非訟事件手続法及び家事審判法の見直しに関する中間試案に関する意見

2010/9/24

    非訟事件手続法及び家事審判法の見直しに関する中間試案に関する意見

                                              2010年9月24日

                                                日本労働弁護団
                                                幹事長  水 口 洋 介

 非訟事件手続法及び家事審判法の見直しに関する中間試案(以下「中間試案」という。)中、第1部非訟事件手続法の見直しについて、労働審判制の観点から意見を述べる。

第1 中間試案第1部第1ないし第5について
   労働審判法が適用を除外しまたは独自規定を設けている事項については、労働審判法において適用除外を明示して、労働審判の運用に影響を及ぼさないようにすべきである。
 1 是非とも立法化すべき事項
   〔手続上の救助〕(新設)については、是非とも立法化の上、労働審判法においても準用すべきである。
 2 労働審判法において適用除外とすべき事項
 (1) 〔裁判所及び当事者の責務〕(新設)及び〔当事者の役割〕(新設)について、既に労働審判規則2条に類似規定を有することから、労働審判法において適用除外とすべきである。
 (2) 〔忌避〕(新設)について、労働審判法は、「紛争の実情に即した迅速・・・な解決を図ることを目的」とし(労働審判法1条)、敢えて忌避規定を設けず、準用もしていないことから、労働審判法において適用除外とすべきである。
 (3) 〔任意代理人〕について、労働審判法は、適用除外とした上で、独自規定(労働審判法4条)を設けていることから、労働審判法において適用除外とすべきである。
 (4) 〔受命裁判官〕(新設)及び〔事実の調査の嘱託〕(12条関係)について、労働審判法7条は、労働審判委員会で労働審判手続を行うと定めていることから、審判官1人による手続きを可能とし審判員を排除することとなる受命裁判官及び受託裁判官の規定は、労働審判法において適用除外とすべきである。
 (5) 〔電話会議システム〕(新設)について、労働審判は、口頭主義を徹底していることや(労働審判規則17条1項前段)、第1回期日から可能な証拠調べを実施すべきことから(労働審判規則21条)、労働審判法において適用除外とすべきである。
 (6) 文書提出命令等に従わない場合の真実擬制に代わる過料の制裁について、労働審判法17条は、民訴法の例によるとしていることから、労働審判法において適用除外とすべきである。
 (7) 〔記録の閲覧等〕(新設)について、労働審判法26条は、当事者又は利害関係疎明第三者について、許可を不要としていることから、労働審判法において適用除外とすべきである。
 (8) 〔非訟事件の申立ての取下げ〕(新設)について、既に労働審判規則11条の定めがある上、労働審判の確定又は本訴移行まで可能であると解されていることから、適用除外とすべきである。
 (9) 〔和解・調停〕(新設)について、既に労働審判規則22条の定めがあることから、適用除外とすべきである。
 3 立法化に異議がない事項
 (1) 〔当事者能力及び手続行為能力〕(新設)について、労働審判法においても従来から民訴法が類推適用されると解されてきたことから、立法化に異議はない。
 (2) 〔当事者参加〕(新設)について、労働審判申立後の労働契約承継の場合等に一応有益と考えられることから、立法化に異議はない。
 (3) 〔利害関係人参加〕(新設)について、既に労働審判法29条が準用する民事調停法11条に定めがあるものの、立法化について異議はない。
 (4) 〔併合申立て〕(新設)について、労働審判法に定めがないものの、実際の労働審判手続運用においては認められている例も存することから、立法化に異議はない。
 (5) 〔申立ての変更〕(新設)について、既に労働審判規則26条に定めがあるものの、立法化について異議はない。
 (6) 〔手続きの分離・併合〕(新設)について、既に労働審判規則23条に定めがあるものの、立法化について異議はない。
 (7) 〔手続きの受継〕(新設)について、労働審判法においては当然承継と解されているものの、受継手続の立法化について異議はない。
 (8) 〔費用の負担〕について、既に労働審判法18条、21条5項等に各自負担の原則の定めがあるものの、立法化について異議はない。
 (9) 〔手続きの中止〕(新設)、〔通訳人の立会い等〕(新設)、〔弁論能力を欠く者に対する措置〕、〔本案裁判〕、〔自由心証主義〕(新設)、〔終局裁判の脱漏〕(新設)、〔法令違反を理由とする変更の裁判〕(新設)、〔更正裁判〕(新設)、〔本案裁判以外の裁判〕(新設)、〔本案裁判以外の裁判の取消し又は変更〕(新設)、〔費用額の確定手続〕(新設)、〔和解及び調停の場合の費用額の確定手続〕(新設)、〔費用額の確定処分の更生〕(新設)について、労働審判法に定めがないものの、立法化に異議はない。
 4 その他
 (1) 〔選定当事者〕(新設)、〔中間裁判〕(新設)、及び〔再審〕(新設)について、積極的に異議を唱えるものではないが、労働審判法における実際の運用には無理があると考える。
 (2) 〔調書の作成等〕(14条関係)について、労働審判規則25条は、審判官が命じた場合だけ調書を作成し、他は経過要領を記録するとされていることから、経過要領の記録も不要となりうる甲案には反対である。

