高年齢者雇用安定法改正法案に対する意見書

2012/3/28

    高年齢者雇用安定法改正法案に対する意見書

                                        2012328

日本労働弁護団   

幹事長 水口洋介

はじめに

 小宮山洋子厚生労働大臣は,平成24年2月16日,「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案要綱」(以下「法律案」「法律案要綱」という。)について,労働政策審議会(会長:諏訪康雄)に対して意見を求め,同審議会は,同月23日,法律案要綱について,「おおむね妥当と認める。」との答申をした。

 法律案の概要は,1.継続雇用制度の対象となる高年齢者につき事業主が労使協定により定める基準により限定できる仕組みを廃止する,2.継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みを設ける,3.高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する規定を設ける,4.雇用機会の増大の目標の対象となる高年齢者を65歳以上の者にまで拡大するとともに,所要の整備を行う,5.所要の経過措置を設ける,とするものであり,今後,この法律案について国会で審議が行われることになる。

そこで,審議にあたって参考とされるよう,法律案について労働弁護団として,以下のとおり意見を述べるものである。

 

1 希望者全員を継続雇用するとした点は評価できる

⑴ 法律案が,継続雇用制度の対象となる高年齢者につき事業主が労使協定により定める基準により限定できる仕組みを廃止するとしている点については,以下の理由により,賛成である。

   日本の高年齢者の就業意欲は非常に高く,65歳以上まで働きたいという者が高齢者の大部分を占めており,また,高年齢化にともなって労働生産性が低下する事実は認められないことなどからは,60歳を超えても引き続き労働することを希望する労働者について,その機会が保障されることが非常に重要であることはいうまでもない。本来は,法定定年年齢の65歳への引き上げが真剣に検討されるべきである。また,現行の高年齢者基準は,労使協定によって定めるものであるが,明確かつ妥当な基準を定めること,および,継続雇用を希望する労働者が定められた基準に合致しているかの判断は,必ずしも容易ではなく,現に,紛争となることも少なくなく,制度を存置する積極的理由があるとはいえない。

この点に関しては,現行の高年齢者基準を廃止して希望者全員を継続雇用することに対して,若年者雇用に大きな影響を及ぼすとして,反対する意見がある。しかしながら,希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は全企業のうち5割近くにのぼっており,また,継続雇用希望者のうちで実際に継続雇用される割合は約97パーセントにのぼっている(「平成2361日高年齢者の雇用状況集計結果」〔厚生労働省〕)ように,すでに,希望者全員が継続雇用される企業実務は,相当程度定着しているといえるが,若年者雇用に大きな影響が及ぼされたという事実は認められない。また,全就業者数も,2020年には2009年と比較して約433万人減少すると見込まれているように,労働力人口が今後減少していくことが予想されているのであるから,この労働需給の観点からも,高年齢者が継続雇用されたとしても,若年者雇用が抑制されるおそれはないといえるのであり,上記の反対意見には理由がない。

⑵ また,法律案の改正に際し,同法9条に私法的効力がある旨を明記すべきである。

前述したとおり,定年年齢を超えても希望すれば継続して労働できる機会の保障は,労働者にとって非常に重要なものであり,希望者全員について,継続雇用を認める制度を導入する以上は,私法的効力を明記することが肝要である。この点,仮に私法的効力を否定する場合,制度を整備している企業より,何らの制度を整備していない企業の方が,労働者を継続雇用することを免れ,わずかな損害賠償をもって,その責任を回避すると言う矛盾が生じうるところである。これでは継続雇用制度自体が実効性のないものとなり,画餅に帰することになる。

かかる矛盾を回避するためにも,私法的効力を明記することが必要である。

 

2 基準制度を存続させる経過措置は反対

法律案が,所要の経過措置を設けるとしている点について,雇用と年金を確実に接続した以降は,できる限り長期間にわたり現行高年齢者基準を利用できる特例を認める経過措置を設けることには,反対である。

確かに,この場合,老齢厚生年金受給開始年齢より低い定年年齢を定めることはできず,老齢厚生年金受給開始年齢までの就労の機会は保障される。しかし,老齢厚生年金は,受給しうる年金の一部に過ぎず,それだけでは,必ずしも健康で文化的な最低限度の生活が営めるわけではなく,やはり,労働により収入を得る機会を保障する必要性は非常に高い。また,対象者基準が残る以上,基準の適用等をめぐって常に紛争が発生する可能性が残ることには変わりがない。

上記のような経過措置は設けるべきではない。

 

3 継続雇用される企業をグループ企業まで拡大することについて

法律案が,継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みを設けるとしている点については,あくまでも例外的措置とすべきで,原則は定年までの使用者が継続雇用をすべきである。

労働者は,定年年齢を迎えるまで長年にわたって働いた会社においてこそ,継続して働く場合に能力を発揮できるし,労働者も,同一事業主の下で継続して働くことを希望することが通常であるから,やはり,定年年齢に達するまで雇用した使用者が,継続雇用の責任を負うことを原則とするべきである。

また,仮にグループ企業まで拡大する場合は,派遣法等,他の法制に反しないよう注意が必要であるので,その旨,十分に留意すべきである。

 

4 企業名公表には賛成

 法律案が,高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する規定を設けるとしている点については,希望者全員の継続雇用の実現のために有益な対策であって,賛成である。

なお,雇用確保措置を実施していない企業について指導を徹底すること,希望者全員の65歳までの雇用確保についての普及・啓発などを行うことなども,国の重要な責務として,積極的に実施されるべきである。

 

5 対象の拡大には賛成

法律案が,雇用機会の増大の目標の対象となる高年齢者を65歳以上の者にまで拡大するとともに,所要の整備を行う,としている点については,賛成である。

 

以上