看護師等の労働者派遣を拡大する労働者派遣法施行令の改正に反対する声明

2021/4/2

看護師等の労働者派遣を拡大する労働者派遣法施行令の改正に反対する声明

2021年4月2日
日本労働弁護団
幹事長 水野英樹

 2021年2月25日、菅内閣は、看護師、准看護師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師のへき地にある病院等への労働者派遣、看護師の社会福祉施設等への日雇派遣を可能とする「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令の一部を改正する政令」を公布し、この改正は同年4月1日から施行となった。今回の改正の主な理由は、地域によって看護師等の確保が困難であること、社会福祉施設等における看護師を確保することにあるとされる。

 しかしながら、日本労働弁護団は、労働者派遣を拡大する上記の労働者派遣法施行令の改正に反対する。
 日本全国で必要な人に必要な看護等が提供できるように看護師等の人手不足を解消することは国が果たすべき役割であるが、その方法が労働者派遣の拡大によるものであってはならない。労働者派遣には、間接雇用として雇用管理の責任の所在が不明確となり、中間搾取により待遇も劣悪となりやすく、雇用も著しく不安定であるなどの重大な問題がある。日本労働弁護団の「非正規雇用の「入口規制」と「不利益取扱い禁止」に関する立法提言骨子案」(2016年10月7日)でも示したように、必要なことは上記のような重大な弊害のある労働者派遣を利用できる場合を限定する「入口規制」であって、労働者派遣の拡大では決してない。

 特に、日雇派遣は、雇用がより一層不安定で、派遣元・派遣先の双方で必要な雇用管理が行われない、教育訓練が不十分で労働災害が発生する危険が高いなどの様々な重大な問題があることから、労働者派遣法35条の4で原則禁止としているのであって、看護師を社会福祉法人等へ日雇派遣することを可能にする上記改正は、看護師に多大な不利益を負わせるものである。
 実際、厚生労働省の「福祉及び介護施設における看護師の日雇派遣に関するニーズ等の実態調査集計結果」(令和2年3月)においても、「看護師等の派遣労働者として働く上で感じた雇用管理上の課題」として、「契約の範囲外の業務や、想定外の業務の実施」(24.1%)、「指揮命令系統が不明確」(20.4%)、「不適切な労働時間管理(就業日・就業時間・休憩時間・時間外労働・休暇)」(14.8%)、「労働者の安全・衛生面の確保」(14.8%)など、派遣労働者としての就業経験がある看護師等の57.4%が雇用管理上の課題を挙げている。
 また、同調査の「看護師等の派遣労働者として短期就業する場合の懸念点」として、「派遣先にすぐに順応できない」(43.1%)、「契約が細切れで収入が安定しない」(33.4%)、「業務の遂行により事故が生じた場合に、十分な補償が受けられるか心配」(24.7%)「複数の職場で働くため健康が心配」(16.0%)など、派遣労働者としての就業経験がある看護師等の84.2%が派遣労働者として短期就業する場合の懸念点を挙げている。

 さらに、へき地の病院等への看護師等の派遣は、チーム医療に支障が生じる等により、労働者派遣法4条1項3号、同施行令1項各号により原則禁止としてきたものであって、これを解禁することによって医療の質の低下が懸念されるところである。
 社会福祉施設等への看護師の日雇派遣についても、チームケアの実現を困難にすることなどから、サービスの質の低下にもつながるおそれがある。上記調査の「看護師等の派遣労働者として働く上で感じた医療安全上の課題」においても、「どのような体制で、医療安全管理が行われているかがわからない」(39.8%)、「利用者の情報収集をする時間が不十分」(35.2%)、「医療安全に関するマニュアルを把握する機会がない」(27.8%)、「起こりやすい医療事故等について、把握する機会(研修等)がない」(25.0%)、「医療安全を推進する上で、同僚とのコミュニケーションが不足している」(24.1%)など、派遣労働者としての就業経験がある看護師等の74.1%が医療安全上の課題を挙げている。

 以上のとおり、労働者派遣の拡大は、看護師等に多大な不利益を負わせ、さらには、医療等の質を低下させるものであって、人手不足の解消の手段として不合理である。看護師等の人手不足の解消は、直接雇用で、かつ、待遇を改善することにより実現すべきことであって、このような観点から、国は、賃金の原資となる診療報酬や介護報酬の適切な改定、一人当たりの労働の負荷を軽減するために人員配置基準を引き上げて人員の増加などを行うべきである。

以上