(意見書)育児介護休業法の改正を求める意見

2003/11/21

育児介護休業法の改正を求める意見

                       2003年11月11日
     日本労働弁護団         
                        幹事長   鴨 田 哲 郎

厚生労働大臣 坂口 力 殿
厚生労働省労働政策審議会雇用均等分科会 御中

 現在、貴庁労働政策審議会雇用均等分科会において、仕事と家庭の両立支援対策が審議されているが、当弁護団は、両立支援の実現には、現行育児介護休業法について下記の改正を行うことが不可欠と考える。仕事と家庭を両立した働き方の実現は、人間らしく生き働くための前提条件であり、また、今後の少子化社会を支える基本である。貴庁および貴会が下記内容についての育児介護休業法改正を早急に進めるよう申し入れる次第である。

1 有期雇用労働者も育児休業、介護休業の対象者とすること
 現行法では有期雇用労働者は育児休業、介護休業の対象者から除外されているが(同法第2条1号)、有期雇用労働者であっても、少なくとも、1年を超える雇用が予定されている労働者(契約期間が1年を超える場合及び契約期間は1年未満であっても1年を超えて雇用の継続が見込まれる場合)及び当該事業主に引き続き雇用された期間が1年を経過した労働者については、育児休業、介護休業の権利を保障すべきである。
 理由:
 有期雇用労働者に育児休業、介護休業を適用しない理由は、両休業が長期休業であって短期雇用の労働者に適用することは馴染まないとされている。しかし、契約上は有期の短い期間が定められていても、実態は、多くの場合において契約更新を繰り返し長期就労となっている(有期雇用労働者の勤続年数は平均4.6年、更新6.1回。平成11年労働省「有期契約労働者に関するアンケート調査」)。少なくとも、上記労働者を休業の対象から除外する合理的理由はない。我が国も批准しているILO156号家族的責任条約は、「すべての種類の労働者について適用」されるのであって、合理性のない除外は条約の趣旨に反するものである。
 雇用者数に占める有期労働者の割合は、近時急激に高まっており(平成4年時は10.3%だったものが平成14年時は13.6%。総務省「労働力調査」)、本年の労基法改正による有期契約の上限期間の延長によって、今後、有期雇用労働者はますます増加するものと予測される。こうした有期雇用労働者を除外することは、両立支援政策に大きな空白部分をもたらすことになる。家族的責任を有し仕事と家庭を両立していく必要があるが故に正社員という「期間の定めのない働き方」ではなく、パート、派遣、契約社員等の「非正規・有期雇用」として雇用・就労する労働者が相当な割合を占めており、これらの有期雇用労働者を適用除外とすることは、育児・介護休業を最も必要としている労働者に対する支援・保護を拒否する結果をもたらしている。参議院附帯決議でも指摘されたように、有期雇用労働者を対象外とする現制度の見直しが急務である。すでに、パートを戦力化している企業(パート・アルバイト等が労働者の半数程度をしめている企業)の26.7%は、有期雇用者にも育児休業制度を適用しており、この事実は、労使双方にとって休業制度の必要性が高いことを物語っている(日本労働研究機構「育児や介護と仕事の両立に関する調査」03.7)。
 また、財源とされている雇用保険では、有期雇用労働者も「雇用が1年以上継続する見込みのある」場合は適用対象とされ保険料が徴収されていることとの整合性も図られなければならない。
 なお、貴分科会での意見のまとめにおいては介護休業の有期雇用労働者への適用問題がふれられていないが、働きつづけながら介護できる条件を整備することを基本としつつ、併せて、例えば、末期看取り休暇や介護の体制が整備されるまでの間の休業など、介護休業も保障していくことが必要である。

2 育児休業期間を延長すること
 現行法の育児休業期間は「子が満1歳となるまで」とされているが(育介法第2条1号)、少なくとも「延長が必要な特段の理由がある場合」には、労働者からの請求により満2歳まで延長できるようにすべきである。
 延長が必要な特段の理由としては、保育園に入園できない場合や子の病気や障害のため当該労働者が休業し育児・看護にあたることが必要な場合等が考えられる。
 理由:
 保育園の入園が4月期に集中しているため、子の誕生月により育児休業を「子が満1歳になるまで」取得できなかったり、休業が終わっても子の保育機関が見つからず仕事の継続に支障が生じるケースが少なくない。また、子の病気や障害により当該労働者による保育・看護が1歳を超えて必要になるケースもある。そこで、かような特別の場合には請求により休業の延長を認めるべきである。
 なお、この延長された期間については、雇用保険により、子が1歳以下の場合と同様の給付が行われるべきである。

