あるべき労働時間法制の骨格[第一次試案]
2014/11/28
あるべき労働時間法制の骨格[第一次試案]
(2014年11月28日)
日本労働弁護団
会 長 鵜飼良昭
はじめに
本年6月20日、第186通常国会で全会一致で過労死防止対策推進法が成立した。そして、本年11月は、同法による初の「過労死防止月間」である。過労死を防止するためには、長時間労働を合理的に規制していくことが第一に必要である。
安倍内閣が臨時国会に提出した「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」は、衆議院の解散により成立しなかった。しかし、同法が目指した「女性の活躍」については異論のないところであろう。女性が活躍するためには、再現のない長時間労働が大きな障害になっていることは明らかであり、この点からも、長時間労働の合理的な規制は不可欠である。
労働弁護団は、長時間労働の合理的な規制について、国会で、世論の中で、真剣な議論がなされることが必要と考えている。これに資するために、我が国の労働時間法制のあるべき姿の試案を提案する次第である。
議論を複雑化させないために、思い切って、上限規制、勤務間インターバル規制に絞った提案を行う。
第1 試案を発表する目的
(1) 労働時間法制を巡る検討項目の多様性
今後の労働時間法制の在り方を巡っては、多くの検討項目がある。例えば次のとおりである。
総労働時間の上限、休憩時間、休息時間(勤務間インターバル)、時間外労働の上限・割増率、代替休暇、法定休日、年次有給休暇、変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制、裁量労働制、管理監督者、過半数代表制
(2) 制度設計上の根幹部分を明確にする必要性
労働時間法制に関して、上記のとおり多くの検討項目がある中で、これらを漫然と一つ一つ検討するのではなく、まず、制度の根幹となる部分を明確にし、この根幹部分について基本的な制度設計を行ない、場合によっては、これを他の項目よりも優先し先行させて法改正を実現させることについて検討する必要がある。
(3) 今日早期解決を求められている喫緊の二つの重点課題と解決方法
今日、労働時間制度を巡り早期解決を求められている喫緊の重点課題は、第一に、長時間労働をなくし、いわゆる過労死が生じない職場環境を整えることであり、第二に、育児や介護等の負担があっても男女が共に家庭生活と仕事を両立させながら働き続けることができる職場環境を整えることである。
この二つの喫緊の重点課題を実現させるために、直ちに実現させるべき立法措置は、①総労働時間の上限規制、②休息時間(勤務間インターバル)の設定の二つである。
(4) この試案の役割
この第一次試案は、①総労働時間の上限規制、②休息時間(勤務間インターバル)に関して、関係各方面での検討の素材を提供するために、具体的制度設計の叩き台として提示するものである。
第2 あるべき労働時間規制(骨子)
1 労働時間の量的上限規制
(1) 量的上限の具体的数値
①
具体的提案内容
時間外労働を含む総実労働時間の上限を次のとおりとする。
1日の上限 10時間
(労働協約により1日12時間まで延長可能)
1週の上限 48時間
(労働協約により1週55時間まで延長可能)
各週の実労働時間のうち法定労働時間(週40時間)を超過する部分の時間の合計の上限
年間220時間
② 上限時間数に関する先行例
フランスの現行法制に準拠して提起する。
(但し、フランスの法定労働時間は週35時間であり、これを超過する労働時間の合計の上限が年間220時間とされている。この点ではフランスより劣る。)
(フランスで少子高齢化に歯止めがかかり、出産率が上がった理由の一つは労働時間の量的上限規制をしたことにある。)
③ 日本の現行制度とその問題
日本の現行法制では、時間外労働の限度基準(大臣告示)として、時間外労働の限度は1か月45時間、1年間360時間とされているが、罰則はなく、労働基準監督署が助言指導を行うことができるにすぎない。さらに、「特別の事情」が予想されるときは、限度時間を超えて労働時間を延長できる旨の労使協定を締結することができる。日本には労働時間について実効性ある量的上限規制がない。
(2) 適用対象
みなし労働時間制や管理監督者の場合も適用対象とする。
(これらの制度は、賃金計算上の制度として残すが、健康破壊防止のために実労働時間の量的上限規制の対象とし、使用者は実労働時間を把握する義務を負う。)
(3) 適用除外
災害等非常時対応の場合には、適用除外とする。
(4) 激変緩和のための経過措置
激変緩和のために、5年の期間で段階的に移行させ、5年後に完全実施する。
2 勤務間インターバル
(1) 勤務間インターバルの具体的数値
① 具体的提案内容
使用者は、勤務開始時点から24時間以内に連続11時間以上の休息時間を付与しなければならない。
(始業時刻が固定されているか否かを問わずに、労働から解放された終業時刻から11時間以上を経過しなければ、次の労働を開始することができない。また、始業時刻から終業時刻までの途中に長時間の休憩時間があっても、実労働時間と休憩時間の合計である拘束時間は13時間以内でなければならない。)
② 休息時間数に関する先行例
イギリス、ドイツ、フランスの現行法制に準拠して提案する。
③ 日本の現行制度とその問題
日本の現行制度では、始業時刻から終業時刻までの中間におく休憩時間についての規定はあるが、勤務終了時刻から次の勤務開始時刻までの休息時間についての規定、及び、拘束時間の上限の規定が存在しない。
(2) 適用対象
みなし労働時間制や管理監督者の場合も適用対象とする。
(3) 適用除外
災害等非常時対応の場合には、適用除外とする。
以 上