(意見書)「公益通報者保護制度」に関する意見書

2003/2/6

国民生活審議会消費者政策部会 御中

「21世紀型の消費者政策の在り方について」(中間報告)の
「公益通報者保護制度」に関する意見書

 日本労働弁護団は、労働者・労働組合側の権利擁護のために活動している弁護士団体(構成員 約1400人)です。公益通報者は企業で働く労働者の場合がほとんどですので、労働者保護の観点から、貴部会の「21世紀型の消費者政策の在り方について」(中間報告)のうち、「公益通報者保護制度」に関して下記のとおり意見を述べます。

日本労働弁護団     

幹事長 鴨田哲郎 

1 制度の目的について
 従来は、企業の違法行為を内部告発した労働者の保護については、労働者の労働法上の保護(正当な組合活動にあたる場合には労働組合法7条による保護、労基法違反を申告した場合には労基法104条2項による保護等)、あるいは人事権の濫用の問題として扱われてきた。しかし、この枠組みでは、「労働者の利益」と「事業主の利益」の衝突の問題と捉えられてきた。そのため、事業主の重大な違法行為を是正するために労働者が内部告発をして使用者から懲戒処分を受けた場合あっても、裁判所が「動機においては正当」であっても秘密遵守義務に反して企業に損害を加えたとして懲戒処分有効などとすることとなってしまう(宮崎地裁平成12年9月25日判決「宮崎信用金庫事件」-控訴審の福岡高裁宮崎支部平成14年7月2日判決で労働者が逆転勝訴。労働判例833号)。このように、従来の労働者保護の法制度だけでは、事業者の違法行為を内部告発をした労働者を保護することには限界がある。
 そこで、公益保護のために内部告発した労働者を保護する「公益通報者」として保護する法制度(公益通報者保護制度)の創設が緊急に求められている。今回は、消費者利益の擁護のための制度とされているが、将来的には広く、環境への悪影響、重大な法令違反などについての公益通報者保護制度も早急に検討し、実現することが求められている。

2 公益通報者保護の内容について
(1) 保護の内容
 事業者は、通報した労働者を通報を理由として解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないとすべきである。この「解雇その他不利益な取り扱い」とは、解雇、配置転換、降職、賃金切り下げ、人事考課の低下等他の者に比して不利益な取り扱いをすべてを含む(参照:労働基準法104条2項)。
(2) 挙証責任の転換
 訴訟においては、不利益取り扱いが、公益通報をしたことを理由にしたものかどうかが争われることになる。不利益取り扱い禁止の実効性を確保するためには、当該不利益取り扱いに合理的理由があることについて事業者に主張・立証責任を課すべきである。
(3) 公益通報の範囲
 保護すべき公益通報の内容は、消費者利益を擁護する情報であれば、種類・範囲を問わず、消費者の健康・安全、財産、良好な環境の保護などを含めるべきである。また、公益通報の目的は、客観的に公益をまもる目的があれば良いとすべきである。

3 内部通報前置について
 経営側の一部は、事業者外部に通報する前に事業者内部にて通報しなければ保護をしないことを(内部通報前置)主張している。しかし、この内部通報前置には強く反対する。
 我が国の企業には、法令の遵守や公益の保護よりも自社の利益を優先する体質が根深く存在する。日本の企業は、企業秩序にとって「異端者」とみなした労働者について、賃金差別、査定差別、配置転換、企業内村八分、退職強要などの陰湿な不利益取り扱いを行っているのが現実である。
 そこで、事業者内の事業者従業員で組織される部署(セクション)に内部通報をなした者に関する情報が事業者に秘匿される保障は全くない。内部通報前置制度を入れれば、労働者の多くは通報を躊躇することになる。また、これを恐れて外部に通報すれば内部通報手続をしていないということで、公益通報者保護を受けられないことになってしまう。
 企業が外部通報の不利益を回避したいのであれば、自ら内部通報を受ける経営組織から独立した機関を設置し、コンプライアンスを確立して労働者の信頼を得るよう努力をすべきである。

4 通報先
 通報先を限定することは反対である。特に、テレビ、新聞などのマスメディアへの通報を制限するべきではない。公益通報保護は、労働者の表現の自由の行使でもあり、マスメディアの取材の自由、表現の自由を支える行為である。マスメディアに通報した場合に保護を受けられないとすることは、憲法違反と言うべきであろう。
 また、実際上、事業者にコンプライアンスを確立させるプレッシャーとしてのマスメディアの役割は非常に大きい。この行為を保障しないのであれば、公益通報者保護制度の実効性を大きく損なうことになる。

以  上