(意見書)有期雇用及び裁量労働についての意見

2003/4/3

有期雇用及び裁量労働についての意見

2003年3月28日
日本労働弁護団                 

幹事長  鴨  田  哲  郎

 
労働基準法改正法案中、労働政策審議会労働条件分科会において十分な論議がなされていない有期雇用及び裁量労働に関し、以下の通り意見を述べるものであり、国会における十分な審議のうえ、必要な処置が採られるよう強く要望するものである。

第1 有期雇用労働者の退職の自由の確保
1 雇用契約の一方当事者たる労働者が生身の人間である以上、その人身の自由や人格は最大限尊重されねばならず、いかなる雇用契約においてであれ、退職の自由が確保されねばならない。年季奉公は当然とされた明治29年制定の民法においてすら、期間の定めのない雇用契約では退職の自由が認められている。
 
翻って、今日、有期雇用契約は、期間満了により理由なく契約を終了させうるという、解雇規制回避の手段として専ら使用者の必要と利益のために多用されているのであり、その「期間」が厳密な意味での契約期間ではなく、ほとんど賃金措置期間でしかないことは、多くの有期契約が更新され、また、雇止めの紛争を多発させていることから明らかである。即ち、現在の有期雇用契約は退職の自由を規制する機能は有していないのであり、退職の自由の点では期間の定めのない雇用契約と同質であり、これを別異に扱うべき理由もない。この点は、有期雇用契約における退職の自由をめぐる判例がほとんど全く存在しないことからも明らかである。
2 また、労基法14条は、労働者の人身拘束ないし労働強制の弊害を排除することを目的とする規定であり、その限度として1年が定められたものである。
 
厚労省においても、かねてより、「契約期間は1年を超えるものたとえば3年であるが契約期間中は労働者の側からいつでも解約できる旨の特約がある場合については、労基法第14条の趣旨からして労働者側の解約の自由が保障されている限り法違反とはならない」(解釈通覧 労働基準法全訂7版86頁)との解釈を示してきたところであり、今後とも退職の自由が保障されねばならない。
3 ところで、有期雇用契約には民法628条が適用となる。同条は、契約当事者は「やむをえざる事由(が)あるときは」「直ちに契約の解除(解雇又は退職)をなすことを得」と規定しており、この規定からすれば、「やむをえざる事由」がないときの退職は契約違反と評価されるおそれがある。
 
実際に契約違反(債務不履行)を理由に損害賠償請求の訴訟に至ったケースは判例上現われていないが、現実には、労働者が退職申し出をしたところ、「君の募集・採用には大金がかかっているのだのから、その分返すか、働け」と使用者から脅かされたというような相談事例は跡を絶たない。近時でも、准看護婦や新聞配達店等での悪質な「足止め」は根絶されていない。有期雇用期間が原則3年、例外的に5年と大幅に延長された場合には、高度な技術者や教育訓練に相応の費用を要する労働者に対する「足止め」策として、民法628条を根拠とするトラブルが生ずる危険は高いといわざるをえない。かかる危険を防止すべく、例えば、大学の教員等の任期に関する法律では、労基法が適用される私立大学教員の任期について、「教員が当該任期中(当該任期が始まる日から1年以内の期間を除く)にその意思により退職することを妨げるものであってはならない」(5条5項)との規定が整備されている。
4 よって、民法の特別法としての労基法に、労働者はいつにても雇用契約を解除できる旨の規定が置かれなければならない。
 
有期雇用については直ちにかかる規定を置きえないとするならば、少なくとも、長期拘束排除という法14条の本来の立法趣旨を今次「改正」法において貫くため、労基法に、1年を超える期間の定めのある雇用契約については、1年を経過した後は、「労働者はいつにても雇用契約を解除できる」旨の規定を置くべきである。
このような措置が採られないまま有期雇用の上限延長がなされるならば、使用者による不当な拘束を招くこととなり、今次改正は、専ら使用者のニーズに応えるものとして厳しく批判されなければならない。

第2 裁量労働の裁量性の確保
1 改正法案は、専門職の裁量労働制(38条の3)につき、企画職の裁量労働制にならい、労使協定事項として、健康福祉確保措置(4号)及び苦情処理措置(5号)を加えるとしているが、企画職では労使委員会決議事項とされている当該労働者の同意(38条の4第1項第6号)については何故か、労使協定事項に加えられていない。
2 ところで、社会経済生産性本部の「裁量労働制と労働時間管理に関する調査報告」(02年8~9月調査)によれば、裁量労働制が実施されている職場において、出勤時間の裁量を認めない者がいる職場が5.4%、退職時間の裁量を認めない者がいる職場が4.3%、休憩時間の裁量を認めない者がいる職場が25%、仕事の進め方やスケジュールの決定についての裁量を認めない者がいる職場が30.4%、事業所外での労働を認めない職場が60.9%とされている。
 
すなわち、同調査によれば、「業務遂行手段及び時間配分の決定」に自己裁量権を行使しえないにも拘らず、裁量労働のみなし時間制の「適用」を受けている労働者が相当数存在することは明らかである。
3 かかる違法状態を改善・根絶するには、当該労働者の個別具体的な同意を要件とすることが有力な方策であり、同じ裁量労働制に対する規制を同等とするためにも、専門職の裁量労働制について、当該労働者の同意を要件とすべきである。
4 なお、前記調査において、「企画業務型裁量労働制を導入していない理由として多く挙げられているのは、対象者と非対象者の混在によって職場管理が複雑化することへの懸念である。法律上の手続きの煩雑さではない。このことを踏まえれば、むやみに法律上の手続きの簡素化をはかるのではなく、今後の企業経営の変化を見据えながら、企業が使いやすく労働者にも受け入れやすい制度への改定をはかることが適切であろう」とされていることを付言しておく。

以  上