「解雇の金銭解決制度」の導入を許さない決議

2014/11/8

「解雇の金銭解決制度」の導入を許さない決議

 

安倍政権は、「雇用維持型から労働移動支援型へ」のスローガンの元、産業競争力会議や規制改革会議等で、解雇の金銭解決制度を導入しようとしている。

2014624日付「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」においても、「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」として、金銭解決制度につき諸外国の例を研究し、2015年度中に検討を進めるものとされ、裁判所において解雇の有効性が争われた労働審判・訴訟の和解・調停の内容を調査しようとしている。再来年の通常国会に解雇の金銭解決制度を導入する法律案が提出される可能性がある。

解雇の金銭解決制度の議論の背景には解雇制限の緩和要求がある。経済界や規制改革論者は、日本における解雇規制は世界でもトップレベルに厳しく、その予測可能性も乏しいので、企業の合理的経営を阻害していると主張する。

しかし、議論の前提となる認識には誤りがあると言わざるを得ない。OECDの雇用保護指標(2013年発表)では、日本の一般労働者の雇用保護は34カ国中低い方から10番目であり、国際的な比較では、むしろ日本の解雇規制は弱いといえる。そして、現実的には明らかに不当と解される解雇が強行される例は多く、訴訟において無効と判断されるような事案は氷山の一角に過ぎない。また、様々な裁判例が蓄積されることにより予測可能性は十分担保されているといえるし、そもそも強行法規である解雇権濫用法理を予測可能性が困難であることを理由に緩和することは到底許されるものではない。

解雇の金銭解決制度は、たとえ判決により解雇が無効とされても金さえ払えば当該労働者を企業から放逐する手段を企業に与えるものであり,解雇規制そのものを根底から覆すものである。さらに、これにより企業にとって好ましくない労働者を恣意的に排除する手段として利用される危険性が高いものである。解雇に至るまでには、さまざまな理由や事情があるのであり、その解決の結果も個別の事情に基づくものであって、一般化することはできない。また、労働者は単に金銭を得るためだけでなく、生き甲斐など自己実現のために働いている。一定額の金銭を支払うことによって一方的に労働関係を終了させることができるとすることは、労働者のすべての権利を支える雇用保障を奪うのみならず、労働者の自己決定権を侵害し、個人の尊厳にも反するものであって到底許されない。

 日本労働弁護団は、解雇規制を根底から覆す解雇の金銭解決制度の導入を許さず、労働者の権利と生活を守るための闘いを継続していくことをここに決意するものである。

2014118

日本労働弁護団 第58回全国総会