新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における労災手続に関する幹事長声明
2020/6/4
新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における労災手続に関する幹事長声明
2020年6月4日
日本労働弁護団
幹事長 水野 英樹
1 厚生労働省は、令和2年2月3日付基補発0203第1号において、新型コロナウイルス感染症が労災の適用対象になることを明らかにし、令和2年4月28日付基補発0428第1号において、医療従事者等や、医療従事者等ではないが感染リスクが相対的に高いと考えられる労働環境での業務に従事していた者につき、業務起因性の立証を事実上緩和した。
その結果、本年5月半ば以降、厚生労働省は労災認定を出すようになり、本年5月28日18時時点で、7件の労災認定が出されている。
2 労災補償制度は、新型コロナウイルス感染症に罹患し、休業を余儀なくされている労働者の生活を支えるためには極めて重要な制度である。労災請求を行った労働者に対し、厚生労働省が速やかに業務上決定をしていく動きを作ったことは評価できる。
しかし、本年5月28日18時時点における労災認定件数及び決定件数は、請求件数59件のうち7件と、全体の約1割にしか過ぎず、相当多数の事案が適切な救済を受けられていない状況にある。厚生労働省は、速やかに事案の調査を進め、支給決定を迅速に行うことで、感染した労働者が安心して療養に努められる環境を作るべきである。
3 労災請求に対する調査と労災認定が滞留している背景には、前掲令和2年4月28日付基補発0428第1号において、当分の間、業務上外決定を行う際に本省協議を行うべきと定められていることが一因として挙げられる。
上記通達は、医療従事者等については業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となるとしているところ、一般の労働者の場合でも、事例の蓄積が乏しい場面においては致し方ないであろうが、ある程度事案が蓄積してきた段階で、速やかに詳細な判断指針を策定するなどし、全件本省協議をさせる対応をやめ、各労基署が機動的に認定を行う体制を整えるべきである。
4 本年5月28日18時時点で、労災請求件数は全国で59件であるとのことであるが、医療機関や飲食店等で集団感染が起きるなど全国の感染者数の多さを鑑みれば、真に救済されるべき事案はこれにとどまるものではない。この背景には、新型コロナウイルス感染症に罹患した労働者やその使用者に、上記通達や労災補償制度を利用できることが十分周知されていないことがあると考えられる。
厚生労働省は、各労基署のみならず、感染患者が多く利用する全国の医療機関等にパンフレットを置いたり、各保健所を通じた情報提供を図るなど、広報をより充実させ、新型コロナウイルス感染症についても労災補償制度が適用されることを広く周知すべきである。
また、職場から感染者が出たことを露見するのをおそれ、いわゆる労災隠しを行う使用者の存在を許してはならない。厚生労働省は、労働者に対し、事業主証明がなくとも労災申請が行えることを改めて周知していくとともに、労災隠しを行う使用者に対し、厳しい指導・処分を下していくべきである。
5 加えて、新型コロナウイルス感染症に対する対応が進む一方で、それ以外の労災請求手続は著しく遅延しているという事態が生じている。これは本来あってはならない事態である。厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症以外の労災手続を一刻も早く進め、速やかに遅延を解消するべきである。