(意見書)弁護士報酬敗訴者負担制度に関する意見書

2003/2/12

意   見   書

2003年2月10日

日 本 労 働 弁 護 団  

幹事長  鴨 田 哲 郎 

日弁連・弁護士報酬敗訴者負担問題対策本部  御中

 貴会は、昨年の人権大会における決議にあるように、一般的な弁護士報酬の敗訴者負担制度は市民の司法アクセスを著しく阻害するとして反対の立場を表明されている。当弁護団はこの立場に賛同するとともに、とりわけ労働訴訟への同制度の導入については、次の理由から絶対反対するものである。

 もともと労働訴訟においては、使用者と労働者との間の経済的・社会的な力関係に圧倒的な格差があり、証拠開示が不十分な中で労使間における証拠の偏在は著しい。しかも労働訴訟では規範となるべき実定法が乏しく、「権利濫用」「正当性」「合理性」「相当性」「総合判断」などの抽象的基準による判例法理に頼らざるを得ない状況がある。こうした現状から、労働訴訟については、特に個々の裁判官の心証次第で結論がどうなるかが左右される余地が大きく、勝敗の見通しが立てにくい。

 現状でも、欧米では年間数十万件の労働裁判が提起されているのに対し、わが国で新規に提起される労働裁判は仮処分申立を含めても年間3000件弱と格段に少ない状況にある。仮に、労働訴訟に両面的な敗訴者負担制度が導入されるようなことになれば、基本的に賃金を唯一の生活の糧とし資力に乏しい多くの労働者は、敗訴した場合の使用者側弁護士の報酬の負担を恐れて、ますます訴えの提起を萎縮することになるのは必定であり、労働者の裁判を受ける権利が実質的に侵害され職場での権利侵害に対して泣き寝入りを強いられることになる。とりわけ、セクシュアル・ハラスメント訴訟や男女昇進昇格差別訴訟に代表される労働者の新たな権利の確立をめざす訴訟などは、到底望めないことになってしまいかねない。貴対策本部の調査によれば、現に一般的な敗訴者負担制度が導入されている韓国では、同制度が労働者による訴訟提起抑制の圧力手段として「活用」されており、勝訴した使用者が手間隙も費用も度外視して敗訴した労働者から徹底的に弁護士報酬の取り立てを図り、これを「学習の機会を与えた」と称しているとの報告もされている。

 現在、深刻な経済不況の中で、わが国の労働者は退職強要や不当解雇によって、意に反して職を奪われている。職場に残った者も、一方的な賃金切下げや「過労死」しかねないほどの苛酷な労働を強いられている。その他にも職場における権利侵害の実態は、かつてないほど深刻である。こうした状況下で、労働訴訟に弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入されては、労働者は自らの権利の実現を図る最終手段を奪われるに等しい。
 以上の見地から、貴会におかれては、今後の司法アクセス検討会において、とりわけ労働訴訟については、労働者らの司法アクセスを阻害しないために、弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入することは絶対反対の意見を強く表明されるよう、ここに意見を述べるものである。

以  上