多様化する労働契約のルールに関する検討会に関する意見書

2021/9/16

多様化する労働契約のルールに関する検討会に関する意見書

2021年9月16日
日本労働弁護団会長 井上幸夫

第1 はじめに

厚生労働省労働基準局は、2021年3月24日、多様化する労働契約のルールに関する検討会を開始し、労働契約法18条(無期転換ルール)にかかる見直し検討規定(附則第3項)に基づく規定の見直し、及び勤務地や職務などが限定された、いわゆる多様な正社員について、規制改革実施計画に基づいて雇用ルールの明確化についての検討を行っている。

本意見書では、無期転換ルール施行後の状況も踏まえ、上記2点にまつわる論点につき、当弁護団の見解を述べるものである。

第2 有期労働契約は雇用の例外であるべき

 現在、新型コロナウイルス感染症拡大により、対面対人サービスを伴う飲食業・観光業・宿泊業を中心に、深刻な経済的不況(コロナショック)が日本社会を覆っている。コロナショックに伴い、日本全国で解雇・雇止めが頻発しており、厚生労働省の調査によっても、2021年9月10日時点における新型コロナウイルス感染症の影響による解雇等見込み労働者数は11万6221人に昇っている。

新型コロナウイルス感染症拡大は、多くの労働者にダメージを与えているが、そのしわ寄せは、特に非正規雇用の女性労働者に顕著である。

総務省労働力調査によると、2020年の年間平均完全失業者数は210万人と、前年より28万人増加した。年間平均の完全失業者数が増加に転じたのは、リーマンショックの直撃を受けた2009年以来、11年ぶりである。

コロナ禍の2020年において、非正規雇用者は898万人も減少しており、そのうち594万人が女性であることが判明している。このことは、女性労働者の比率の高い業種がコロナショックによる大きな打撃を受け、女性の非正規労働者が雇用の調整弁として使われたことを示している。雇止めに遭った女性労働者が、なかなか再就職できず、生活に困窮していることは、この間多数の報道機関において盛んに報じられているとおりである。

その中には、経営上の必要性が乏しいにもかかわらず、使用者による不当な解雇・雇止めが行われた事例が多数見られており、当弁護団の会員が、そのような事例における労働者の権利救済に奔走している。

 頻発するコロナ解雇・雇止め、これに伴う女性の貧困化が進んでいる根本的な原因は、法的保護が不十分な有期労働契約等の非正規雇用が濫用されていることにある。

当弁護団は、2016年10月7日、非正規雇用の「入口規制」と「不利益取扱い禁止」に関する立法提言骨子案(以下「骨子案」という。)を発表した。その中で、当弁護団は、フランス労働法典を参考に、①休業又は欠勤する労働者に代替する労働者を雇い入れる場合、②業務の性質上、臨時的又は一時的な業務に対応するために、労働者を雇い入れる場合、③一定の期間内に完了することが予定されている事業に使用するために労働者を雇い入れる場合を除き、有期労働契約を締結することを許すべきではないとする立法提言を行った。

コロナ禍の中で、違法・不当なものを多数含む雇止めが頻発し、社会不安が増している今こそ、有期労働契約の「入口規制」の導入を真摯に検討し、安易な労働契約の終了を未然に防止することこそ、政府に求められている役割である。

第3 労働条件の格差に対する対応

1 コロナ禍の中で、非正規労働者に対する雇止めだけでなく、労働条件の切り下げもまた相次いでいる。

骨子案では、使用者と有期労働契約を締結している労働者または締結していた労働者(無期転換権行使後の労働者)は、その労働条件について当該使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者より、合理的な理由なく不利益に取り扱われてはならないこと、労働条件格差の合理性の立証責任は、合理性を主張する使用者側が負うとすること、及び合理的な理由があると認められない労働条件の不利益取扱いについては、その労働条件の定めは無効とし、不利益取扱いがなければ処遇されていたと合理的に考えられ得る労働条件とすることについて、立法提言を行った。

