地域別最低賃金の大幅引き上げと全国一律制度の導入を求める声明

2022/5/9

地域別最低賃金の大幅引き上げと全国一律制度の導入を求める声明

2022年5月6日
日本労働弁護団 幹事長 水野英樹

 わが国において、労働者の賃金額の上昇が無い状態が長期間続き、最低賃金近傍労働者が増大している。現行法上、地域別最低賃金は、「地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない。」とされている(最低賃金法9条2項)。さらに、2007年の法改正では、「労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする。」との条項が設けられた(法9条3項)。

地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の最低生計費について、研究者らによる最近の調査によれば、その金額は単身の若者において月額22~24万円(租税公課込み)となり、都市部か地方かによってほとんど差がなかった。ちなみに、月額22~24万円とは、月に173.8時間働くと仮定した場合、時間給に換算すると1300~1400円に相当し、現行最低賃金と大きな隔たりがある。すなわち、長時間の残業時間労働によって、低賃金労働者の生活が維持できているのである。ワークライフバランスを実現するためには最低賃金の大幅引き上げが不可欠である。

 また、地域間格差も深刻である。2021年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1041円であるのに対し、最も低い高知県と沖縄県は時給820円であり、221円の開きがある。

1978年以降、中央最低賃金審議会が全国の地域をA~Dの4つに分類し、それぞれの分類ごとの引き上げ目安額を答申し、各地の地方最低賃金審議会は各地の引き上げ額答申について、基本的にその目安額にしたがった答申を行うことが慣例として続いていた。その結果、この15年間において地域間格差は2倍となり、時給200円以上の開きが生じている。こうした中で、2020年、2021年、中央最賃審議会は、A~Dすべての地域に一律の目安額を示し、さらにC、D地域では目安額を上回る答申が相次いだ。しかし、著しい地域間格差が解消したわけではない。

上記の研究者らによる最近の調査によれば、最低生計費については都市部か地方かによってほとんど差がないことが明かとなった。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有が不可欠だからである。早期に地域間格差を解消することが必要である。

 現在、厚労省の最低賃金審議会において「目安制度のあり方に関する全員協議会」が設置され検討がなされており、2023年3月をめどに報告がまとめられる予定である。全員協議会においては、地域間格差の拡大をもたらした目安制度に変わる抜本的改正策として、全国一律制実現に向けた協議を開始すべきである。

現在、地域別の最低賃金を導入している国は、カナダ、中国、インドネシア、日本の4カ国のみである。地域別最低賃金を設定している日本以外の国は、国土が非常に広く、労働者は簡単には移動できない。地域別に最低賃金を設定した場合、交通の便がよく、移動が容易なほど、労働者は最低賃金の低い地域から高い地域に移動してしまう可能性が高くなる。わが国において、最低賃金の低い地域から高い地域に人口流出が生じており、地方の地域経済に深刻な影響を与えている。地方の地域経済活性化のためにも最低賃金の全国一律制実現は重要である。

 最低賃金の大幅引き上げと全国一律制の実現のためには、十分な中小企業支援策が不可欠である。最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施しているが、利用件数はごく少数であり、充分に機能していない。強力な支援策を講じることが必要である。諸外国で採用されている社会保険料の事業主負担部分の減免措置を期間を限定して実施することが有効と考えられる。

 時給221円も開いてしまった地域間格差を一気に解消することは困難である。一定の期間をかけて徐々に解消することが求められる。その際、雇用と経済に混乱が生じないように、国や自治体は充分な監視と対策をとることが必要である。

 上記のとおり、日本労働弁護団は、国に対し、中小企業への充分な支援策とセットによる最低賃金の大幅引き上げと全国一律制度の実現を求めるものである。