安倍政権の掲げる「非正規雇用の待遇改善」に対する幹事長声明

2016/7/6

安倍政権の掲げる「非正規雇用の待遇改善」に対する幹事長声明

2016年7月6日

日本労働弁護団幹事長 棗一郎

安倍内閣は、本年6月2日閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」において、「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」の実現を掲げ、その具体的な施策として、「労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の的確な運用を図るため、どのような待遇差が合理的であるかまたは不合理であるかを事例等で示すガイドラインを策定する」こと、「不合理な待遇差に関する司法判断の根拠規定の整備」、「待遇差に関する事業者の説明義務の整備など」を含めた上記三法の「一括改正等を検討し、関連法案を国会に提出する」としている。

しかし、現在、正規雇用労働者に比べて雇用が不安定で賃金などの待遇も著しく低い非正規雇用労働者が我が国の労働者の約4割を占めるようなったのは、歴代の自公政権が非正規雇用を拡大する労働政策を取り続けてきたからであり、実際、現安倍内閣は昨年9月の国会で、派遣労働を事実上無期限に使い続けることを可能にし、派遣労働者を増加させる労働者派遣法の大改悪を派遣労働者と労働組合の反対の声を無視して強行採決し成立させた。それに加えて、安倍政権は、野党から対案として提出されていた、いわゆる「同一労働・同一賃金推進法」を骨抜きにして成立させ、派遣労働者と正規雇用労働者との待遇格差をこれまでと同じように放置する立法政策を取った。

非正規雇用の問題を解決するには、大改悪された労働者派遣法を直ちに元に戻してさらに抜本的な見直しをすることにより派遣労働を減らし、さらに有期雇用労働者は合理的な理由がなければ雇うことができないとする「入り口規制」を定めて有期雇用を減らすとともに、実効性の期待できない「ガイドライン」を作成するだけに終わらせるのではなく、労働契約法20条やパートタイム労働法8条等を改正して、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との労働条件の相違に合理性があることについて使用者側への立証責任の転換、労働条件の相違に合理性が認められない場合の法的効果(損害賠償だけでなく正規雇用労働者と同じ労働条件を認める補充的効力の明文化)や救済内容、法を遵守するために他の労働者(特に正規雇用労働者)の労働条件を引き下げてはならないことなどを明記するべきである。

また、同一価値労働同一賃金原則は、日本も1967年に批准しているILO100号条約(「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」1951年採択)で明記されているように、もともと男女賃金等の差別是正のための原則であり、雇用形態の違いによる不利益取り扱いの禁止とともに、性による賃金などの差別禁止を実効のあるものにするためには、労基法4条や男女雇用機会均等法を改正して、前記のような立証責任の転換、労働条件の相違に合理性が認められない場合の法的効果や救済内容などを明記する必要がある。

これまで非正規労働者の待遇改善とは真逆の態度をとってきた安倍政権の政策に鑑みれば、「ニッポン一億総活躍プラン」が真に非正規労働者の待遇改善を実現することを目指しているか極めて疑問である。「非正規労働者の待遇改善」は労働者にとって重要な課題であり、参議院選挙前の政治的パフォーマンスに終わらせてはならない。

日本労働弁護団は、非正規雇用労働者の待遇改善のため、また、女性労働者の雇用や賃金差別の是正のため、これまで各地の弁護士が裁判などの取り組みをしてきたが、今後、立法提言などを含めてさらに取り組みを強めていく決意である。

以上