3 休業を分割して取得できるようにすること
 現行法では、育児・介護休業は「一つの期間」とされ(同法第5条2項、第11条2項)分割取得が認められていないが、複数回の取得を認め、法定期間を必要に応じて十分に利用できるようにするべきである。
 理由:
 育児においても、介護においても復職時に予期できなかった事情変更がおこることはままあることであり、復職後の再度の取得を認めることにより、育児・介護や仕事の変化する状況に対応した休業取得を可能とし、休業取得や仕事との両立を図りやすくすべきである。

4 男性が育児・介護休業を取りやすい積極的措置を取り入れること
 男性が育児休業・介護休業を取得した場合には、通常の休業期間に加え、一定期間育児・介護休業を別途請求できるものとすべきである。
 理由:
 男性の休業取得率は著しく低く(育児休業で1%以下)、このことは育児・介護の負担が女性にのみ負わされていることを示している。男女が家庭責任と仕事とを共に担い合う社会を実現していくためにも、次世代育成支援法が当面の目標とする男性の10%取得を実現するためにも、男性が休業取得をした場合にメリットを設け、男性の育児・介護への参加を積極的に奨励・誘導していく制度がぜひとも必要である。

5 子の看護休暇制度を設けること
 現行法では、子の看護休暇は事業主の努力義務にとどまり、しかも、期間は子が小学校就学前までであるが(同法25条)、労働者の権利として、少なくとも、子が小学校3年程度まで年間10日間程度(分割取得可)の、年休とは別の、子の看護休暇を保障すべきである。
 理由:
 就学前の子どもがいる雇用者のうち、男性73.7%、女性28.0%が過去1年間に子どもの看護のために仕事を休んだことがある(日本労働研究機構「育児や介護と仕事の両立に関する調査」03.7)。しかし、育児・介護のためであれ欠勤すれば勤務評定上不利益に扱われるなどの支障が生じ、心おきなく休めるためにも法制度が必要である。就学前の子どもがいる雇用者の66.3%が看護休暇制度を求めており(前記調査)、看護休暇は育児を行う労働者の切実な要求である。しかし、法が事業主の努力義務にとどめているため、制度を導入している企業は13.7%に過ぎない。育児支援のためには労働者の法的権利として保障することが必要である。また、対象となる子についても、小学校低学年においては、病気で自宅療養中などの際に育児担当者が付きそうことが必要であることを考慮すれば、少なくとも子が小学校3年程度までは保障すべきである。

6 労働時間の短縮を権利として保障すること
 現行法は、働きながら育児・介護を行う労働者に対する両立支援については、事業主が、労働時間短縮・フレックスタイム制・時差出勤・所定外労働の制限等のうち1つを選択して行えばよいものとし、しかも、育児にあっては子が3歳以上(小学校就学の始期に達するまで)、介護にあっては3ヶ月を超える期間については努力義務とされている(同法24条)。
しかし、所定労働時間の一定割合までの労働時間の短縮を、労働者の権利として保障すべきである。また、対象となる者も育児については小学校3年程度まで、介護についての期間は少なくとも6ヶ月までとすべきである。
 理由: 
 家族的責任と仕事との両立支援の基本は、働きながら育児・介護を行うことを可能とするための支援策の構築であり、その中心は必要に応じた勤務時間の短縮である。フレックス制も時差勤務も総所定労働時間が短縮されるものではなく、ましてや所定外労働の制限は支援策とは評しえないものであって、労働時間短縮を基本にこれに付加されるべきものである。ところが、現行法では、労働者が労働時間短縮を求めても、事業主が同意しなければ認められず、極めて不備である。少なくとも、所定労働時間の一定割合までの労働時間短縮を休業と同様に、権利として保障すべきである。

以  上