ILO94号条約の批准と公契約法の制定を求める意見
2011/6/15
ILO94号条約の批准と公契約法の制定を求める意見
2011年6月15日
内閣総理大臣 菅直人 殿
国土交通大臣 大畠章宏 殿
農林水産大臣 鹿野道彦 殿
総務大臣 片山善博 殿
日本労働弁護団
幹事長 水口洋介
1 国や自治体が公共工事や公共サービスなどを民間に発注する公契約の多くは,予定価格の内で最も安い金額で入札した者が落札する入札制度で受注者が決められている。
しかし,この制度を野放しにしたならば,落札するために事業者は低価格で入札し,落札後は利益を出すために,その労働者の賃金や下請業者に対する請負代金を徹底的に切り下げ,その結果,非正規労働者を典型とする低賃金労働者が生まれることになりかねない。
2 このような事態を憂慮し,ILOでは,「公契約における労働条項に関する条約」(第94号)を1949年に採択した。同条約では,公契約における労働条件の相場水準を確保することを定め,約60カ国がこれを批准し,それらの諸国では公契約規制が進められている。
ところが,これまで自民党政府は,民間部門の賃金その他の労働条件は関係当事者の労使間で合意されるべきものであり,労基法違反の場合を除き政府が介入するのは不適当だとして,同条約を未だ批准せず,公契約法も制定してこなかった。
しかし,最低賃金法に基づく最低賃金ではフルタイムで働いても生活保護水準にも収入が達しない現実が存在することからすれば,この自民党政府の見解は,政府としての責任を放棄しているに等しい。
3 これに対し,国内の一部自治体では,採算度外視の低額入札の増加や公契約に関する業務に携わる労働者の労働条件の悪化を懸念し,事業者が自治体から事業を受注した場合に一定の義務を契約上課すことを定めた公契約条例を制定する動きが出ている。例えば,この先駆けとなった千葉県野田市の公契約条例(2009年9月29日成立)では,公契約の受注者や下請業者などが労働者に対し,市長が定める賃金の最低額以上の賃金を支払わなければならないと定める。
4 しかし,この野田市の公契約条例もその前文で定める通り,「労働者の適正な労働条件が確保されることは,ひとつの自治体で解決できるものではな」い。まずは国が,公契約における適正な労働条件を確保する姿勢を明確にしなければならない。
特に,本年3月11日に発生した東日本大震災被害からの復興のため,これまでにも増して多くの公契約が国や自治体と民間業者の間で締結されることは必至である。復興事業の名に隠れて,これに尽力する労働者に不当な低賃金や劣悪な労働条件などのしわ寄せがいくことは決して許されない。
5 以上より,公契約に関する業務に携わる多くの労働者の労働条件を適正に確保するために,政府はすみやかにILO第94号条約を批准し,公契約に関する基本法を定めることを求める。
以上