真の意味で技能実習制度の廃止を求める緊急声明

2023/5/12

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真の意味で技能実習制度の廃止を求める緊急声明

2023年5月12日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮

 政府は、2022年11月22日、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」という。)を設置し、技能実習制度及び特定技能制度の在り方について、技能実習制度の存廃を含めて検討を行ってきた。そして、2023年5月11日、中間報告書が公表された。

 中間報告書では、「検討の方向性」において、「現行の技能実習制度を廃止して人材確保及び人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべき」であるとした。

 法律上、技能実習制度は、開発途上国等への技術移転等を図ることによる国際貢献を目的としていて、労働力の需給調整に利用されてはならないこととされているが、周知の通り、そのような実態は伴っておらず、人手不足が深刻化している地域や、一次産業、二次産業の「労働力」の調達に利用されている。また、技能実習制度では雇用主変更が制限されているため、雇用主が重大かつ深刻な人権侵害に及んでも技能実習生が職場から離脱することができず、権利行使が事実上妨げられている状況にある中、技能実習生の受入れと送出しの過程に制度上関与することになっている民間団体の多くが悪質なブローカーとして機能し、技能実習生から「中間搾取」を行うことが常態化してきた。これらのことから、現在に至るまで、技能実習生に対する深刻な人権侵害が繰り返し生じ、国内外からの批判に晒され、当弁護団も、その元凶たる技能実習制度を速やかに廃止することを長年にわたり主張してきた。かかる立場からすれば、有識者会議が中間報告書において、同制度の廃止を提言したことは評価しうる。

 もっとも、「検討の方向性」に立ち入ると、真の意味で技能実習制度が廃止されるかは疑わしい。以下、2点を指摘する。

 一つは転籍制限を緩和するとしつつも、原則としては転籍を制限する方向性を示していることである。技能実習制度における転籍制限は、すでに述べたとおり、技能実習生の権利行使を妨げる要因となってきた。このような転籍制限を維持すべき合理的な理由はなく、正面から転籍を原則として自由(職業選択の自由を保障する憲法22条1項参照)とすべきである。この点、中間報告書は、新たな制度の目的に「人材育成」を掲げることで、転籍制限を正当化しようとするようにも読める。しかし、「退職の自由」「辞める自由」はもっとも基本的な労働者の権利であり、人材育成目的を含め、いかなる目的であっても労働者に転籍制限をかけることは原則として認めることはできない。中間報告書は、「技術移転」の名の下に技能実習制度が実態として労働力確保に使われ、制度の目的と実態が乖離していると指摘しているが、新制度で「人材育成」の名の下に同じことが行われては元の木阿弥である。新たな制度において、「人材育成目的」を理由に転籍制限を導くのだとすれば、その目的は有害ですらあると指摘せざるを得ない。

 二つ目は、新たな制度においても、監理団体による団体監理型の受入れを存続する方向性が示されていることである。中間報告書は、監理団体が受入れ企業と技能実習生のマッチング機能を担っているとする。そして団体監理型を前提としながら、インセンティブ制度を設けるなどすることで、悪質な監理団体を排除することに重点を置く。しかし、監理団体には法律上、マッチング機能は担わされていない。むしろ、実態として監理団体と送出し機関がマッチングを行っていることこそが、技能実習生に無用な手数料支払いを求める結果を招き、来日の際に多額の借金を背負わせる原因となっている。また、監理団体が関与することによって、監理費という名目で、監理団体が労働者1人ごとに受入れ企業から毎月数万円程度の費用徴収を行っている実態もある。このような監理費は、監理団体が関与しなければ、受け入れた労働者に還元されるべきものであって、労働者が低賃金労働を強いられる原因ともなっている。これらは、たとえば、国家間によるあっせん制度を構築すれば解決できる問題であるから、受け入れる外国人労働者に無用な負担とならない制度設計を慎重に議論すべきである。

 当弁護団は、今後の有識者会議においては、以上のような問題点が解決され、真の意味で、技能実習制度が廃止され、人権保障に適った外国人労働者受入れ制度の構築に向けた議論が進められることを期待する。

以上