育児介護休業法等の改正案に対する衆議院附帯決議に関する声明

2024/5/15

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育児介護休業法等の改正案に対する衆議院附帯決議に関する声明

2024年5月15日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木 亮

現在、国会において育児介護休業法及び次世代育成支援対策推進法の改正案について審議が行われている。そして、2024(令和6)年4月26日の衆議院厚生労働委員会において別紙の内容の附帯決議が全会一致で採決された(以下「衆議院附帯決議」という。)。

衆議院附帯決議は、当弁護団が2024(令和6)年2月1日に発表した意見書で指摘した育児介護休業法等の改正案の問題点が考慮された内容となっている。育児介護休業法及び次世代育成支援対策推進法の、男女ともに仕事と育児・介護を両立することのできる自由・平等な社会の実現に向けたさらなる改正を後押しする附帯決議であるといえる。

もっとも、これから参議院でも審議が行われるため、以下の点について修正がなされるべきであり、少なくとも参議院厚生労働委員会における附帯決議に加えられるべきである。

まず、衆議院附帯決議は、育児期・介護期に限定することなく、職場全体における長時間労働の是正が不可欠であると明示しており、この点は高く評価することができる。当弁護団も繰り返し指摘してきたが、仕事と育児・介護の両立の最大の障壁は長時間労働である。もっとも、衆議院附帯決議は具体的な対応方針を示していない。「職場全体における長時間労働の是正」を実現するためには、労働時間の量的上限規制が不可欠である。他にも、勤務間インターバルの付与、使用者の厳格な労働時間把握義務の制定も検討すべきである。

また、衆議院附帯決議は、子の看護休暇制度について、取得理由や利用日数、子の病気等のために各種制度を利用した日数等を把握することを明示しているが、できるだけ多くの育児期の労働者を対象とした大規模な調査を実施すべきである。そして、調査においては、男女別の年間取得日数、病気のために子が就学先を欠席した日数等に関しても把握すべきである。なお、当弁護団が実施したアンケートでは、子の対象年齢や取得可能日数、有給化に関して、現行の法制度及び改正案では不十分な実態が浮き彫りになった。

さらに、子の看護休暇制度について、法定の制度よりも拡充している企業の実態(法定の制度よりも多い取得可能日数、有給化等)も把握するとともに、そうした企業に関しては、女性活躍推進データベースに掲載するなど、情報開示の促進も検討すべきである。

最後に、衆議院附帯決議は育児期・介護期の労働者の転居を伴う配転(転勤)に関して言及していない。しかしながら、育児及び介護の負担は基本的に大きいものであり、また、仕事と育児・介護の両立の前提として夫婦で育児・介護を分担することが求められるものである。そうである以上、育児期・介護期の労働者の配転について、個人の意向の尊重が不可欠である。日本も批准しているILO165号「男女労働者特に家族的責任を有する労働者の機会均等及び均等待遇に関する勧告」においても、「労働者を一つの地方から他の地方へ移転させる場合には、家族的責任及び配偶者の就業の場所、子を教育する可能性等の事項を考慮すべきである。」(20条)と定められている。

当弁護団は、育児・介護を担う労働者がそれゆえに職場、そして社会で不利益を被ることなく、男女ともに仕事と育児・介護を両立することのできる社会の実現に向けて、今後も、より具体的な対応や施策を求めていく。

以上

 

別紙

1 本法による見直し後の子の看護休暇制度については、その取得理由や利用日数、子の病気等のために各種制度を利用した日数等を把握し、その結果も踏まえ、労働政策審議会において、子の対象年齢や取得可能日数などの必要な検討を行うこと。

2 所定外労働の制限、時間外労働の制限及び深夜業の制限について、その利用状況を把握し、その結果も踏まえ、労働政策審議会において、子の対象年齢などの必要な検討を行うこと。

3 三歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関する柔軟な働き方を実現するための措置について、三つ以上の措置を講じるなど可能な限り労働者の選択肢を広げるよう工夫することが望ましいことを指針で明記するとともに、施行の状況を踏まえ、労働政策審議会において、労働者の選択肢や子の対象年齢などの必要な検討を行うこと。

4 政府が掲げる男性の育児休業取得率の目標の達成に向けては、取得率だけでなく、育児休業の「質の向上」の観点から、男性の育児休業の取得日数等の数値も参照して、男性の育児・家事への参画の推進のための効果的な方策を推進すること。

5 出産や育児への父親の積極的な関わりを促進するとともに、母親だけでなく父親も不安なく子育てにあたることができるよう、伴走型相談支援において切れ目無く支援を提供すること。また、企業における父親も対象にした出産や育児への積極的な関わりの促進に向けた取組を推進すること。

6 介護休業等の対象となる要介護状態についての現行の判断基準は、主に高齢者介護を念頭に作成されており、子に障害のある場合や医療的ケアを必要とする場合には解釈が難しいケースも考え得ることから、早急に見直しの検討を開始、見直すこと。また、検討で得られた知見などを踏まえ、厚生労働省とこども家庭庁とが連携し、障害者支援に係る団体等の協力も得ながら、障害のある子や医療的ケアを必要とする子を持つ親が、子のケアと仕事を両立するための包括的支援について検討すること。

7 男女ともに仕事と育児・介護の両立を実現するためには、職場全体における長時間労働の是正が不可欠であることから、働き方改革をより一層推進し、育児期・介護期に限らず、全てのライフステージにおける労働者のワーク・ライフ・バランスの実現に取り組むこと。