この点についても、コロナ禍の中での格差が問題になっているいまこそ、正規・非正規労働者等の格差是正に向けた立法をさらに進めるべきである。

 また、労働条件格差の是正を図るにあたり、正社員の労働条件を切り下げ、非正規労働者の処遇に寄せることで解決を図るという対応をする使用者が相当数出てきている。このような対応は、非正規雇用労働者と正規雇用労働者との間の均等均衡処遇を図り非正規雇用労働者の処遇を改善するという法の趣旨を潜脱するものであり、許されない。

均等均衡処遇を実現する手段として、基本的に労使で合意することなく正社員の労働条件を切り下げることは望ましい対応とはいえないことに留意すべきことは、すでに「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年12月28日厚生労働省告示第430号)においても示されているが、必ずしも徹底されていない。政府は改めて周知し、非正規労働者の処遇改善の実現に尽力するべきである。

第4 無期転換ルール関係

 転換権行使に関する労働者への周知、権利行使の機会の確保

無期転換ルールが施行され、様々な報道も出ているものの、労働者への周知は芳しいものとはいえない。2018年11月に実施されたJILPTの調査では、無期転換ルールについて「知らない」が32%、「名称だけ聞いたことがある」が16.9%を占め、「内容について知っていることがある」は35.5%にとどまった。それから約2年後の2021年1月に実施された調査結果においてさえ、無期転換ルールについて「知らない」が39.9%、「名称だけ聞いたことがある」が17.8%を占め、状況はむしろ悪化している。かかる事実は、これまで厚労省が行ってきた周知に関する取り組みに実効性がないことを端的に示している。

つまり、労働者のうち、現在においてさえ、半数以上は、無期転換ルールという権利の内容を理解しておらず、政府や使用者から労働者に対し、無期転換ルールに関する周知が全く徹底していないこと、ひいては権利行使の機会の確保が不十分であることが示されている。

このような周知状況では、せっかく法律に定められた権利であっても、実際には行使することができないのであり、施行から8年以上が経過しようとしているにもかかわらず、「絵に描いた餅」状態であると言わざるを得ない。労使が無期転換ルールの意義を広く理解し、要件を満たす労働者が誰でも無期転換権を行使できるようにし、もって、労働者の雇用安定を実現しようとする無期転換ルールの実効性を確保することは喫緊の課題である。

かかる状況を抜本的に改善するためには、労働契約法4条2項に即し、使用者に対し、①労働契約締結段階において、無期転換権の存在及び内容につき、当該有期契約労働者に対して雇用契約書等の書面で説明を行う義務を課すことを、労働基準法15条1項所定の明示すべき事項として追加すること、②対象労働者が権利行使できる段階で、対象労働者に対して無期転換権の存在及び内容につき告知し、無期転換権の行使意向の有無を確認する義務を課すとともに、かかる義務に違反したことにより当該有期契約労働者が無期転換権を行使することができなかった場合には、対象労働者が無期転換権を行使したものと推定する、又は、無期転換権を行使しないまま雇止めされた後も一定期間内は引き続き遡及的に無期転換権を行使できるものとすること等の救済措置を含む立法措置を講じるべきである。

併せて、求人段階においても、求人者等が職業安定法5条の3所定の明示すべき事項として、無期転換権の存在及び内容を追加し、もって求人段階における労働市場を通じた無期転換権の周知を図るべきである。

 無期転換権直前の雇止めの防止

無期転換ルールの施行後、全国各地で、無期転換権発生を前に行われた雇止めの効力をめぐり、労働紛争が頻発してきたことは、周知のとおりである(博報堂事件(福岡地判令和2年3月17日労判1226号23頁)、地方独立行政法人山口県立病院機構事件(山口地判令和2年2月19日労判1225号91頁)、公益財団法人グリーントラストうつのみや事件(宇都宮地判令和2年6月10日労判1240号83頁)他)。

このような雇止めは、言うまでもなく無期転換ルールの実質的な脱法であり、決して許されるものではない。政府においては、使用者による無期転換権行使の妨害を禁じ、対象労働者らの救済を図る規定の創設を講じるべきである。

