労働契約でない働き方を容認する高年法改正案に反対する緊急声明
2020/2/14
労働契約でない働き方を容認する高年法改正案に反対する緊急声明
2020年2月14日
日本労働弁護団
幹事長 水 野 英 樹
政府は、2020年2月4日、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、「高年法」という)の改正案を含む雇用保険法等の一部を改正する一括法案を閣議決定し、第201回通常国会において審議されることが予定されている。
高年法改正案は、高齢者の就業機会の確保及び就業の促進のために、65歳以上70歳未満の定年の定め又は継続雇用制度を導入している事業主に対して、その雇用する労働者について、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置として、①当該定年の引き上げ、②65歳以上継続雇用制度、③当該定年の定めの廃止(高年法改正案10条の2第1項本文)又は労使で同意した上での雇用以外の「創業支援等措置」として(同項但書)、④新たに事業を開始する高年齢者との間で労働契約ではない委託契約その他の契約の締結、⑤3つの種類の社会貢献事業について高年齢者との間で労働契約ではない委託契約その他の契約の締結のいずれかの措置を講ずることを努力義務としている(同条第2項)。
使用者はいずれの措置を選択してもよく、上記④の制度は高年齢者が65歳以後に自ら新たな事業を開始することを前提とするものであり、上記⑤の制度は高年齢者が65歳以後に労働契約によらずに社会貢献活動に従事できるとするものであって、その契約形式はいずれも雇用によらないものである。
しかしながら、高年法改正案において、65歳以上70歳までの就労確保措置として、労働契約でない契約形式による制度すなわち雇用によらない創業支援等措置を導入することには反対である。たとえ、労使合意に基づいて導入されるとの制約が課されているとしても、労働基準法や労働契約法、労働安全衛生法、最低賃金法などの労働関係法規の適用が否定される働き方を認めることは、高年齢者を労働法の保護から外すものであり、働く者の権利を著しく侵害することになるから断じて容認できない。
また、高年齢の就労者は、転倒等の事故による労働災害の発生率が極めて高いことを踏まえると、労災保険の適用が否定される働き方を認めることは、働く者が労災事故にあった際の救済の途を閉ざすこととなり、有害である。高年齢者の労働災害の発生率が高いことは、昨年5月17日、厚生労働省が発表した「平成30年労働災害発生状況の分析等」によれば、「転倒」による労働災害は60歳以上が39.5%も占めていることに示されている。
現在、政府は「雇用類似の働き方」を拡大する方向の政策を取っており、一部の企業において、労働者を業務委託や請負契約等の「雇用によらない働き方」に切り替える動きがある中で、「雇用によらない働き方」を推進することを容認する高年法改正案は、このような企業の動きに弾みをつけお墨付きを与えるものであり、65歳以上の高齢者の就労確保に名を借りて、わが国の雇用を破壊し、労働者保護に大きな風穴を開けるものである。
高年齢者の就労確保は雇用によるべきであり、当弁護団は高年法改正案に「創業支援等措置」制度を設けることに強く反対する。
以上