労働基準関係法制研究会「報告書」を受け、実効性ある労働者保護規制と労働組合活性化の具体化を求める声明

2025/2/3

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労働基準関係法制研究会「報告書」を受け、実効性ある労働者保護規制と労働組合活性化の具体化を求める声明

2025年2月3日
日本労働弁護団  幹事長 佐々木 亮

 厚生労働省に設置されている「労働基準関係法制研究会」は、全16回の議論を終え、2025年1月8日、「労働基準関係法制研究会報告書」(以下「報告書」という)を公表した。当弁護団は、報告書を踏まえ、実効性ある労働者保護規制、及び労働組合活性化の具体的施策の実現を求めるものである(なお、報告書で検討が加えられている労働者性、労使コミュニケーション、労働時間法制について、今後具体的な提言を行う予定である)。

 報告書は、まず、労働基準法における「労働者」について、同法第9条の定義規定は維持しつつ、「昭和60年労働基準法研究会報告」は「働き方の変化・多様化に必ずしも対応できない部分も生じている」として、「見直しの必要性を検討していく必要がある」と明言する。具体的には、国際的な動向も視野に入れながら、「人的な指揮命令関係だけでなく、経済的な依存や交渉力の差等について、どう考えるか」、「労働者性の判断において、立証責任を働く人側に置くのか、事業主側に置くのか(推定規定)」といった点も検討事項にあげている(11~12頁)。「昭和60年労働基準法研究会報告」の見直しの必要性、及び推定規定の必要性は、当弁護団も指摘してきたところ、報告書が同趣旨の指摘をしたことは重要であり、早急に報告書の趣旨に沿った議論が開始されることを求める。

なお、家事使用人について、「家事使用人のみを特別視して労働基準法を適用除外すべき事情に乏しくなった」とし、「家事使用人に対して労働基準法を全面的に適用除外する現行の規定を見直」すことを指摘している(13~14頁)。当弁護団は、これまでも、家事使用人について速やかに労働基準法の規定を適用する改正が行われるべきである旨を述べてきたところであり、早急な法改正が求められる。

 当弁護団含め多くの労働団体が警戒し批判を強めていた成果もあって、後述するとおり、報告書は「労使コミュニケーションの在り方」について、労基法による保護からの逸脱、適用除外(いわゆる、「デロゲーション」の問題)を直ちに拡大することは言及しなかった。たとえ集団的な合意によっても、労基法の定める労働時間規制等が安易に適用除外されることは労基法の強行法規性の放棄であり、将来的にも許されるものではない。

こういった「デロゲーション」拡大を防ぐためにも、現状必要なのは、報告書が明言するとおり、「労働組合が実質的で効果的な労使コミュニケーションを実現する中核」である「労働組合を一方の担い手とする労使コミュニケーションを活性化していくこと」である(20頁)。報告書が、労働組合「活性化」の必要性を正面から位置づけたことは重要であり、今後、労働団体含め、本来の労使コミュニケーションの主体である労働組合活性化等の施策を具体化していくことが求められる。

報告書は、「過半数労働組合にも適用可能な支援」として、「労働組合が過半数代表として活動する場合の活動時間の確保や、使用者からの必要な情報の提供、意見集約のための労働者へのアクセス保障などの支援」などをあげている(20頁)。これらが重要であるのはその通りだが、支援等が必要なのは、何も「過半数」を組織する労働組合に限られるものではない。事業場の過半数を組織していない労働組合に対する支援等も必要であるし、そういった少数労働組合も労使コミュニケーションの担い手としての役割を担っており、それら少数労働組合も支援の対象とする方策についても、今後、検討がなされるべきである。なお、労働組合活性化の施策は、報告書が記載している使用者による活動時間の確保や情報提供などに限られない。組織率向上のために行政等が行う施策も含め、様々ある。

