家事使用人に対する労基法適用を排除する労基法116条2項の改正を求める幹事長声明
2023/1/18
家事使用人に対する労基法適用を排除する労基法116条2項の改正を求める幹事長声明
2023年1月18日
日本労働弁護団幹事長 佐々木亮
2022年10月14日、厚生労働省が、家事使用人について労基法の規定全てを適用除外とする労基法116条2項の規定に関し、実態調査に乗り出す方針を固め、調査結果を踏まえて必要があれば同規定の見直しを検討するという方針が報道された。かかる方針は、2022年9月29日、家政婦が住み込みで7日間連続勤務した後に死亡した事案について労災と認めないという東京地方裁判所の判決がなされたことを受けての対応と考えられる。
そもそも現代において、労働者であるにもかかわらず、家事使用人であるというだけで、憲法27条2項の勤労条件法定主義に由来する労基法の規定が全て適用除外とされることに合理的な理由は見出せない。憲法27条2項は労働者の労働条件について法で定めることを要請しているが、現行法では家事使用人を労基法の適用除外としてしまっており、この憲法の要請を果たしていない状態となっている。このことは、職業が家事使用人というだけの理由で、労働者が本来享受すべき様々な保護が及ばないことになり、その労働条件や就労環境への悪影響は極めて深刻である。
この点、労基法116条2項の趣旨は、「家庭内のことに公権力は介入できない」「その労働の態様は、各事業における労働とは相当異なるものがあること」などとされている。しかし、家事使用人の労働が家庭内で行われるものであっても、それが労働であることに変わりはない。家族間の事柄でもなく、労働の態様が多様化した現代においては他の事業と相当異なるとも言い難い。現代における家事使用人とその使用者との関係は、通常の使用者と労働者の関係と何ら変わるものではない。したがって、労基法116条2項の趣旨は既に失われており、公権力の介入できない労働関係とする理由は存在しない。
むしろ、家庭内で行われる労働であるが故に、外部の目が届きにくく、前記東京地裁判決のような長時間労働による重大な健康被害や、賃金不払など使用者による搾取の問題等が放置されかねず、他の労働と比べて労基法により公権力が介入すべき要請は強いとすらいえる。したがって、労基法116条2項の見直しは急務である。
なお、現行の行政解釈では、家事使用人が家事代行業者に雇用されている場合は労基法が適用されるとされている。これに対して、家庭に雇用されている場合は労基法の適用が全て排除されることになる。しかし、この両者の違いを正当化する合理的理由はない。この点、1993年に労働省の諮問機関である労働基準法研究会部会の報告でも、ホームヘルパーなど家庭における介護業務を企業が請け負い、その企業に雇用される労働者が家庭において就労する場合には労基法の適用があることを指摘するなどして、家事使用人の労基法からの適用除外の規定を廃止することが適当であるとしている。
国勢調査によれば、「家政婦(家政夫)」として働く者は国内に約1万1000人存在する。しかも、その95%以上を女性が担い、今後、外国人労働者を家事使用人が働き手として期待する動きもあることから、この問題は、現在も多くの課題を含む女性労働や外国人労働の問題にも密接に影響する。したがって、労基法116条2項の影響は社会的にも少なくない。政府は、速やかに家事使用人に全面的に労基法が適用されるよう法改正を行うべきである。
以上