「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」についての声明
2022/9/27
「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」についての声明
2022年9月27日
日本労働弁護団
幹事長 水野英樹
政府は、「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」(以下「方向性」という。)を突然公表し、パブリックコメントを募集した。報道によれば、新法を制定するという。
「方向性」において示されている「フリーランスの取引を適正化し、個人がフリーランスとして安定的に働くことのできる環境を整備する。」とする目的そのものに異存はない。しかし、「方向性」の公表は唐突感を否めず、不十分な点がある。
一例を挙げれば、「方向性」においては、「一定期間以上の間の継続的な業務委託」に関して、7項目の禁止行為を定めるとしているが(第2項(1)(エ))、中途解約や不更新については特段の禁止行為を定めることとはせず、30日前の予告や理由の説明義務を課すにとどまっている。しかし、特定の委託先からの継続的な業務委託を行っているフリーランスは、その契約は生活費を得るために極めて重要なものであり、正当な理由なく解約することをも規制すべきである。
また「方向性」は法が定める遵守事項に違反する事実がある場合について、国の行政機関に申告することができることを定めるが(同(2))、その実効性の確保について言及するところがない。申告を受けた行政機関が速やかに相談に対応し、違反した事業者に対して実効性ある指導を行う体制がなければ、フリーランスの保護は画餅に帰す。新法においては、実効性ある相談機関の体制やその権限について定めるべきである。
第三に、「方向性」は、対象者となるフリーランスを「業務委託の相手方である事業者で、他人を使用していない者」とする(第2項柱書)。労働基準法や労働組合法などの労働関係諸法令の適用を受けるべき労働者である者が、しばしば「業務委託契約」などの契約名称のもと、「労働者」として扱われないという実情がある。その中で「方向性」は、本来労働関係諸法令が適用されるべき者までを「フリーランス」と扱って新法の範囲に限定することで、これらの者を労働関係諸法令による保護から遠のかせる危険をはらんでいる。そもそも働き方が多様化する中で労働関係諸法令の適用を受けるべき者の範囲を検討して見直すことが重要であるにもかかわらず、これを棚上げしたまま「フリーランス」の取引適正化についてのみ議論を進めることが問題である。簡易迅速な救済の見地から、本来労働関係諸法令の適用を受けるべきだが「フリーランス」と扱われている者についても新法の保護を及ぼすにしても、実態として労働基準法や労働契約法、労働組合法が定める労働者は、新法の制定をもって、これら労働関係諸法令による救済を否定されることがあってはならない。このことを新法において明記すべきである。
最後に、本声明において指摘した点は、「方向性」の問題点を網羅したものではない。「フリーランス」として働く者、そして労働者を実効的に保護するため、「方向性」に記された内容のみを既定路線とすることなく、さらに検討を深め、関係各方面の法整備を進めるべきである。