また、報告書は、「『過半数代表者』の適正選出と基盤強化について」、「過半数代表者の適正選出を確保し、基盤の強化を行うに当たり、まずは労働基準法において、「過半数代表」、「過半数労働組合」、「過半数代表者」の法律上の位置付け、役割、過半数代表者に対する使用者からの関与や支援等を明確に定める規定を設ける法改正を行うことが必要」とする(20頁以下)。過半数代表者の選出手続の適正化、そのための法規整等を行うこと、特に過半数代表者が使用者から独立かつ自主的に活動することは、本来の労使コミュニケーションの主体である労働組合の組織拡大・活性化のためにも重要な課題であるから、これらについては労働組合の組織拡大・活性化に資する内容で実現させていくことが肝要である。

 報告書は、「労働時間法制の具体的課題」について、法定労働時間週44時間の特例措置の「撤廃」、管理監督者等に関する健康・福祉確保措置などを検討することを求めている(37~38頁)。また、法定休日については、①変形休日制(4週4休制)に関連して、「13 日を超える連続勤務をさせてはならない」旨の規定を労働基準法上に設けるべきこと、②あらかじめ法定休日を特定すべきことを法律上に規定することに取り組むべきことなど、具体的な提言がなされている(40~41頁)。これらについては、報告書を踏まえて速やかに法改正を行うべきである。

その他、勤務間インターバル制度についても、「多くの企業が導入しやすい形で制度を開始するなど、段階的に実効性を高めていく形が望ましい」としており(41~43頁)、制度化に向けた具体的な検討を早期に開始する必要がある。

 先にも触れたとおり、検討会では、労働基準法の規制を除外する「デロゲーション」なるものが議論されていた。報告書でも、「保護が必要な場面においてはしっかりと労働者を保護することができるよう、原則的な制度を、シンプルかつ実効性のある形で法令において定め、その上で、先述した労働基準関係法制の意義を堅持しつつ、労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とすることが、今後の労働基準関係法制の検討に当たっては重要である」などの記載がある(5頁)。「労使コミュニケーションの在り方」に関する箇所でも、「それぞれの規制において適切な水準が担保されることを前提に、労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とする仕組みとなっていることも必要となる」(19頁)、「将来的に労働者全体の意思を反映した労使コミュニケーションが十分実効的に機能するようになった際には、過半数労働組合等の労働者集団と使用者との合意と、労働契約の規律との関係について、長期的な課題として議論していくことも考えられる」といった記載がある(29頁)。

この点については、現行法制においても、労使合意による「法定基準の調整・代替」は存在するが(裁量労働制度、高度プロフェッショナル制度等)、報告書では新たな「法定基準の調整・代替」の創設は、「テレワーク時のみなし労働時間制」を除き、具体的には何ら示されていない(テレワーク時のみなし労働時間制についても、その危険性等についての懸念が記載され、継続的な検討とされているに留まる)。実際、検討会において、新たな「デロゲーション」なり、法定基準の調整・代替を可能とする制度は具体的には検討されてこなかった。先に述べたとおり、これは、当弁護団含め多くの労働団体が警戒し批判を強めてきた成果である。

労基法は、労働者が人たるに値する生活を営むため、雇用と労働条件の最低基準を保障するものである。特に労働時間規制については、労働者の生命・健康はもとより、労働者の生活時間を保障するためのものでもあって、その適用除外・柔軟化は安易に認められるべきものではない。それは、「労使コミュニケーション」「労使自治」という名の下においても許されるものでもない。当弁護団は、今後も「労使自治の名による労働時間規制の緩和」に反対するものである。

 以上のとおり、報告書は、労働者保護規制、及び労働組合の活性化について重要な指摘をしている。当弁護団は、これら指摘を「検討」で終わらせるのではなく、速やかな実現を求める。当弁護団も、具体的な提言を積極的に行う予定である。また、繰り返し指摘しているとおり、新たな「デロゲーション」や法定基準の調整・代替を可能とする制度に関する議論が行われることについては、当弁護団は強く反対する。

以上