正当な労働運動を破壊する「共謀罪」創設に反対する声明
2017/3/22
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正当な労働運動を破壊する「共謀罪」創設に反対する声明
2017年3月22日
日本労働弁護団幹事長 棗一郎
政府は、2017年3月21日、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」(共謀罪法案)を閣議決定し、衆議院に提出した。この法案は過去3度にわたり国会に提出されたものの世論の批判を受け廃案となった共謀罪法案とその本質において同一のものである。共謀罪の本質は、犯罪の謀議の段階で処罰しようとするものであり、まさに「思想や内心の自由」を取り締まり、国家権力による思想・言論統制や弾圧に利用される危険が極めて高いものである。
日本労働弁護団は、労働者・労働組合の正当な活動を制約するおそれの高い共謀罪の創設に対して、強く反対する。
現在政府が提出しようとしている法案は、長期4年以上の懲役又は禁固の刑を定める一定の犯罪について、組織的犯罪集団の団体活動として、当該行為の遂行を二人以上で計画した者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の準備行為を行ったときは、5年又は2年以下の懲役又は禁固に処するとしている。すなわち、二人以上で一定の犯罪の「共謀」(犯罪の合意)をし、何らかの「準備行為」を行っただけで犯罪として処罰することを容認するものである。
政府は、「組織的犯罪集団」に対象を限定すると説明するが、恒常的にテロ等の犯罪を標榜する組織に限定されているわけではない。適法に結成された労働組合であっても、一定の犯罪の「共謀」が存在したと捜査機関が判断すれば「組織的犯罪集団」と認めることが可能な概念となっている。また、「準備行為」という概念も、何をもって準備とするかが曖昧で、捜査機関の判断によって犯罪と無関係な行為も「準備行為」に当たると判断され、捜査の対象となり得る。
とりわけ、当弁護団が危惧するのは、この法案が成立した場合に使用者や政府がこれを悪用し、労働組合のあらゆる活動が捜査や弾圧の対象となりうることである。
例えば、労働組合が不当解雇撤回などを求める企業門前での抗議行動を計画してチラシを作成することや労働組合がストライキを計画して組合員への連絡文書を作成すること、労働組合が「ブラック企業」の製造する商品の不買運動を計画して記者会見の資料を作成すること、労働組合が団体交渉で要求を貫き何らかの妥結ができるまで交渉に応じるよう使用者に要求し続けることを組合内部の会議で確認すること、政府の労働法制改悪反対の行動を企画することなど、これらはいずれも正当な労働組合の活動にかかわる行為である。
しかし、これらの正当な組合活動についても、ひとたび共謀罪が創設されれば、「組織的な威力業務妨害」「組織的な信用毀損・業務妨害」「組織的な強要・組織的な逮捕監禁」「組織的な恐喝」などの「共謀」および「準備行為」をしたものとでっち上げられて捜査され、組合員が逮捕されたり組合事務所が捜索・差押えされたりする危険がある。過去にも、捜査機関により労働組合員が犯罪をでっち上げられて逮捕されるという刑事弾圧事件は枚挙にいとまが無く、歴史的にみれば労働運動の弾圧に共謀罪が利用される可能性は極めて高い。一旦共謀罪が悪用されると、結果的に共謀罪を根拠に立件された事件について裁判所が無罪判決を出したとしても、正当な組合活動に対する萎縮効果が生じ、労働組合が壊滅的な打撃を受けるのは必定である。
また、「共謀」を立証するためという口実で、捜査機関が日常的に労働組合や企業内部にスパイを送りこみ、電話の盗聴やメールを監視するという捜査手法が正当化され一般化してしまうおそれがある。現在は表現の自由のもと、労働組合内部であらゆる議論をすることが可能であるが、ひとたび共謀罪が成立すれば、共謀罪での摘発の危険をおそれ萎縮し、労働者が労働組合に入ることを躊躇するようになりかねない。労働組合の団結自体が危機に陥ることになってしまう。
このように、共謀罪は労働者・労働組合の正当な活動に対し国家権力が日常的に介入することを可能にするものであって、憲法で保障された労働基本権を骨抜きにするものである。
日本労働弁護団は、憲法で保障された労働者及び労働組合の権利を擁護する立場から、共謀罪の創設に断固として反対する。
以上