働き方改革関連法「同一労働同一賃金」関連省令等に関する意見
2018/8/29
働き方改革関連法「同一労働同一賃金」関連省令等に関する意見
2018年8月29日
日本労働弁護団
幹事長 棗 一郎
いわゆる働き方改革関連法案の成立により、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)及び改正労働者派遣法にいわゆる「同一労働同一賃金」に関する規定が定められた。
以下、これらの法律において整備が予定されている省令・指針・ガイドライン等に関する意見、及び今後の法改正の必要性についての意見を述べる。
第1 改正労働者派遣法について
1 改正派遣法第26条7項、同8項、同10項(派遣先から派遣元への情報提供に関する規定)について
(1)改正派遣法26条7項は、派遣先に対し、労働者派遣契約の締結前に、派遣元事業主に対して、派遣労働者が従事する業務ごとに比較労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供する義務を課す。
これは、改正法の目的である派遣労働者の派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇を実現する前提として、派遣労働者の諸待遇を決定する派遣元事業主が派遣先の通常の労働者の賃金等の待遇に関する情報が必要であることから規定されたものである(水町勇一郎「『同一労働同一賃金』のすべて」(有斐閣2018年2月25日)100頁)。
ア 派遣労働者と派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇を実現するためには、かかる情報提供義務は必要不可欠であり、上記条項は重要なものである。これを実効的なものとするためには、派遣元事業主が派遣労働者の待遇を相応なものとすることができるように、派遣先の通常の労働者の待遇について必要十分な情報が提供されなければならない。したがって、このような派遣労働者の待遇向上のために必要な情報提供を確保するため、改正法26条7項の「その他の厚生労働省令で定める情報」として、派遣先の通常の労働者(正社員労働者)の就業規則、賃金規定、退職金規程等の諸規定が含まれることを規定し、それらの交付義務を派遣先に課すべきである。
イ また、派遣元事業主に派遣先の比較労働者の賃金その他の待遇に関する情報等が提供されるだけでは、派遣労働者がそれらの情報等を直接知りうる保障はない。改正派遣法31条の2第4項は、派遣元事業主に対して、派遣労働者と比較対象労働者の待遇の相違の内容及び理由等を説明する義務を課しているが、これは派遣労働者の求めに応じて初めて説明する義務を課すものである。このため、派遣労働者は、派遣元事業主にまず尋ねない限り、待遇差の有無及び内容について知ることができず、これでは派遣労働者は待遇差について知る契機が限定されてしまい、不均等・不均衡な待遇差が存在しても、是正の機会が失われる可能性がある。
この点、改正派遣法31条の2第2項1号は派遣元事業主に対し、派遣労働者を雇い入れるに際して、事前に「労働条件に関する事項で厚生労働省令に定めるもの」を文書の交付等により明示する義務を課している。また同条3項は、派遣労働者を派遣するに際しても、前項第1号に掲げる事項の明示を要求している。派遣労働者の雇い入れ乃至派遣に際し、当該派遣労働者に対し、比較対象労働者との待遇の相違が明示されれば、当該派遣労働者は待遇差をあらかじめ認識することができ、それが不均等・不均衡なものである場合には、これを是正するきっかけとすることができる。
そこで、派遣元事業主が派遣労働者の雇い入れ乃至派遣の際に当該派遣労働者に対し明示することが義務づけられる改正派遣法31条の2第2項1号にいう「労働条件に関する事項として厚生労働省令に定めるもの」の中に、同法26条7項で派遣先が派遣元事業主に対して説明することが義務づけられる比較対象労働者の待遇を含めるべきである。
(2)改正派遣法26条8項は、同条7項の「比較対象労働者」を、派遣先に雇用される通常の労働者であって、職務内容並びに職務内容及び配置変更の範囲が、派遣労働者と同一であると見込まれるものその他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者として厚生労働省令に定めるものと規定する。
同項で改正派遣法は、派遣先に、派遣元事業主に対する「比較対象労働者」の待遇の説明義務を課すことで、派遣元事業主が「比較対象労働者」の待遇を把握させ、派遣労働者と「比較対象労働者」との均等・均衡待遇を実現させることを想定する 。「比較対象労働者」の待遇が派遣労働者の待遇と相違し、その相違が不合理である場合、派遣労働者の当該待遇は、不合理な待遇を禁止する改正派遣法30条の3第1項に違反することになる。
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