間接差別の対象事項の限定を撤廃し、あらゆる間接差別を禁止する均等法の改正を求める声明

2024/12/13

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間接差別の対象事項の限定を撤廃し、あらゆる間接差別を禁止する均等法の改正を求める声明

2024年12月13日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮

 2024年5月13日、東京地方裁判所は、コース別人事制度(総合職・一般職)の下で、総合職のみに借り上げ社宅制度の利用を認めていた事案について、間接差別に該当するとして違法と認め、会社に対し不法行為に基づく損害賠償請求を認容する判決(以下「本判決」という。)を言い渡し、同月28日に本判決は確定した。本判決は日本で初めて間接差別を認めた判決である。

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)第7条及び同条の委任を受けた同法施行規則第2条は、間接差別となる対象事項を限定列挙している。しかも、均等法第6条では重要な労働条件である賃金が対象から除外されているため、均等法第7条でも賃金が対象になっていない。そのため、間接差別禁止の対象は極めて狭く、均等法第7条は実効性のない規定となっている。実際、2006年に均等法7条が制定されてから本判決が出されるまで、間接差別を認める司法判断は一つも出されていなかった。

他方で、均等法7条制定時の国会の附帯決議(2006年6月14日・衆議院厚生労働委員会)では、「間接差別は厚生労働省令で規定するもの以外にも存在しうるものであること、及び省令で規定する以外のものでも、司法判断で間接差別法理により違法と判断されることがあることを広く周知し」と司法判断により均等法第7条以外の間接差別が違法となる場合があることを明らかにしている。そして、本判決も同附帯決議を参照したうえで、均等法7条の対象外の間接差別が存在することを示した。

均等法が限定した事項以外にも間接差別として違法となることが司法判断としても明確になり、均等法7条・同法施行規則2条による対象限定の意味は存在しなくなったというべきである。

 憲法98条2項により、条約は公布とともに国内的効力を有し、条約が締約国に対して法的拘束力のある文言で締約国の義務を定めている場合には、立法府は同条約が定める義務に違反する法律を改廃し、義務違反の新規立法を回避し、もって同条約を誠実に遵守する義務がある(最大判令和3年6月23日判時2501号3頁裁判官宮崎裕子、同宇賀反対意見参照)。女性差別撤廃条約(1979年採択。日本は1985年批准)は、締約国に対し、女性に対する間接差別も含むあらゆる差別の撤廃を義務付けている(1、2条)から、締約国である日本は、均等法第7条・同法施行規則2条の間接差別の対象限定を撤廃する義務がある。女性差別撤廃委員会は、日本に対し、均等法が禁止する間接差別は限定的で、条約の要求にはほど遠いと指摘している。女性差別撤廃員会が本年10月30日付けで公表した「第9回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(令和6年10月)(未編集版)」[1][2]においても「均等法における間接差別に関する規程は、体重、身長、転勤可能の要件に限定されており、年齢、妊娠、育児、都市部/農村部の人口など、国際的に認められたその他の理由については規定されていない」ことについて懸念が示され「間接差別の禁止事由の範囲を広げるよう雇用機会均等法を改正する」ことが勧告されている。

世界経済フォーラム(WEF)が公表する「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)の2024年版[3]において、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位にとどまっている。また、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2023年の男性一般労働者の給与水準を100としたときの女性一般労働者の給与水準は74.8であり、女性の賃金は、男性の4分の3にも満たない(男女共同参画白書 令和6年版)。これらの調査結果から、日本における女性に対する差別の撤廃が不十分であることは明らかである。

このような状況下で、憲法14条1項の平等の理念及び均等法1条の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図る目的を実現するためには、間接差別の是正を図ることが急務というべきである。特に、コース別人事制度の下において温存されている男女差別を是正するには、間接差別を禁止することが重要である。

 そこで、日本労働弁護団は、均等法7条・同法施行規則2条による限定を撤廃し、賃金も含めあらゆる間接差別の禁止を明確にする法改正をすべきことを求める。

以上

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第六条 事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。

一 労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練

二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの

三 労働者の職種及び雇用形態の変更

四 退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

(性別以外の事由を要件とする措置)

第七条 事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則

(実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置)

第二条 法第七条の厚生労働省令で定める措置は、次のとおりとする。

一 労働者の募集又は採用に関する措置であつて、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とするもの

二 労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に関する措置であつて、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの

三 労働者の昇進に関する措置であつて、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの

[1] 「Concluding observations on the ninth periodic report of Japan」

[2]  https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/index.html

[3] https://www.bing.com/search?q=Global+Gender+Gap+Report&cvid=b8d01c53de114d1aa89f65fdd27bcbb0&gs_lcrp=EgRlZGdlKgYIABBFGDkyBggAEEUYOdIBCDE1MzZqMGo0qAIIsAIB&FORM=ANAB01&PC=W099