例えば、①更新途中で更新上限規定(不更新条項)を定めることを明文で禁止すること(無期転換期間よりも短い不更新条項を定めることは実質的な脱法に当たるため)、②特段の事情ない限り、不更新条項によって更新回数・更新年度を制限することはできないことを明文化しつつ、特段の事情の内容を指針により明確化していくこと、③不更新条項を入れる場合には、条項を入れる必要性について、対象労働者への説明義務を使用者側に課すこと、④無期転換権行使直前(権利発生前概ね1年程度)に行われる雇止め等の不利益措置を原則禁止し、脱法目的ではないこと、当該不利益措置に合理性があることの説明責任を使用者側に課すこと、⑤不更新以外にも、無期転換権行使を妨害する行為(無期転換権を行使しようとする際、使用者が当該労働者に無期雇用に転換した際の労働条件として現状の労働条件よりも不利な労働条件を提示する等)が行われた結果、権利行使ができなかった場合には、対象労働者が無期転換権を行使したものと推定する、又は、無期転換権を行使しないまま雇止めされた後も一定期間内は引き続き遡及的に無期転換権を行使できるものとすること等の救済措置を含む立法措置を講じるべきである。

 クーリング期間の脱法的利用の防止

無期転換ルールが設けられた趣旨は、有期労働契約を反復更新して労働者を長期間継続雇用するという有期労働契約の濫用的利用を防ぎ、有期雇用労働者の雇用の安定を図る点にある(平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」)。かかる制度趣旨と、クーリング期間の導入とは、本来的に相いれないものである。

2012年1月26日に当弁護団が発表した「『有期労働契約の在り方について』(建議)に対する幹事長見解」では、クーリング期間の制度については、脱法的に利用される危険性が高く、導入するべきでないと述べた。実際に、法施行後、厚労省の検討会資料にも記載されているような、再雇用を約束したうえで雇止めをし、クーリング期間経過後に再雇用をしているような事例や、無期転換権発生前に、同一事業主が運営する別の事業場にて勤務させることで、あたかもクーリング期間が置かれているような外観が作出されているような事案に関する相談も、当弁護団には寄せられることとなった。

当弁護団は、このような脱法事例を数多く生み出す元凶となっているクーリング制度は、無期転換ルールが目的としている有期労働契約の濫用的利用を誘発し、有期雇用労働者の雇用をまさに不安定化しているから、直ちに廃止するべきであることを、改めて提言する。

 無期転換後の労働条件

有期雇用労働者と正社員との間には、契約期間もさることながら、その処遇においても大きな格差が存在することは、様々な統計でも明らかになっているように、公知の事実である。労働契約法18条は、無期転換権を行使できるようにすることにより、現在、不合理な待遇格差が存在する有期雇用労働者の待遇改善を実現する方向で機能することが想定されている。

現に、労働契約法18条及び旧20条の制定時の議論において、当時の厚生労働大臣は「有期労働契約は、パート労働、派遣労働を初め、正社員以外の多くの労働形態に共通して見られる特徴になっていますが、 有期労働契約の反復更新のもとで生じる雇止めに対する不安を解消していくことや、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を是正していくことが課題となっています。 こうした課題に対処し、労働者が安心して働き続けることができる社会を実現するため、有期労働契約の適正な利用のためのルールを整備することにし、この法律案を提出しました。」と、新法の提案理由について述べている。ここでは、正社員と有期雇用労働者の労働条件格差及び期間の定めが存在することによる有期雇用労働者の雇用不安の双方を解消することで、有期雇用労働者の待遇改善が実現されることこそが立法目的であることが明確にされている。

しかるに、法施行後、無期転換行使後の労働者の労働条件の向上が必ずしも図られず、現行労働契約法18条の「別段の定め」だけでは、有期雇用労働者の雇用の安定と労働条件格差の是正という立法目的を実現するには不十分であったことが明らかとなった。

