新たな外国人労働者受入れ制度創設に対する声明

2018/10/31

新たな外国人労働者受入れ制度創設に対する声明

2018年10月31日
日本労働弁護団
幹事長 棗 一郎

1 外国人労働者受入れのための新制度創設の表明
 政府は、2018年6月15日、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(以下、「骨太の方針2018」という)を閣議決定し、この中で就労を目的とした新たな在留資格を創設して、外国人労働者の受入れを拡大することを表明した。
 これまで政府は、専門的・技術的分野以外、いわゆる「単純労働」分野における外国人労働者の就労は認めない、という方針を維持してきたが、骨太の方針2018において、「従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せず、一定の専門性・技術を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを構築する必要がある」と明記し、2018年10月12日、法務省は外国人労働者受入れ拡大の制度として、「特定技能1号」と「特定技能2号」という、2種類の就労を目的とする新たな在留資格を創設する方針を示した(以下、新たな受入れ制度を「新制度」ともいう)。これは、従前の方針を実質的に転換し、単純労働を含めた外国人労働者の受入れを行うことを表明するものである。すなわち、これは移民制度を実施することに等しいものである。
 報道によれば、今秋の臨時国会において入管法改正を行い、省令で上記の新たな2種類の在留資格を創設し、同資格に基づく外国人労働者の受入れを2019年4月から開始し、2025年までに同制度によって50万人の外国人労働者を受け入れる予定であるとのことである。入管法改正では受入れ分野の限定はなく、受入れ分野はすべて省令で決定される。そして、改正される省令において受入れが検討される分野は、農業、建設、宿泊、介護、造船等14分野にわたるという。このような外国人労働者受入れ制度の拡大は、政府の説明によれば、日本社会における人手不足を背景としているものとされる。このような理由付けからすれば、新制度による外国人労働者の受入れは、今後、すべての人手不足分野に拡大されていくことは、容易に予想される。
 なお、新制度により受け入れる外国人は、あくまで「労働者」なのであるから、日本におけるすべての労働関係諸法令が受け入れた外国人労働者に対して日本人労働者と同様に適用されることは言うまでもないし、適用が除外されるようなことは絶対にあってはならない。また、労働関係諸法令が形の上では適用されても、実際には遵守されないという事態にならないための対策も必要である。

2 技能実習制度の即時廃止を求める
 本来、このような方針を打ち出すのであれば、政府は、外国人労働者の受入れ方法に関するこれまでの政府方針の誤りを認め、総括すべきである。特に、政府が、技能実習制度等によって事実上「単純労働者」を受け入れてきたという事実を直視するなら、新たな制度の創設と同時に、問題の集中している技能実習制度を廃止すべきである。
 この技能実習制度は、現在に至るまで、多くの人権及び権利侵害を生ぜしめてきた。たとえば、①技能実習生に職場移転の自由が認められていないために、技能実習生は、特定の使用者の強い支配下に置かれ、残業代ゼロ、「時給300円」といった違法な賃金で長時間働かされても声をあげることができず、声をあげれば本人の意思に反して強制的に帰国させられる等、数々の人権侵害を受けてきた。また、②技能実習生の受入れと送出しの過程に民間団体が関与することになっていることから、これらの民間団体の多くが悪質なブローカーとして機能し、技能実習生から中間搾取し、人権侵害を伴う違法な管理をしてきたこと等の問題点が指摘されてきた。さらに、③技能実習生には労働関係諸法令がすべて適用されているはずなのに、実際には、特に最賃以下の労働や賃金未払いを中心に労働関係諸法令が遵守されていないことが多かった。
 新制度を導入するのであれば、新制度はいわゆる「単純労働者」を正面から受け入れるものとなるのであるから、これまで事実上「単純労働」の受け皿となり、かつ、数々の人権及び権利侵害を生ぜしめてきた技能実習制度を直ちに廃止すべきである。

3 新制度が抱えうる問題点
 骨太の方針2018で表明されたことにより創設される新制度が具体的にどのようなものになるのか、現時点では不明瞭な点が多い。そこで、技能実習制度で発生してきた前記2で指摘した法的問題を含めて、新制度において生じうる問題点を検討する。

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