第2 中間試案第1部第6相手方がある非訟事件に関する特則について
   相手方がある非訟事件に関する特則について、以下に述べるとおり、労働審判制度に関する限り、労働審判法及び労働審判規則に定めがあるので、労働審判との関係では特則を置く必要はない。
   仮に、甲案(特則を置く)としても、以下のとおり、労働審判法及び労働審判規則と矛盾する規定については労働審判法において適用除外とすべきである。
 ① 合意管轄については既に労働審判法2条に定めがある。
 ② 事件係属の通知について、既に労働審判法14条1項に「労働審判官は、労働審判手続の期日を定めて、事件の関係人を呼び出さなければならない。」との定めがあり、労働審判規則10条に「裁判所は、法第6条の規定により労働審判手続の申立てを却下する場合を除き、前条第4項の規定により提出された申立書の写し及び証拠書類の写し(これとともに提出された証拠説明書を含む。)を相手方に送付しなければならない。」との定めがある。
 ③ 陳述聴取について、既に労働審判法15条1項に、「労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。」との定めがある。
 ④ 審問の立会権について、労働審判法15条1項や、民訴法の例による証拠調べ(労働審判法17条、民訴法187条の審尋)は、立会を前提としている。
 ⑤ 審理の終結について、既に労働審判法19条は、期日において宣言すべきことを定めている。
 ⑥ 裁判日について、「労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において、審理を終結しなければならない」(労働審判法15条2項)ところ、労働審判手続運用の現状では、労働審判はほぼ期日における口頭告知(労働審判法20条6項)でなされているため、裁判日を予測するための規定は不要である。
 ⑦ 事実の調査について、労働審判規則10条に「裁判所は、法第6条の規定により労働審判手続の申立てを却下する場合を除き、前条第4項の規定により提出された申立書の写し及び証拠書類の写し(これとともに提出された証拠説明書を含む。)を相手方に送付しなければならない。」との定めがあり、同規則20条に「当事者が次に掲げる書面を提出するときは、これについて直送しなければならない。一 答弁書、二 補充書面、三 申立ての趣旨又は理由の変更を記載した書面、四 証拠書類の写し、五 証拠説明書」との定めがあるので、新たな規定は不要である。
 ⑧ 取下げについて、相手方の同意を要するとする意見については、労働審判規則11条が、相手方の同意を要件していないことと矛盾する。
 ⑨ 抗告についての相手方がある非訟事件に関する特則については、労働審判法が、抗告制度ではなく、異議申立てによる本訴移行制度によっていることから、不要である。
                                                                      以上