そこで、有期雇用労働者の待遇改善を実現するためには、無期転換権を行使した労働者と当該使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者とを比べ、その労働条件について合理的な理由なく不利益に取り扱われてはならないこと、労働条件の格差に合理性のあることの立証責任は、合理性があることを主張する使用者側が負うとすること、及び、合理的な理由があるとは認められない労働条件の不利益取扱いについては、その労働条件の定めは無効とし、不利益取扱いがなければ処遇されていたと合理的に考えられ得る労働条件とするという規定を新たに創設する必要がある。

 有期雇用特別措置法関連

無期転換ルールの例外を定めた有期特措法のうち、第一種(高度専門職)については、2018年度に1件認定されただけであり、ほぼ使われていないことが明らかとなっている。そうであれば、法の例外を認めるべき社会的な必要はないのであるから、特例を廃止するべきである。

第二種(高年齢者)についても、高年法に基づく継続雇用制度のもとで雇止めが全国各地で頻発し、高年法のもとでの高年齢労働者の地位の不安定さが社会問題化していることは周知のとおりである。当弁護団は、2014年3月26日、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法案」に反対する意見書を発表したが、今回の見直しを機に、改めて特措法を廃止し、併せて非正規雇用の入口規制を導入することで、高年齢労働者の十分な法的保護が図られるよう立法措置を講じるべきである。

 研究開発力強化法(科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律)・大学教員任期法関連

大学等研究機関の研究者に関しても、無期転換ルールの例外が認められているが、そもそも、無期転換ルールが設けられた趣旨は、有期労働契約を反復更新して労働者を長期間継続雇用するという有期労働契約の濫用的利用を防ぎ、有期雇用労働者の雇用の安定を図る点にある(平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」)。かかる制度趣旨と、大学等研究機関の研究者に対し広く例外を認めることとは、本来的に矛盾している。

現実問題として、制度の濫用事例も非常に多い。例えば、相当数の研究機関において、専門性が欠如しており、本来は適用できない事例であるにもかかわらず、有期雇用の研究者であるということだけで無期転換ルールの潜脱が行われている。現に、非常勤講師を組織する労働組合においては、相当多数の大学において、無期転換ルールの適用を勝ち取っているという実情がある。

したがって、大学等研究機関の研究者に対する例外措置を速やかに廃止し、併せて非正規雇用の入口規制を導入することで、十分な身分保障が図られるようにするべきである。このことは、日本の学術機関における研究基盤の強化にとっても有用である。

大学等研究機関の研究者に関する無期転換ルールの例外の見直しについては、検討会内においても速やかに論点として取り上げ、見直しに向けた議論を進めるべきである。

 

第5 いわゆる非正規公務員(会計年度任用職員等)に対する制度的手当

民間の労働者について述べた、有期労働契約の入口規制、労働条件格差是正の推進、雇用安定化の推進は、いわゆる非正規公務員にもまさに妥当するものであり、同様の立法措置を講じるべきである。

それに加え、いわゆる非正規公務員には、そもそも労働契約法19条・同18条が適用されず、法的地位が非常に不安定である。そのために、全国各地で不適切な再任用拒否が頻発し、紛争化している事例も見られる。

本来、公務職場は民間職場の模範であるべきであるが、公務職場においていわゆる非正規公務員の再任用拒否が頻発していると、社会全体の雇用の不安定化を招きかねない。現実にも、民間職場に対し悪影響を及ぼしてもいる。

そこで、政府はいわゆる非正規公務員に対しても、労働契約法19条・同18条に類似する制度が適用されるよう、立法措置を講じるべきである。

 

第6 多様な正社員関係

 労働条件明示のあり方

2016年10月に実施されたJILPTの調査によれば、勤務地や職務内容が限定された、いわゆる「多様な正社員」につき、就業規則上あるいは個別労働契約上で労働条件の明示が行われている企業は、36.2%にとどまった。「多様な正社員」は、労働条件が通常の正社員と異なる分、労働条件の明示がより一層重要であるにもかかわらず、このような現状では、対象労働者側への労働条件の明示が十分であるとはいいがたい。

