基本的に妥当なものと考える。
今般、上記「報告」に基づき、労働組合法改正を含む改善策の具体的な検討が貴部会においてなされることとなったので、改めて、当弁護団の意見を述べるものである。部会審議において十分な検討を要請するものである。
第2 速やかな労働組合等の改正
1
審理迅速化、適正な事実認定と実効ある救済のために
この点につき「報告」は「公益委員の合議により、証人の出頭及び証拠の提出を命ずることができるものとし、これらの実効を担保し得る仕組みを設ける方向で検討することが適当」とするが、少なくとも以下の点を含む、法22条の改正がなされるべきである。
(1) 証拠提出命令等の権限の整備・強化(法22条1項)
① 権限を公益委員会議へ移行する。
② 提出を求めうる書類を「帳簿書類」から「必要書類」に改める。
③ 提出された書類や検査の結果等を当事者に開示する。
④ 罰則(法31条、32条)を大幅に強化する。
(2) 釈明権限
審査委員が当事者に対し、釈明を求める権限を有することを明記する(民訴法149条、151条参照)。
2 迅速な命令のために
「報告」が提起する、小委員会方式の導入及び公益委員の一部常勤化については、以下の通りである。
(1) 小委員会方式による審査・命令(法24等)
法24条等を改正し、小委員会方式による審査・命令発出をなしうることとすべきである。
(2) 公益委員の一部常勤化(法19の3・第6項本文)
公益委員の専門性や審査能力を高めるうえでの一つの方策であると考えられるが、常勤委員と非常勤委員との間で生じる様々な格差が懸念される。常勤委員が非常勤委員に較べて影響力をもつことが必至であることからすれば、どのような人材が常勤委員になるかは極めて重要な問題であり、少なくとも現状においては裁判官退官者や官僚がその給源となる可能性が大きく、広く人材を得るという点から問題がある。
常勤委員を認めるについては、公益委員としての一定期間の労働委員会実務の経験など高度な専門的知識・経験を有することなどを資格要件とすべきであり、また、任命手続の透明性を確保する選考手続を工夫すべきである。
常勤の形態についても、フル常勤のみならず、パート裁判官のような半常勤制ということも考えられるのであり、広く人材を得るという点から検討されるべきである。
労使委員の同意制については、これに変りうる、より望ましい制度が実現すればその見直しを検討することも考えられるが、そうでない限り、労使委員の同意制は必要である。
3 適正・迅速な判決のために
司法審査の在り方について「報告」は、新証拠の提出制限の導入を提起するのみであるが、以下の点につき法改正すべきである。
(1)
労委命令尊重の原則と不当労働行為の判断基準に関する条項を、労組法に規定する。
(2)
実質証拠法則を採用する。少なくとも、労委の提出命令に従わず提出しなかった証拠及び労委段階で提出可能であったのに提出しなかった証拠については、証拠提出を認めない制度(新証拠の提出制限)を導入する。
(3) 審級を省略し、第一審を高等裁判所とする。
4 命令の実効性の確保・向上のために
救済の実効性の確保については、「報告」も指摘するところであるが、以下の点につき、法改正すべきである。
(1) 初審命令の履行
中労委に初審命令の履行命令を発令する権限を付与するとともに命令違反に対する罰則を設ける。
(2) 確定命令の履行
救済命令違反に対する罰則を大幅に強化する(なお、使用者の規模により、罰則による強制力が違うことにつき十分な配慮をなすべきである)。
(3) 緊急命令
① 申立権を救済申立人である労働組合・労働者にも認める。
② 発令の要件
裁判所は、緊急命令の必要性についてのみ審査できることとする。
③ 命令違反 (2)と同様
(4) 確定判決
罰則の強化とともに、履行確保のための間接強制制度を設け、また、労働組合、労働者が当該不当労働行為により蒙った損害に対する補償措置を設ける。
5 和解の実効性確保のために
成立した和解について確定判決と同一の効力(金銭給付について債務名義を認めるなど)を有するものとする。
第3 運用の改善
「報告」が指摘する審査手続や審査体制に関する運用の改善策を積極的に取り入れ、ことに以下の点につき十分に留意すべきである。
1 特に、公益委員の審査指揮権を適正に行使すること
釈明権及び法22条の権限を適切に行使して、争点を整理し、立証計画を立て、審理計画書を作成し、当事者に交付する。
2 結審時に命令交付日を指定すること
3 会長の同意権を適正に行使し、ローテーション人事を廃止・抑制する等によって事務局体制の確立すること
4 委員・事務局の研修を計画的、継続的に、また実質的なものとして行うこと
以 上