(決議)コース別男女賃金差別事件の東京地裁判決に抗議し,性差別を是正し救済する役割を司法に求める決議

2003/11/8

コース別男女賃金差別事件の東京地裁判決に抗議し,性差別を是正し救済する役割を司法に求める決議

1 コース別人事制度は違法と提訴されていた兼松男女賃金差別事件において,東京地方裁判所(民事第19部)は,11月5日,原告らの請求をすべて棄却する判決を出した。
 原告ら女性労働者6名(1957年~1982年入社)は,会社が1985年に職掌別人事制度を実施し,それまでの男性賃金表を「一般職」賃金表,女性賃金表を「事務職」賃金表とし,一律に男性は「一般職」、女性は「事務職」として,女性には男性より著しく低い賃金を支払ってきたことは,労働基準法4条に違反する不法行為,または性を理由とする配置差別として民法90条の公序良俗に反する不法行為であると主張して,1995年に提訴し,1992年4月以降の賃金差額,慰謝料の支払を求めていた。

 しかし,11月5日の東京地裁判決は,原告らが担当した業務には貿易実務や経理実務についての知識経験が必要とされるものが相当あり,定型的・補助的業務ばかりに従事していたとはいえない,会社が原告らを定型的・補助的業務に従事するものとして採用したとはいえないとしつつ,原告ら入社当時,会社は,男性は主に処理の困難度の高い職務を担当する者として処遇し,女性は主に処理の困難度の低い職務を担当する者として処遇することを予定して,男女別の募集,採用をし,入社後の賃金も男女のコース別に決定されていたとしたうえ,男女のコース別の採用,処遇は,憲法14条の趣旨に反するが,労基法3条,4条に直接違反せず,公序に反するとまではいえないと判断した。

 また,1985年の職掌別人事制度の導入は,男女コース別の処遇を引き続き維持するためのものであるが,1985年制定の旧均等法は配置,昇進の差別について努力義務に止めており,旧均等法が制定,施行されたからといって,男女のコース別処遇が公序に反するとまではいえないと判断し,改正均等法(1997年6月制定,1999年4月施行)は配置,昇進差別を禁止したが,会社が1997年に改定した職掌転換制度は本人の希望と一定の資格要件を満たせば受けられるもので合理的であるから,会社の賃金体系が公序に反する違法な女性差別であるとはいえない,と判断した。なお,女性として差別された賃金を55歳以降さらに20%減額されたことは違法と主張していたことについても,判決は,公序に反しないし,労働協約は原告に及び,就業規則の変更にも合理性があると判断した。
 このような東京地裁の判決は,会社が男女差別を原告ら入社以来一貫して行ってきたことを認めつつ,男女賃金差別は入社当時違法でなかった採用差別の結果であるから違法な差別ではないという理屈によって使用者の差別行為を免罪し,差別されてきた女性の救済を全て否定しており,社会的常識からかけ離れたものである。

 雇用における男女差別については,1960年代後半以降の結婚退職制,若年定年制事件の判決をはじめ,1990年代の日ソ図書事件や三陽物産事件等の賃金差別事件判決,そして,
昇格差別についての2000年の芝信用金庫事件東京高裁判決と2002年最高裁和解などにみられるように,司法は,立法の不備を補い,性差別の是正と救済を前進させてきた。このような女性労働者の闘いと裁判所の判決が,均等法制定やその改正という成果に結びついている。
 しかし,1985年の均等法制定に対処して男女別賃金を引き続き維持するために多くの企業が導入したコース別人事制度のもとで男女間賃金格差は拡大しており,ILO条約勧告適用専門家委員会や国連女性差別撤廃委員会も,わが国のコース別雇用管理の問題について懸念を表明している。コース別の名による男女賃金格差の解消はわが国の男女賃金格差是正の最大の課題の一つである。

 ところが,使用者が原告ら入社当時は男女で採用手続が違うと主張した賃金差別訴訟において,大阪地裁住友電工事件判決(2000年7月31日)及び東京地裁野村證券事件判決(2002年2月20日)は,男女賃金格差は採用差別の結果であるからという理屈で労働基準法4条違反を否定し,憲法14条の趣旨に反するが公序違反でないとして,男女差別の是正と救済を否定する基本的立場に立った。東京地裁野村證券事件判決は,改正均等法施行以降は配置差別として違法になるが,改正均等法施行以前は公序に反しないとし,ごく一部の救済しか命じなかった。東京地裁兼松事件判決は,同じ基本的立場で,しかも,職掌転換制度が改定されたから改正均等法施行以降も公序に反しないとして野村證券事件判決よりも後退し,差別の救済を一切認めなかった。

 性の違いによる雇用差別は,人間の尊厳を踏みにじるものとして許されないものである。賃金差別や昇格差別が違法であることは確立されている。しかし,使用者が女性は男性と差別するものとして当初から予定して採用したのであれば,男女コース別の採用であり採用差別の結果であるから賃金差別でも昇格差別でもないとし,公序違反でもないという,これまでの判決にみられる考え方は,労働者の採用後から差別を行ってきた使用者には差別の是正と救済を命じるが,労働者の採用時からより露骨な差別を行ってきた使用者は免罪するという,極めて不合理な結果を生じさせるものである。社会的常識からかけ離れているこのような考え方は,憲法,労働基準法,均等法,民法の解釈を誤っているといわざるを得ない。
 このような判決は,日本の司法には性差別を是正し救済することを期待できないことを社会に向かって宣言することに等しい。司法が,わが国の男女賃金格差の解消に寄与し,性差別を是正し救済する役割を果たすことを強く求める。

2003年11月8日
日本労働弁護団第47回全国総会