このような現状を踏まえ、政府は使用者に対し、労働条件明示義務を一層強化し、労働基準法15条違反の罰金額を引き上げるなどの厳罰化を進めるべきである。特に、労働条件明示の方法としては、改訂手続が必要となり、柔軟な労働条件の設定が困難な、就業規則だけに記載しておけば足りると考えるべきではない。あくまでも、当該労働者に対して個別に明示しなければならないとすべきである。

 労働者に不利益な解雇等の人事措置を安易に許すことになってはならない

いわゆる通常の正社員と異なり、勤務地や職務等に限定のある労働条件であるからといって、明示された勤務地や職務がなくなったこと等を理由に、解雇等労働者側の不利益が促進されるような悪用に繋がることはあってはならない。

労働契約は継続的な契約であり、契約存続期間中に様々なライフイベントにより大きな変化があるのはむしろ当然である。かかる事情は、多様な正社員であろうが、通常の正社員であろうが、何ら変わりはない。

労働契約は、このようなライフイベントに対して柔軟であるべきであり、従前の就労が維持できないということだけを理由に解雇等の不利益な人事措置を安易に許すことになってはならない。かかる事態は、制度改正の想定外でもあろう。

過去の裁判例を見ても、勤務地や職務等に限定のある労働条件であることをもって易々と解雇有効と判断されているわけではなく、あくまでも整理解雇要件は、いわゆる通常の正社員と同様に堅持され、適用されているのである(スカンジナビア航空事件(東京地決平成7年4月13日労判675号13頁)、全日本海員組合事件(東京地判平成11年3月26日労経速1723号3頁)、前橋地判平成14年3月1日労判838号59頁、仙台地決平成14年8月26日労判837号51頁、横浜地裁川崎支決平成14年12月27日労判847号58頁、ジョブアクセス他事件(東京高判平成22年12月15日労判1019号5頁)等)。

つまり、使用者側に求められているのは、勤務地や職務等に限定のある社員についても、解雇を検討する前に、解雇回避努力等の実施・検討を尽くすことである。

政府としては、使用者側が解雇回避努力等の実施・検討を尽くすよう、通達等での趣旨の明示及び周知の徹底が必須である。

 労働条件格差を許してはならない

いわゆる通常の正社員と、多様な正社員との間で、労働条件に格差を設ける使用者が多いと思われるが、現状、契約期間の定めのない正社員間の労働条件格差について手当をする規定は存在しない。

しかし、労働契約法3条2項の理念に照らすと、パート有期法が適用されないからといって、合理的でない労働条件格差を許してよいはずがない。明文規定がない点に目を付けた悪質な使用者が、パート有期法の潜脱のために、労働条件に格差をもうけたいと考える対象従業員を、多様な正社員にし、格差を維持してしまうような法の潜脱が生じることも想定しうる。

そこで政府は、多様な正社員に対しても、パート有期法8条・9条に類似した制度が適用されるよう、立法措置を講じるべきである。

 正社員の働き方こそ見直すべきであること

いわゆる通常の正社員にみられる、勤務地や勤務時間に特段限定のない労働条件を設定されている労働者に対してであっても、無制限に時間外労働命令を発したり、配置転換命令を発したりすることは許されていない。裁判例においても、当該配置転換命令が違法無効である旨判断した事例は数多い。

本来見直されるべきなのは、使用者の広範な配置転換権や職場で当然視されている長時間労働が、家庭責任・介護負担等を負っている労働者が就労を継続するにあたり大きな障壁となっている現実である。これを看過し、いわゆる多様な正社員とそれ以外の正社員とを厳格に区別し、前者に対しては解雇等の不利益な人事措置を容易化し、後者に対しては無制限な配置転換や長時間労働を可能にするといった、硬直的な労務管理を許すことはあってはならない。

このような根本的な趣旨・理念については、通達等において明記されるべきである。

以 上