(意見書)次世代育成支援対策推進法と指針策定に関する意見

2003/5/30

次世代育成支援対策推進法と指針策定に関する意見

2003年5月19日     

                         
                         日本労働弁護団      

幹事長  鴨田哲郎   

 次世代育成支援対策推進法案が国会上程されており、4月8日には、事業主行動計画に関し、厚生労働省企業行動計画研究会より「報告」が発表された。
 同法案は、企業に対し、厚生労働大臣の策定する指針に即して行動計画を策定し厚生労働大臣に届け出るものとし、それを常用雇用労働者300人を超える企業については義務、300人以下の企業については努力義務としている。行動計画の策定・届出を法制化したことは、300人以下企業について努力義務である不十分さはあるものの、次世代育成支援また家族的責任を行う労働者の権利保障を進めるうえで意義あるものと考える。
 問題は、この法律の趣旨が適切かつ十分に各企業において実現されるか否かであり、それは、厚生労働大臣指針の内容および運用如何にかかっている。仮に、この指針が不十分ないし後ろ向きなものとなれば、育成支援が進まないばかりか、逆に仕事と家庭の両立を困難ならしめる結果ともなりかねない。
 そこで、国会審議及びその後の指針作成にあたっては、法の趣旨を確実に実行できる行動計画策定が視野に入れられねばならない。具体的には、下記の点についての十分な配慮を求めるものである。

1 行動計画の目標、内容は、何か1つを立てれば法の要求を満たすというものではなく、少なくとも、妊娠・出産期の配慮、育児休業をとりやすく職場(原職)復帰しやすい環境整備づくり、育児を行う労働者の時間短縮および労働者の意思に基づく労働時間の変更、育児を行う労働者に対する人事上の配慮(配置、休業時の代替要員確保)・賃金保障、男性労働者を含めた職場の労働者全体の労働時間短縮などの各ステージ毎にそれぞれ、その具体的行動計画を定めることが求められること。
2 行動計画の具体的内容に関し、現行法の最低基準を上回る計画内容となるようにすべきこと。
3 「報告」では、「子供と過ごす時間の拡大」として、第1に「残業時間の縮減」を挙げ、また研究会審議の過程では具体的に1日1時間との数値目標も検討されているが、1日1時間の残業では、育休法が許容する上限と実質的に同一であって、育休法のレベル以上の措置を採ろうとする法の趣旨に合致しないのであり、まず何よりも、残業は臨時的・例外的に、かつ、36協定の範囲内においてのみ許容されるものであることが徹底されるべきであること。
4 「報告」は、「子供と過ごす時間の拡大」の第2に、「勤務時間短縮、始業時間の繰り上げ・繰り下げ、フレックスタイム、裁量労働制の活用」を並列に並べる。しかし、子育て支援を実効あらしめるために何よりも必要なことは、身分を保持したままでの短時間勤務の導入である。この点を欠いたままでのその他の措置では、子育ての必要上欠務した部分をどこかで穴埋めせざるをえず、決して実効ある支援策とはならない。
  さらに、フレックスタイムや裁量労働制は労働者が実質的に時間主権を行使しえて初めて子育て労働者にとって有用な制度足りうるのであって、現実の運用がかかる実態にないこと(社会経済生産性本部「裁量労働制と労働時間管理に関する調査報告」)に十分留意されねばならない。
また、労働時間の繰り上げ・繰り下げ、フレックスタイム制、裁量労働制、計画年次有給休暇は、現実の職場においては、企業の都合に従った労務提供を行わせるための方策として用いられている例が多数存在する。
従って、行動計画においては、まず勤務時間短縮が基本であること及びその他の措置については、法律上の要件を厳格に遵守すべきはもちろん、子育て支援という目的に沿う制度となるよう努めるべきこと。
5 育児支援の措置を受けることにより不利益取り扱いを受けたり、処遇上不合理な格差を設けることは許されないこと。

以上